第5話 やることはやっている
魔王について私が知っていることは、世界を滅ぼそうとした極悪人ということだけ。
でも実際に目の前にいる魔王は、そんなこと絶対にしそうに見えない。
優しくて紳士的で、誰に対しても公平で、なにより顔がいい。
そんな人が悪いことなんてするはずがない。
「あの、魔王様って本名はなんていうんですか」
私は思い切って魔王に訊ねた。
「これが本名だ」
「え? 魔王がですか?」
「ああ。子供のころ親に捨てられ、名前もなく一人で生きてきてた。いつのころからか魔王と呼ばれるようになり、それが私の名前になった」
それは……なんとかわいそうな子供時代を送ったのだろう。
「うっ…うっ……」
クズの一人が泣き出した。
「馬鹿にして悪かった!」
「いいんだ。たいしたことじゃない」
「でもなんであんたみたいないいやつが、魔王なんて呼ばれてるんだ」
そう、私もそれが知りたかった!
一人で懸命に生きてきた幼い子供がなぜ魔王なんて呼ばれるのよ!
「そうだな……」
魔王は思い出すように遠くを見た。
「私を最初に魔王と呼んだのは、勇者だった」
「え?」
「勇者は近所に住む子供で、その町一番の悪ガキだった」
「え!?」
ちょっと待って!
魔王と勇者は、幼馴染ってこと?
「あいつは町中で悪さをし、それをすべて私のせいだと主張した」
「はぁ!?」
「親もなく、人とかかわることもなく生きてきたから、町の人々は勇者の言い分を信じ、私はすべての悪事の犯人に仕立て上げられた」
「ひどすぎるだろ! なんだそのクソガキ」
「どこが勇者だよ! そいつこそ魔王じゃねえか!」
なんだそいつマジで。
何が勇者だ。
おのれ勇者め、ただじゃ置かないんだから!
「でもよ、三年前の魔王討伐ってなんだったんだ?」
「そういえばそうだな。勇者が魔王を倒したってんで、大々的に城の周りでパレードしてたよな」
「あれは勇者の自作自演だ」
「は!?」
魔王はさらに遠い目をして続けた。
「大人になった勇者はさらに悪事に手を染めていった。魔法使いや弓使いなどの仲間を集め、町の年寄りから孫のふりをして金をだましとり、若者を相手に耳障りのいい儲け話をして金をだましとった」
なんという卑劣なことを!
オレオレ詐欺にネットワークビジネスじゃないか!
あまりにもひどすぎる。
というか、魔王を倒した勇者一行の魔法使いや弓使いって、悪事の仲間だったの!?
まんま特殊詐欺グループでしょうが!
こわっ! 勇者一行怖すぎるって! ある意味本当に伝説の勇者だわ!
「私はいくら汚名を着せられても構わない。だが、お年寄りを大事にしないやつを許すことはできん!」
魔王は拳をテーブルに叩きつけた。
なんて素敵なの。正義感にあふれて心優しい魔王様!
「私は勇者一行を倒し悪事をやめさせたが、一度広まった噂は消えなかった。だが私は極悪非道の魔王という名を背負いながらも、町の平穏が守られたことにほっとしていた。しかし勇者は国王までもをだまし、魔王を倒したと吹聴して報奨金を得たと聞く」
「なんて野郎だ!」
「私、いますぐ国王様に会いに行くわ! 魔王様は冤罪だって伝えてくる!」
本当にいますぐに飛び出していきたかった。
魔王様が逮捕されて労役をさせられるなんておかしいじゃない!
捕まるのは勇者の方よ!
話を聞いていた労役組の皆も立ち上がった。
「俺たちからも言ってやるよ! お前は無実だって」
「皆、落ち着け。私は別に冤罪でここにいるわけではないのだ」
「え?」
「腹いせに、勇者の家に火をつけたからな」
魔王がにやりと笑う。
「やつが大事にしていた大人の写真集以外すべて燃やしてやったわ! 焼け跡にはやつの恥ずかしいお宝だけが残っただろう!」
はっはっはと愉快そうに魔王は笑った。
なるほど。
やることはやってるってわけね。
その時、酒場のドアが開いた。
次回 『第6話 絶対に会わせてはいけない』




