罪人の一族
「聖女を殺した一族って、何?」
視界が歪んでよく見えないが、彼女は、きっと、怯えたような目で僕を見ている。
僕が下を向いていると、近衛兵に顔を蹴られた。
「ほら、聖女様が聞いてるぞ、答えろ」
「カインに乱暴しないで!」
どうして彼女は、殺されかけたのに、僕を守るんだろう。
……ああ、あんまり痛めつけると、近衛兵を振り切って、また君を殺そうとするかもしれないもんな。
そうであってくれ。
「数百年昔、僕の祖先は、大昔、初代聖女様と結婚していました」
まだ言い合っている彼女を制するように、僕は彼女に向けて語り始めた。
彼女は僕の方を向き、僕の言葉に耳を傾けていた。
王国の中枢と僕らの一族だけが知っている、本当の聖女の歴史を。
「お二人はとても仲が良かったと聞いています。ところがある日、瘴気の影響で、祖先は怪物へと変貌しました」
「そして、傍で支えてくれた聖女様を、爪で一突きしました」
「怪物は王国のおかげで仕留めることができましたが、聖女様はそのままお亡くなりになりました」
「瘴気は人を怪物へと変貌させる。怪物の血を引いている僕ら一族は、瘴気を身体に吸収できる」
「そのため、僕ら一族は罪滅ぼしのために、瘴気を一身に引き受けるのです」
僕が話し終わると、部屋中から拍手が聞こえた。
流石器だ、よく覚えて、自分たちの罪をしっかり理解している、などと聞こえてくる。
ああ、耳が、気持ち悪い。
玉座の脇に控えていたあの男だけが、手を叩いていないことに気づいた。彼はただ、査定でもするような目で僕を見ていた。
「さて、今回の罪は重いぞ。一旦牢屋にでも放り込んでおけ。まだ完全には怪物にはなっていない。何か使い道があるかもしれん」
あの男の声だった。感情の乗らない声が、やけに耳に残った。
近衛兵が僕を乱暴に立たせる。
もう、どこでもいいから連れてってくれ。
「待って!私まだカインと話したいことがっ!」
彼女は近衛兵を振り切り、こちらへ走ってきたが、僕の手が届きそうな範囲まで来ると、ビクッと歩みを止めた。
「無理しなくていいんですよ。怖いんですよね、僕が」
「そ、そんなこと……」
彼女から、否定の言葉は出てこなかった。
もう、どうでもいい。
「近寄らないのがその証拠だよ。それじゃあ、さよなら、聖女様。もう会うことはないだろうけど」
彼女は、もう追いかけては来なかった。
ふと思い出す。ブレスレットは、どこに落としたんだろう。
……いや、もうあれも必要ない。一生一緒にいることなどないのだから。
「ほら、早く入れ!」
独房の空気は、冷え切っていた。
ここは窓も、何もない。
先程までの部屋との違いを思い出し、僕は笑みがこぼれた。
ガシャン、と重い鉄扉が閉じられた。
***
カインが連行されて、どのくらいが経っただろう。
私――ミアは、自分の部屋からずっと動けないでいた。
カインは、本当はずっと何を思っていたんだろう。どうして私は、怖くないって言ってあげられなかったんだろう。
手首で光っているブレスレットが、急に安物に思えた。
嘘だ。怖くないなんて言ったら嘘になる。
本当に怖かった。私の知っているぶっきらぼうだけど優しいカインは、嘘だったんじゃないかって。
……でも、どうしても、さよならのときの彼の辛そうな顔が忘れられない。
本当に殺したかったら、あんな顔をするだろうか。
分からない。けど、
私は、無我夢中で走り出した。
今更追いかけてもカインには追いつかないかもしれない。でも、どうしても追いかけたい。
私は、カインにまだ伝えたいことがあるの。
城中走り回ったけど、やっぱり、もうカインはどこにも見当たらない。
何か、何かカインに繋がるものはないだろうか。
廊下を見渡すと、床に光るものが落ちているのを見つけた。
「……これって」
それは、カインにあげたブレスレットだった。
「どうしてこんなところに?」
私は、ブレスレットをそっと拾い上げた。
ブレスレットを拾うと、何か汚れが付着しているように見えた。
私は、近くの窓で月明かりに照らしてよく見てみた。
すると、その汚れは血痕だった。
「カイン、ずっと、苦しかったのかな……」
カインはきっと、怪物化の影響で、何度も苦しい思いをしてたんだ。
私はそんなことに気づかず、呑気にこれからのことなんて語って……。
私の頬に、冷たい水が伝った。
いや、今更過去を嘆いたって仕方ない。
これから!私が!カインを苦しみから救うんだ。
それに、カインの話にはどうしても、納得できないことがある。
そもそも、何故カインの一族は瘴気を吸収できるのか。
聖女様の夫だとしても、初代なら彼女が吸収できなければおかしい。
「もしかして、誰かが何かを隠してる……?」
カインを救うために、まずは、この違和感が正しいのか探ってみる必要がありそう。
待っててねカイン。私が、絶対に苦しみから救ってみせる。




