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アンブレイカーズ  作者: MRプロジェクト(詳しくはプロフィールにて)
第4章「原点回帰の一歩先を」

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24/35

「24」約束を守る男、約束を守らない女

[怪獣ノア]の特別討伐隊が組まれる中[怪獣ノア]が突然姿を眩ませた。いや[怪獣ノア]だけではない。追跡調査をしていた[怪獣]99体が途端に映像から消え去っていた。


嫌な静寂が予測させる最悪の風味が場の苦味となって面々の舌の中で転がっていた。


そうして12月の月初め、大怪獣警報が鳴り止んだ10時の刻。


答え合わせは予想通りで、しかしそれこそが一番最悪な展開だった。それも、その事態を観測し判断したのは〈東京〉が一瞬で崩壊し、大怪獣が次の〈都市〉へと向かい始めた時だった。



大怪獣が現れたのは10時01分、〈東京〉中央区上空。アンブレイカーズ本拠地を据える〈東京〉の中核に、直径約85mの影が淡い光を纏いながら予兆もなく降り堕ちた。


「出現個体」[大怪獣Cc0001]


空の暗さを感じて間も無く、様々な協力を経て完成させていた兵器完備の東京内周防護壁は大怪獣の降下中に放たれた大熱戦に焼かれ砕け、そこで防衛任務に就いていた人間、そして瞬く間に破壊されたアンブレイカーズ本拠地に勤務していた整備士や管制局員、運送隊、治療医等の後方支援員がまとめて潰えた。


――そして大怪獣撃退作戦待機中の隊員への通信元は〈神奈川〉へ。


完全な状況把握と隊員の緊急合流地点への移動で5分。作戦変更に1分。指示に伴う移動で4分。計10分の実質的行動不能の時間で〈東京〉は死者と瓦礫の巨大な塵山となっていた。


ただ、ある意味で予想外の収穫があった。


それは出現した大怪獣が[大怪獣Cc0001(・・・・・・)]である事。つまり、討伐されたと思われていた大怪獣は生存していたものの、観測上の情報がかなり出揃っている相手。


[大怪獣Cc0001]能力【適応】。


立ったウサギの様な見た目で、背面には非活動の6本の腕が生えている。


基本的に白青色の長い体毛の上を金属質で浅黒い黄色の鱗が覆っており、また、怪獣、大怪獣の硬質体と脳の中にしか無いはずの脳核が胸部から大きく露出しており、その脳核の大きさは頭部に収まりきらない。


体の構成傾向は腕(直径33m)を例に、鱗の頂点より5m進むと弾力性の高い皮膚が現れ、更に3m進むと密な筋肉へ到達する。そこから10m程度で骨へ当たり、15m進む事で向かいの筋肉に到達する。全身も同様の構成で、骨太だが重量の割合は筋肉のウェイトが大きい。


加えて非活動性の腕も相まって重量が非常に重くなっており、歩行速度が大怪獣の中でも時速6kmと人より少し速い程度でかなり遅い。逆に言えば進行速度が遅く対応に時間を割けると言う事なのだが、そんな人間側のアドバンテージを大怪獣が使役している怪獣が保有する【転移能力】で帳消しにされてしまっている。


大怪獣の足元で円形に隊列し守護する怪獣達。総勢100体。各個体が20m超えで物質系が殆どを占めるものの幾匹は液体系や気体系。そんな厄介な現状に生き残った者は頭を抱える。



12月02日0時。

総歩行距離84km――第2アンブレイカーズ大拠点がある〈神奈川〉まで残り66km。


大仰で強烈な地震を引き起こす足音は正に[大怪獣Cc0001]の進撃軍歌。それに仕えるは百獣による夜行行脚。この全ての怪獣が【能力】を有している事を人間は誰も知らない。


だがそれを知らずともアンブレイカーズは全てが【能力】保有個体である事を前提に作戦を立て、怪獣の分断討伐作戦を発足。各地点に最上位を割り当て作戦の準備を開始させていた。



