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決闘はゴメンだ。

 勝手に申し込まれ拒否するまもなく受けさせられることとなった挑戦状。迷惑もいい所だと思っているよ。


 翌朝の朝礼前、生徒玄関の自分のロッカーに入っていた便箋の中身を、しかめっ面で見ていた。


 本日夕方の五時。河川敷にて決闘を申し込む。崎田紅葉親衛隊隊長 二年五組長谷川大地。


 昨日の俺の態度見て信用がないのか、朝学院に来てみたらこんなものが入っていた。先程の文章と簡単な地図の書かれた手紙だ。青春を謳歌する男子高校生、特に今の俺にとってはこんなもの、非常に嬉しくない手紙だ。速攻で破り捨てるか、紙飛行機にでもしてその辺にでも飛ばしてやりたいくらいにだ。


 正直行きたくもないし、雨でも降って中止にでもなって欲しかったが、今日の天気予報によれば、快晴とまではいかなくも一日中晴れ。降水確率は午前中は零パーセント。午後は十パーセントだ。全くとまではいかないが、これではその可能性を期待するのは馬鹿馬鹿しくも思う。

 行かなかったら行かなかったで、後々またろくなことが起こりそうにない。つまり行くしかないのだ。人の放課後を奪ってくれやがって。こうなりゃボコ……おっとなんでもない。

 若干苛立ちが混じりそうになったところに、紅葉がやってきた。


「どうしたの蓮君。難しい顔して頬杖なんてついて」

「……」


 読んでいたそれを、机の中に投げ込むようにしまい、話しかけてきた紅葉の方を向いた。

 彼女になら話してもいいか。周りに男子の目がないことを確認してから、昨日の放課後あったことについて説明した。


「昨日邦岡さんと見回りに行こうとした時なんだがさぁ。なんか紅葉の親衛隊だか名乗ってる奴らに、断る暇もなく挑戦状叩きつけられて、お前を試してやるとか言われてな。訳わかんねぇ」

「あぁー。あの人たちが昨日私を訪ねてきたのそれかぁー」


 それを聞いた俺は驚いて、頬杖がズレてしまう。乗せていた顎が左手からするりと抜ける。


「な、何か知っているようで……」

「帰ろうとした時にあの人たちが私のとこにやってきて、黒宮蓮に用があったんですけど、忙しそうなもんで今日は取り合って貰えそうになかった。崎田さんなら都合つく日とか知りませんか。って言われたもんだから明日なら大丈夫じゃないかなって言ったの。その日は蓮くん見回りもなかったと思うかなーって」


 返答に困り、呆れて空いた口が塞がらずにいた。


「えっと、ごめん。迷惑だった?」

「いや。過ぎたことだし気にしねぇよ」


 さっきの返事を聞けば、アイツら本題は言わなかったんだろう。まぁやって来て、これから黒宮蓮に喧嘩売りに行きます。なんて言ったら、その前に紅葉がコテンパンにしてそうだ。


「もうちょっとちゃんと聞くべきだったね」

「別にいいさ。紅葉が悪いわけじゃないんだし」


「何話してんの? 悩ましそうな顔して」


 二人して苦笑いしてると、そこに真琴がやってきた。


「真琴ちゃん。なんか昨日、蓮君が挑戦状叩きつけられたって」

「何物騒なもん貰ってんのよあんたは」

「俺だって欲しくて貰ったわけじゃねぇっての」

「そう。それで? 受けるつもりなの?」


 頬杖を突きなおしてから真琴の質問に答えた。


「……本音を言えばお断りだが、そのつもりだ。どうせ向こうが納得いくまで付きまとってくるだろうし、さっさと片付けておきたい」

「蓮! あんたねぇ……」


 反論してくる真琴の言葉の終わりを待たずに、俺は話を続けた。


「もちろん相手に大怪我負わせるような真似はしねぇよ」

「あんた、それでどうやって勝つつもりよ。汚く弱みでも握るつもり」

「えぇ……」


 真琴の口からなかなかゲスな返答が飛んできて困惑している。成程。その手もあったか。じゃなくてだ。それも有りかと一瞬でも思ってしまった自分を殴りたい。


「何もお相手様ボコボコにしてくるなんて言ってないだろ。そんなことすりゃ別の意味で問題になるわ。決定的な有効打が当たるような状況を作れれば、俺の勝ちみたいなもんだろ」

