第33話 侵食
今回は、セイラに危機が訪れる話です。
ゆるく読んで頂けると嬉しいです
その日、魔物達は武器や防具を身にまとって出兵の準備をしていた。
「セイラちゃん行ってくるよ」
「帰ってきたら、魔饅また作ってよ」
魔物達は、セイラを見つけるなり声をかけてきた。
「うん、みんなあまり無理しないでね」
「大丈夫、大丈夫俺たち無敵だから。なぁ」
「違いない。ははは」
「……」
『頑張って。』その一言が口に出せなかった。
「じゃあ、行ってくるよ」
「……うん」
セイラは、徐々に小さくなっていく背中が見えなくなるまで、その場から動けなかった。
「行ってらっしゃい……」
数日後ーー
「兵士達が帰ってきたぞ」
けたたましく鳴り響く角笛の音。城門が開かれる軋んだ音との不協和音は、まるで断末魔の悲鳴のようだった。
セイラは反射的に走り出した。
戦場から戻ってきた魔物は皆痛々しかった。兜はひしゃげ、布は裂け、包帯は赤黒く染まっていた。
「……セイラちゃん」
出兵の際、セイラに声をかけた魔物だった。
「……凄い怪我……こんな……」
「……だ、大丈夫さ……無敵だって……言ったろ……」
魔物はそう呟くと、少し笑ったのち地に伏した。
「誰か!早く手当てを…誰か!」
「セイラちゃん……そいつはもう……」
セイラには、泣きながら骸となった魔物を抱きしめることしか出来なかった。
いずれ、こういう日が来ると頭ではわかっていた。しかし、目の前に広がる現実を受け止めるには魔物達のことを知りすぎてしまっていたのかもしれない。
それは、セイラが知った光が落とした影だった。
「セイラさん……」
泣きじゃくるセイラの肩に、優しく手が置かれた。
「……悪魔魔道士さん」
「……あとは任せて…亡骸は手厚く葬ります」
「……うん」
「部屋にお戻りなさい」
「……」
セイラは泣きはらした目を擦ると、力なく部屋へ戻って行った。悪魔魔道士は、そんなセイラを見つめながら、一つの不安を抱いていた。
(……セイラさんの体から……あれは、魔の気配……侵されてる?)
数刻後、魔王自室ーー
「……」
「どうした……今日は静かだな?」
「……うん、しかたないことはわかってるんだけど……目の前にすると……こんなこと」
「初めてか?」
「……うん」
「わしは、繰り返してきて…次第に何も感じなくなった…慣れるよ」
「……嘘……あなたいつも苦しそうじゃない……それに……慣れちゃ駄目だと思う」
「……」
「人も、沢山死んだのね」
「しかたないことだ……戦争だから」
「……しかたないこと……そうね」
セイラは唇を噛み締めた。
脳裏に浮かんでいたのは、自身の腕の中で事切れた魔物と、故郷の人々の姿だった。
魔王はそんなセイラの姿から、目を背けることしか出来なかった。
「……私、分かってるの。どっちがいい悪いなんて単純じゃないって……ここに来て、みんなが笑って、働いて、くだらない話して……知ってしまったから」
セイラは手を胸に当てた。鼓動がいつもより早く脈動するのを感じた。
「変えたいけど……私じゃ……何も変…えられない」
「……そんなことは……」
魔王の血が凍った。
振り向きざま、魔王の視界に入ってきたのは、胸から黒ずんだ闇が広がっていくセイラの姿だった。
「セイラ!」
「……えっ?……わたし」
次の瞬間、セイラはゆっくりと倒れていった。
「これは……魔に侵食されている……」
急いで、セイラを抱き起こした。息は弱く、体から熱を感じない。
「セイラ!目を開けろ」
セイラを覆う闇は、徐々に広がって行く。
「……セイラ」
バタン。
誰かが勢いよく扉を開ける。悪魔魔道士だった。いつもは、静かに開けられる扉に、その重大さが感じられた。
「魔王さま!」
「……悪魔魔道士か。……分かるか?」
「……これは……やはり……急いで医務室へ」
医務室ーー
「セイラは……どうなんだ?」
今まで、誰にも見せたことがない表情だった。しかし、悪魔魔道士に驚きはない。
「セイラさんには、魔王様の闇が強すぎたのです……彼女の中に蓄積された闇の因子が、負の感情の高まりを引き金にして溢れてしまった……」
「……助かるのか?」
「……このままでは……死んでしまいます……侵食の早さからすると……明日の明け方には……」
「助けられないのか?セイラを人間領に戻せば……わしから離れさせれば」
「駄目です……この闇は魔王様と繋がっています」
「……そんな」
悪魔魔道士は、ポツリと呟いた。
「……封印」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回は2章完結になります。
よろしければ、ブクマや評価で応援していただけると励みになります。




