河川敷の戦い
十メートル程離れて、お互い向き合った状態に。最終確認がなされた後、真琴の合図で決闘は始まった。
長谷川は開始の合図と同時に、こちらに真っ直ぐ突っ込んでくる。一方で俺はその場から動かず、応戦体制で待ち構えた。向こうから先制攻撃で繰り出されるパンチを、ひたすら避けていく。逃げ腰という訳ではなく、向こうの単純な実力を測るのが最初の目的だ。
向こうの連中には少なからず、あの日の手合わせを見ていたものが居ると考えていいだろう。俺の能力に関しては、学院の生徒では執行班の班員と極一部の友人等にしか伝えていない。能力が意味を成さなくなるという俺の能力は、一言で言えば初見殺し。相手に知られていては向こうも迂闊に能力で攻めてこなくなる。
だからこそ能力を使わなくても、問題なく相手ができるか見定める必要があるのだ。公言はしてないが、感が鋭いやつならあの時点で俺の能力に気づいているやつだっているかもしれない。
「ほらほら、どうした!? もう手も、出ないってか!」
「焦るなよ。まだ始まったばかりじゃないか」
避けていて思ったが、攻撃が単調だ。おかげで避けやすい。しかもほとんどその場から動かなくても済むくらいに。と言うよりも、格闘技術の高い天王寺さんの鍛錬に付き合わされていたから、それに慣れてしまったのだろう。数秒くらい相手のラッシュを避けた後、最後は大袈裟に左に避けてから相手の右脇腹に、少々強めのチョップを一撃食らわせてやる。
「あぐぅ!?」
そのまますれ違った俺は、振り返って長谷川の方を向いた。
「そっちの方こそ、これで終わりじゃあないよなぁ?」
右手の人差し指をクイクイっと動かして、少々挑発してやるような口調で言ってやった。
「あぁそうさ。崎田さんが見に来てんだ」
そう言って長谷川は座り込んで地面に右手を置く。そして何かを引っ張り出すようにその右手を上げると――
「あれは……」
鎖状のもの、いや。鎖が地面から伸びてきた。一メートルは引っ張り出した所でその鎖は一度、しなやかに中を舞い、長谷川の右手に収まった。
「焦らずとも、ここから本領発揮だ。俺の能力はあらゆるものから自在に鎖を作り出すことが出来る。親衛隊隊長改め、鎖使いの長谷川の凄さを思い知れ!」
右手に持つ土と同じ色の鎖を振り回し、勢いついたところで俺に向かってそれを振り下ろしていく。垂直に振り下ろされたそれを、俺は右に避ける。その場所にチラリと目をやると、十数センチかの溝になっていた。中々の破壊力だ。まともに喰らえばたまったものでは無いだろう。
「ほらほらどうしたぁ!」
長谷川は勢いに任せ、鎖をガンガン振り回していた。一方で俺はそれをひたすら避け続けていた。
能力自体見れば鎖を作るだけと単純だが、そういう単純なものほど怖いものは無い。あの鎖も使いようによっては近距離にも遠距離にも攻撃できる上、防御にも使える。それにあれを使って相手の動きを拘束することも可能だ。
もちろん能力使えば、あんなものはなんてない。途端にあの鎖は元の土に戻ることであろう。しかしいちいちそんなことをしては、いずれは相手に俺の手の内がバレてしまうし、短時間に連続で使っていれば俺の体力も持たない。
しかし待てよ。ここで俺の脳裏にひとつの考えがよぎった。たとえ能力を使ったとしても、使い方によっては他の能力だと錯覚させることくらいは可能だ。
あの鎖が横からではなく、正面から飛んでくるタイミングを俺はうかがった。
「喰らえ!」
あいつが鎖を持つ右腕を上に振り上げた瞬間を、俺は見逃さない。右の拳で真っ向から迎え撃つようにして右腕を前に出し、振り下ろされる鎖と俺の拳がぶつかる瞬間に能力を発動。
「なにぃ?!」
鎖はあたかも、俺の一撃によって大部分が粉砕されたように崩れ、その周りには、先程までは鎖となっていた土が巻き散らかっていた。
「くそっ! ならば!」
今度は左手を川の方に向けてやる。すると今度は川の水が左手に吸い寄せられていき、これまた鎖が生成されていく。