「あんたにしちゃよく考えてんのね」

「俺が突拍子もない馬鹿って認識はやめて貰えませんかね」

「あらー。何もあんたが馬鹿とは一言も言ってないのどけれどー」

「あびゃばばば!?痛い痛い!」


 これしきのことで何故頬を抓られなければならん。なんか沸点低くなってねぇか!?直ぐに解放されると真琴からあることを頼まれた。


「ひとつ頼んでもいい? 私も連れてって欲しい。あんたが無茶しないか不安なの」

「蓮君、私もいい?」

「……わかった」


 二人を連れてきていいものか悩んだが、万一のことに備えて第三者の目があった方がいいだろう。それに紅葉本人がいるってなれば向こうも姑息な手は使ってこないと思う。見回りも今日は天王寺さんと北島さんだったと思うし、そのへんも問題ないか。


「向こうからは今日の夕方五時、場所はここを降りたところの河川敷って言われてる」

「そこまで行くの、そこそこ距離あるわよね」

「学院外である程度広さのある場所ってなったら、そこになったんじゃないのか?別にそのあたりとやかくは言わねぇよ」


 その件は一旦ここで打ち切られ、その後は放課後までその話題で話すことはなかった。



 そして放課後になり、河川敷に向かった。校門で希愛と南原に出会い、話の流れで二人も同行することになった。希愛の場合、どうせいくら説得してもついてくるんだろうな。

 学院から二十分程歩いたところで目的地に到着。橋の辺りから見回して見ると、ある一点に集団があるのが確認できた。おそらくはあれだろう。ゆっくり向かうと、確かにそれであった。昨日居た五人を初めとして、合計で二十数名の男子生徒がそこにはいた。


「約束通り来たようだな。黒宮蓮」 


 約束じゃなくて、一方的に言い渡された命令の間違いだがな。


「それにしても、崎田さん自身まで足をお運びになるとは光栄の極みだ。……それで他の女子はなんだ?」


 相手する女子に応じて表情と口調変えるのやめろ。


「観戦を希望されたので連れてきた紅葉のご友人様だ。この際彼女たちには、公平を喫する為ジャッジをしてもらいたいと思うが、異論はあるか?」

「いいだろう。それくらいは許可してやる。最もな話、俺は姑息な手を使うつもりなど毛頭ない。正々堂々あんたに勝ってみせる」


 今更だけどさ、なんでお前は終始上から目線なんだよ。

 もう脳内で突っ込むのも疲れてきた。


「真琴ー。審判頼んでいいかー」

「いいわよー」


 その後は真琴がこの場を取り仕切った。こういう時本当に頼りになる。



「それじゃあ双方用意もできたところで始めましょう。先に相手に決定打を与えるか、どちらかが降参した時点で終了。相手に大怪我負わせるような危険な行為は禁止。万一の際は私の判断でストップをかける。従わぬ場合は有無を言わさず負けとする」


 俺と長谷川はそれに頷いた。


「能力云々までは言わないけど、事前の持ち込みは禁止ってことで、一応ボディチェックは受けてもらうわよ。健全な高校生だから凶器や武器の類は持ってないと思うけど」

「審判。こちらから一つ要求していいだろうか」

「何かしら?」


 希愛と南原がボディチェックにむかおうとしたところで、長谷川が真琴に申し出をした。


「こちらのボディチェックの担当、崎田さんにしてもらっていいでしょうか!」

「ねぇ蓮。決闘の前にあいつ一発殴っていいかしら!」


 構わねぇ全力で行ったれ。そして願わくば一発KOだ。心の中で俺は親指を立てていた。


「おいあんたぁ! なんだその態度は! この破廉恥ぃ! 純情な高校生に向かって!」

「何が純情な高校生だぁど阿呆! 破廉恥なのはあんたのほうでしょうがぁ!? 何隙あらば紅葉に近づこうとしてんだ恥をしれこのスカタン! だったら私が蓮の代わりに相手してやるわよかかってきなよおい!」


 これから別の乱闘が起こりそうなところ、長谷川のところに一人、歩み寄ってくる者がいた。


「それくらい気にしないってー。ほらほら、じっとしててねー。すぐ終わるからー」

「ありがとうございます!」

「流石は隊長! 自然な感じに崎田さんにアプローチするとは!」

「やっぱ格が違いますよ隊長はー!」



 紅葉が生徒に好かれる理由が頷ける。こういう時でも誰関係なく接するところとかなんだと。

 長谷川らは少々お祭り騒ぎになっていたが、真琴と希愛はそれを呆れた目で見ていた。南原にボディチェックをしてもらっていた俺と彼女も、多分同じような目で見ていただろう。そのついでで、身に付けていた腕時計やスマホを希愛に渡してもらうよう、南原に伝えた。

 双方問題がなかったことを真琴に報告すると、ようやく決闘が始まろうとしていた。


「あぁいうのが女たらしって言うの?」

「じゃないの? 明らか態度違うし。私が行こうとした所にこれだし」

「成程。わからなくもない」

「女たらしってことにしときなさい。あんな阿呆たれ」


印象は悪い。

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