第32話 マレクとセイラ
今回は、ロマンス回です。
ゆるく読んで頂けると嬉しいです。
爽やかな風が抜ける。
そこは暖かい木漏れ日が差す、心地の良い場所だった。泉には光が反射し金色に見えた。
「きれい…こんなところが魔領域にあったなんて……」
「……うむ、ここは恐らく……伝説の泉だ」
魔王は狼狽えた様子だった。セイラは、そんな魔王の姿を見るのは初めてだった。
「ねぇ、ここは危険な場所なの?」
「……いや、むしろ安全というか……」
魔王は言いかけて、息を飲み込んだ。
「わしがここに来ることになるとは……それもお主と……」
「ねぇ!だから何なの?」
「……城の者に聞いたことはないか?……その……なんだ…恋のな…うむ」
「んっ?」
セイラの脳裏に、悪魔魔道士との会話がよぎった。
『魔領域に、結ばれる運命の二人しか行けない泉があるんですよ』
『へー、意外にロマンチックなところがあるのね』
『そうですよ。私もいけたらなぁ』
『ふーん、私には縁がなさそうな話ね』ーー
「……ここって」
事実に気が付いたセイラの顔は、のぼせ上がったように赤く染まっていた。
「どうやらそういうことのようじゃ……」
「……結ばれる……ってことかしら?」
「……みなまで言うな」
気まずい空気が二人を支配した。
「ねぇ……」
初めて出会った日とは逆に、沈黙を破ったのはセイラだった。
「この泉本当にきれいね……私、魔王城に連れて行かれて……最初は凄くいやだった。早く帰りたかった。けど……」
セイラは、泉に写る魔王を見つめていた。
「寂しそうなあなたを、見ているうちに……取りとめのない話を、あなたとしているうちに……あなたに助けてもらって、あなたの胸にうずくまって……思ったの…魔王城にいたいって」
「……人間の世界には未練はないのか?」
「あるよ……本当は恨みだって……でも……あなたのことを……」
セイラの瞳から、涙がこぼれ落ちた。
「すまなかったな……ありがとう」
そう言うと魔王はセイラを抱き寄せた。二人に、それ以上の言葉はいらなかった。
気が付くと、二人は元いた森に戻っていた。
「帰るか……城へ」
「うん」
「そういえば…」
「何?」
「お主に、わしの名を言ってなかったな」
「魔王じゃなかったの?」
「それは肩書きだ。わしの名は『マレク』という」
「ふーん……まっちゃんね」
「なんだそれは?」
「あだ名よ。親しみがあっていいでしょ?」
「やはり、お前といると調子が狂う」
「ふふ。運命の二人なんだから多めに見てよ」
城に戻った二人は安堵した悪魔魔道士と、申し訳なさそうにするゴブリンとマミーに迎えられた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。色々ありすぎて、お花は後日摘みに行くことになりました。
よろしければ、ブクマや評価で応援していただけると励みになります。




