第6話 ドラゴン君なかなか帰らず
ドラゴン君が「在るべき場所」へ向かってから、しばらく。
……なかなか、帰ってきません。
今回も魔王軍は平常運転です。
ゆるく読んで頂けると嬉しいです。
ドラゴン君なかなか帰らず
在るべき場所へ向かってしまったドラゴン君は、魔王達の予想に反してなかなか戻って来なかった。
ーーー
魔王
「ドラゴン君はまだ帰ってこないのか?」
悪魔魔道士
「はい。そうなんですよ」
魔王
「本当に裏切ってないかの? ちょっと心配じゃの」
悪魔魔道士
「それなんですが、人間領でドラゴン君らしき目撃情報がいくつか上がってまして」
魔王
「そうなのか?」
悪魔魔道士
「はい。順番に説明しますね」
魔王
「うむ」
悪魔魔道士
「えー、まずは最初の報告です。山奥の山村に、自分のことを『聖なるドラゴンだ』と自称する謎のドラゴンが降臨したと。ただ、ドラゴンから禍々しいオーラが放たれているため、村民も混乱しているそうです」
魔王
「ドラゴン君じゃな」
悪魔魔道士
「ドラゴン君ですね」
魔王
「ふむ」
悪魔魔道士
「その後、『ここではなかったか』と言って飛び去ったそうです」
魔王
「何がしたかったんじゃ」
悪魔魔道士
「崇めてほしかったのでは? ですが、村民が訝しがって誰も近寄らなかったそうです。つまらなくなったんじゃないですかね」
魔王
「まぁ、2才じゃからの」
悪魔魔道士
「次の報告です。ドラゴン君とおぼしきドラゴンが、泉で疲れを癒しているところ、不思議な雰囲気の少女と出会ったそうです」
魔王
「よくありそうな話じゃな…」
悪魔魔道士
「その後、なんやかんやあって二人で村を救ったそうです」
魔王
「どうやって救ったんじゃ?」
悪魔魔道士
「魔王様、ちょっと楽しくなってませんか?」
魔王
「そ、そんなことはないぞ!」
悪魔魔道士
「そうですか……。まあ、端的に説明します。その村は、植物が育たない呪いがかかっていて、飢餓に苦しんでいたそうなんです。そこで立ち上がった二人が、大冒険の末《呪いの杭》を抜くことに成功したみたいです。《呪いの杭》が抜かれたあと、花が一面に広がり、生命に溢れた果実が実ったとのことです」
魔王
「良かったの」
悪魔魔道士
「私たちの立場からすると何とも言えないですが……。ちなみに、ドラゴン君が通った跡は、花が枯れていたみたいです」
魔王
「闇属性じゃな」
悪魔魔道士
「闇属性ですね」
悪魔魔道士
「その後、また無言で飛び去ったそうです」
魔王
「何があったんじゃ?」
悪魔魔道士
「少女から『お母さんが、ドラゴンは飼っちゃ駄目だって』と言われたそうです」
魔王
「切ないの」
悪魔魔道士
「次が最後の報告です」
魔王
「もう最後か」
悪魔魔道士
「やっぱり、楽しんでるじゃないですか」
魔王
「い、いや」
悪魔魔道士
「まだいくつかあるのですが、長くなるので割愛です」
魔王
「あとで報告書を見せてくれ」
悪魔魔道士
「はい……続けますね。最後にドラゴン君とおぼしきドラゴンの目撃情報があったのは《聖龍の祠》です」
魔王
「なんとなくオチが読めるの…」
悪魔魔道士
「オチ? ……まあいいです。ドラゴン君は『ここか…』と言って、祠に入ろうとしたそうなんですが……」
魔王
「ちょっと待ってくれ。もうドラゴン君と特定しとるじゃないか? さっきまでは一応『ドラゴン君とおぼしきドラゴン』と。それに、最初から報告が詳細すぎる……お主、泳がせて楽しんでおったな……」
悪魔魔道士
「そ、そんなことはないですよ」
魔王
「本当かのぉ……」
悪魔魔道士
「つ、続けます。ドラゴン君は祠に入ろうとしたんですが、見えない壁につかえて、入れなかったそうです」
魔王
「聖なる結界じゃな」
悪魔魔道士
「聖なる結界ですね」
悪魔魔道士
「爪でほじったり、ブレスで炙ったり、オリジナルの呪文を詠唱してみたり、変顔してみたりしたそうなんですが、祠には入れなかったそうです」
魔王
「変顔もしたのかぁ……」
悪魔魔道士
「その後、一時間くらい虚空を見つめたあと、無言で飛び去ったそうです」
魔王
「ドラゴン君……」
悪魔魔道士
「『その後ろ姿は寂しそうだった』と」
魔王
「なるほどのぉ……それで、結局帰ってきそうなのか?」
悪魔魔道士
「そうですね。飛び去った方向が魔領域の方角だったみたいなので、そろそろ帰って来るかと思いますよ」
魔王
「そうか。では優しく迎えてやらねばな。ドラゴン君の『在るべき場所』は、ここじゃからの」
ーーー
その後、魔王たちの心配をよそに、ドラゴン君は何事もなかったように帰ってきた。
……別の話だが、ドラゴン君が出会った少女が、いずれ最強の竜騎士となることを、魔王軍は知らない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ドラゴン君、絶賛寄り道中です。
魔王軍は今日も世界征服より先に、
いろいろな問題を抱えております。
よろしければ、ブクマや評価で応援していただけると励みになります。
次回も引き続き、ポンコツ魔王軍の日常をお届けします。