12月02日 時刻3時36分。

冬が極まるにはまだ早い寒さ。

けれど厚着をして手を擦らないと寒さに唸りそうな寒さ。

月は息を潜め、風もそれに倣う様に静かに寝入っている。


深海のような空に浮かぶ星は星が星とに連なり合って味気ない闇を照らしている。


「甘井隊長はヒーローをどのように捉えていますか」


百獣夜行の経過点に先行して幾つか拠点を構築する作戦、その第1拠点の管轄統率長を担当している最上位アンブレイカーズ10位 甘井楓。


各地から召集された8400人強のアンブレイカーズ部隊員を最上位計4人で指揮し迎撃の準備の忙しなさが落ち着いたのはつい今さっき。

しかしその静けさに虫の音色は飛んでいない。


その嫌な空気が睡眠時間が2時間ばかりしかないというのに甘井の寝つきを悪くしてしまい、深夜の巡回警備中の一般隊員と合流して話していた。

そんな中での話題が1つ。

甘井はヒーローの概念には1つ決めている事があった。


「まぁまず、自己犠牲はヒーローじゃないよね」


暗視ゴーグルの隙間が痒くなって少しかきながら甘井は続ける。


「ヒーローって外国から入ってきた概念だけど、その意味は自己犠牲を賛歌する、所謂英雄って言葉でしかなかった。昔はみんなそれを良しとしてたけど私は昔っからその意味合いが嫌いだった。けど赤井くんがアンブレのトップに君臨するや否やヒーロー像というものを塗り替えてくれて、嬉しくて……少し話が逸れたか。まぁとにかくヒーローは自分と他人を救ってこそだよ。そうやって大手を振って多くの人に賞賛される時こそがヒーローになれる時だと考えてる。救い手と救われ手の命と賞賛がないならば、それはヒーローじゃない。愚者だよ」


そんなヒーローの考え方に一般隊員は興味津々で質問をして話を広げていった。

そして気づけば巡回の始点に戻ってきていた。


「んじゃ少し眠るよ」

「ありがとうございました!!」

「はーい……――」


甘井は目を瞑りながら踵を返したがすぐに人の足音を聞いて目を開けた。


「あー。なんだ、オレオくんか。ちっすちっす」

「お前がそれ言ったらもうそのあだ名を止めれねぇよ俺には」

「ははっ。悔しかったら最上位に来なー。オーレオッ」

「家にいたらケツぶっ叩いてるよ、外にいる事を感謝しやがれドチビ」

「うわぁ、ひどーい。チビじゃないよ150センチなんて普通でしょ?」

「180センチからしたらドチビだよ」

「このでくの坊。DV発言もしてくるし、もう知ーらない……結婚だって考えてたのに」


しかし言葉とは裏腹に甘井は思い出の手袋を取ってオレオと呼ばれた男の手を握った。


「ねぇこっち来て」


甘井は大きな男の手を精一杯引っ張って暗がりな林の中に入り込む。そうして早々に口づけをし、酷く青い顔と冷たい体を男の全てに委ねた。


「帰ったら…………結婚して、絶対」

「…家じゃなくて役所に直行しよう」


お互い、気休めな言葉でしかない事を理解している。


日本総力戦戦線が敷かれたとはいえ使い物になる人材はアンブレイカーズにしかいない。精々有用な能力者が戦線に上がる位で、ほかは農業や生産活動に割り当てられている。


つまりは、臨戦態勢にはなっただけで強くなれたわけではないという事。


そしてこの百獣夜行に並ぶ怪獣らは推定危険度「9」以上の物質系が9割。気体系と液体系が1割。

同じ危険度ではあるが物質系の危険度は気体系と非物質系と違い単純なスペックの高さで評価される。つまり絡め手が通用しない相手である可能性が酷く高いといえる。


そうした地獄のごった煮のような相手共が1体ではなく100体。死は予定調和だった。



この迎撃作戦は第6拠点まであり、誘導に際して1拠点怪獣を20体引き剥がす事がノルマとなっている。狙いは戦力分散と各個撃破の実現性を高める為。そして第1拠点は20km先真向かいにある第2拠点と同時に戦闘を開始する予定。


この第1拠点には最上位が3人配属されているが逆を言えば全員で4人しかいない。怪獣の危険度と量を加味すれば、大量の支援と援護を受けられても勝算は五分になればいい方だろう。


なにより怪獣のそれぞれの特徴や能力が不明。情報不足は一番怖い事であり敵だった。


「私、生きるから。雄介も、生きて」

「ああ、任せろ。俺は約束を守る男だ」

「……知ってる」

「お前は約束を守らない女だからな。俺が無理やり約束を守らせなきゃいけない。あーあ、大変な妻を娶ってしまったしまった」

「あ、妻って言ったぁ。気が早いですよオレオくん」

「お前なぁ……」


甘井は楽しそうに笑って、雄介を突き放すように離れると大きな笑顔を向けて言った。


「大好きっ」


子供の恋愛のようなムズムズする言葉選びと間を紡ぐ2人の大人達は、けれどそれを、その言葉と時間達を愛おしそうに胸の中で抱きしめていた。

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