第6話 絶対に会わせてはいけない
酒場のドアが開き、新しいお客さんがやってきた。
「いらっしゃいませー」
笑顔で声をかける。
だが、そこに立っていた男の服装に、私は二度見、いや五度見くらいした。
男は真っ黒な色の作業服を身に着け、胸にはでかでかと汚い字で『勇者』と書かれている。
勇者!?
クズで特殊詐欺グループリーダーの、あの勇者!?
しかも黒の作業服。
一番の凶悪犯でさえ赤色なのに、黒って!
一体何やらかしたらあの色の作業服を着せられるの!?
私はゆっくりと深呼吸をした。
落ち着こう。
いま考えなければいけないことはただ一つ。
このドクズ勇者と魔王様を、絶対に会わせてはいけない!
さんざん魔王様をひどい目に合わせてきたこいつのことだから、ここで会ったら何をしでかすかわからない。
それに魔王様だってこいつのことを心底憎んでいるみたいだし、もし勇者がいるって気づけば、本当に大惨事になってしまう!
「お、お客様、こちらの席へどうぞ〜」
一般炭鉱夫が座る席と、労役組が座る席のちょうど真ん中に勇者を座らせる。
ここなら魔王様は背中を向けているから、勇者には気づかないはず。
「お決まりの頃にまたまいります!」
「いやもう決まってる。魔王の刺身をーー」
「ございません!」
お前もか、勇者よ!
同じボケをかましてくるんじゃない!
私は食い気味で遮る。
が、少し遅かった。
「いま誰か私の名を呼ばなかったか?」
魔王様が不思議そうな顔をして辺りを見回す。
私はとっさに赤い作業服の労役囚(クズ共)に視線を送り首を振った。
クズ共も察したのか、勇者の方を振り向こうとする魔王様の肩に手を回した。
「俺たちと飲もうぜ、まお……まー君」
「まー君とは誰だ。私の名は魔王だ」
だめだって、魔王様!
勇者に気づかれるから!
それにいくら名前がないからって、自分で魔王って名乗るのやっぱ変だわ!
「お、おいおい! 仲良くなったやつとはあだ名で呼び合うのがここのルールだぜ」
ナイスアシスト、クズ!
「ん? いまあっちのテーブルから魔王って聞こえた気がするんだけど」
「ご注文はお決まりですかあ?!」
立ち上がって覗き込もうとする勇者の顔面に、私はメニュー表をめり込むくらいに押し付けた。
「近い近い! 見えないって!」
「あ、すみまーん! ついうっかり」
テヘっと渾身のドジっ子キャラを演じて勇者の意識を魔王様から逸らす。
それなのに、魔王様が言うことを聞いてくれません!!!
「いや、炭鉱などの危険作業をする場合、あだ名で呼び合っているといざという時に身元の特定が遅れてしまう。安全のためにも、本名で呼び合う方がよかろう」
真面目か!
いや分かるよ。危険だもんね。安全第一だよね。
でも、いまこの場が炭鉱よりもどこよりも危険なの!
わかる!?
クズはすっかり言い負かされて「そうか……?」と受け入れてしまった。
「徹底した安全対策こそが我々の未来を作るのだ。明日もご安全に!!」
ご安全に! じゃないでしょうが!
「おい、あいつなんか変じゃねえか?」
勇者が立ち上がった。
まずい!
次回、『100発100中の名手』あるいはアゴ