そしていつ間に作ったのであろう先程と同じ色の鎖が右手に、今度は二本とも、さっきよりも短く作られていた。
「これならどうよ!」
二本の鎖をヌンチャクのように使って攻撃してくる。やること変わらず避けながら好機をうかがっていたが、こちらも隙をつかれてしまう。
「しまった!?」
気づけば左手の鎖によって俺の体の一部が拘束されてしまっていた。意識を長谷川の方に向けられている隙に、左の鎖がいつの間にか伸びていたのか。……しかしそれがどうした。
「これぐらい!」
力任せに引きちぎる。ようにしてまた能力を使って鎖を壊す。
「なんてパワーだ! しかしどのみちこれでガラ空きだ!」
腕を広げるようにして鎖を壊した為、当然正面が開く。そこにアイツは正面から接近してきた。右手の鎖を腕にまきつけ、ナックルに近い要領で攻撃してきた。
「貰った!」
「!?」
反射的に俺は左前に倒れるようにして体勢を落とした。その勢いのまますれ違った俺は、右足で長谷川の足元をすくうように後ろに振り払う。
「おわっ!?」
長谷川がバランスを崩して背中から地面に倒れ込む。そのまま反撃の隙を与えぬようにマウントを取り、彼の首筋の手前ギリギリで、右手の手刀を止めた。
「これで一本。ってことでいいのか」
「まさか全部対処されてしまうとは。……お手上げだ」
「正直最後は焦ったがな」
「やはり我らが崎田さんに認められたのは本当だな。俺らが向かって行って、まともに相手は出来ないのかもな」
「そこまで卑下するなよ……」
倒れたままの姿勢で長谷川は、審判の真琴の方を向いた。
「審判。俺の負けだ」
それを聞いた真琴は、安堵の息をついて宣言した。
「この勝負。長谷川大地の降参により、黒宮蓮の勝利とする」
埃を軽く払ってから俺は真琴たちの方に向かう。
「じゃ帰るか。疲れたし」
決闘も済んで帰ろうとしたんだが、向こうにいた何人が声を上げていた。
「隊長! 俺はまだ納得いってません! 敵は自分が!」
「俺もです!」
「おいおいもういいだろ。って待てお前ら?! 勝手に行くんじゃない!」
納得いかないのか、今度は俺が相手してやろうと言わんばかりにこちらに走ってくる。その数四人ほど。お前らが満足いかないからってさぁ、もう終わったことなんだから勘弁してくれ。
しかし彼らは俺の少し前で、全員動きが止まってしまう。
「な、なんだ!」
「体が動かない?! 何をした!」
「希愛か」
こちら側でそんな芸当出来るのは彼女しかいない。
「おぉ。俺のこと守ってくれる妹だなんて、お兄ちゃん嬉しいぞ」
「いやそんなんじゃないから。単にまともに相手すんの面倒なだけだから」
「おぉおぉ。冷たいなぁ」
「おのれ小癪な……あがぁ!?」
出力を上げたのか、今度は地面に軽く凹みができるくらい抑え込まれていた。それでも意地なのか。立ち上がろうとする。
「待ってくれ!」
そこに追いかけてきた長谷川がやってくる。
「今の無礼。隊長として謝る。俺が言っておくから、そのくらいにしてくれないか!」
「……」
希愛は少し無言で考えた後、能力を解除した。
「ありがとう」
「じゃ。今度こそ失礼させてもらうぞ」
今度こそ俺達は、河川敷を後にした。
「隊長! 一体どうして!?」
「これ以上恥をかかせるな。みっともないぞ」
「……すいやせんでした。しかしどうするんですか?」
「決まってるだろ。アイツらを陰ながら応援してやるのさ」
立ち去ろうとした時にそんな会話が聞こえてきた。あの男。楯突くくせして、引き際はしっかりしてんだな。
しかし応援してくれるのは構わんが、昨日一昨日みたいな馬鹿騒ぎを起こすのはやめてくれよ。
そんなことが二週間ほど前にあったことだ。その後は話題になっても大きな騒ぎにまで発展することはなかったかな。
「それにしても節制してるんですね、先輩」
「使いすぎもだめだって、前に袴田さんに言われてたっけ」
「そうでなくともあんなやつなら蓮が負けるとは思わないわよ」
戦い方にもアレンジが必要。




