普段とはちがう感覚
それで邦岡と袴田がにらんだ本命というのが、ここにいる者たちにとってもよく知る場所である。
「どういうところなのかと思ったら、まさかの場所ですよ」
「言っておくが真面目な話だからな、黒宮」
「わかっていますよ邦岡さん。正直なとこ驚いてますよ」
今いる場所。蓮たちの通う学び舎なのだから。
「どうしてここだと踏んだんです?」
「私の場合はただの推測ね」
「邦岡さんは?」
「調査の途中で私たちと同じ被害を受けた者に、何人か会うことができて話を聞くことができたんだ。ここにいる者たちも含めた共通点というのが、兼城学院の生徒であるということだった。そうだというなら安直な考えになるが、兼城学院の校舎を調べるのも一つ手ではないかと思ったんだ」
「聞きたいことが二つあるんですけどいいですか」
蓮の要求に対して、彼は頷いてそれに応じた。
「確かにそういう考えはいいんですけど、仮にいるとして犯人はどこに潜伏するんですか。今日が休日でこんな時間とはいえ、誰もいないってことはないんですし」
「意外と潜伏するだけなら場所は結構あるんだ」
「そういうもんですか。確かに言われてみるとそんな気もしますね。ではもう一つ。どうやって敷地内に入るんですか?」
「……問題はそこだな」
今は八人は学院の近くにある公園にいる。姿もそうだが格好も皆私服のため、軽率に校舎内には入れない。間違いなく不審者だ。
「制服は? 着てれば多少なりともごまかせそうだけど」
「よさそうだけど制服もここにはないし、取りに戻れる人いるの?」
「行けないこともないですけど、下どうするんですか。今の状況考えたら違和感しますよ」
蓮の前いたとこでは、女子がズボンを穿けるような制度があったそうだが、あくまでそこでの話だ。今いる兼城学院は女子はスカートと決められている。そこまで自由というわけではないのだ。
「そこは借りれば……」
「袴田さん。少しは女子としての心持というかそういうものはないんですか」
「お兄ちゃんのサイズだと、希愛着れない」
「希愛、乗っからなくていいから。それに人数分用意できないでしょう」
「それもそうね」
この案は却下……かと思われたが、そうなる直前に紅葉がある提案をした。
「いや、何とかなりそう」
「何かあるのか崎田」
「少し時間かかるけど、友人に頼めば何とかなると思う。蓮君、希愛ちゃん。制服を借りてもいい?」
「別に構わないけど……汚したりとかしないでくれよ」
「わかってる。というわけでちょっと二人をお借りしますねー」
三十分くらいして、三人がいくつかの紙袋を抱えて戻ってきた。その中に入っていたものは
「……うちの制服だ。それも人数分ある」
「どうやって用意したんだ」
天王寺の質問に、崎田が答えた。
「私の友人に、コピー能力を使える人がいるんです。あぁ、ピンクの丸いあれのことじゃないですからね。それで蓮君と希愛ちゃんの制服を人数分複製したんです。大きさについてはある程度調整してもらったのでおそらく何とかなるかと」
「ところでそのコピーって、能力もコピーできるの?」
「それは無理だったと思う。例えるなら3Dプリンターですかね。モノを複製するってだけです」
紙袋の中身を全員に配り、隅のほうに移動して交代で見張りをしながら制服に着替えた。
「なんだかんだ流れでこの案了承したけどさ……。スカート履かないとダメ?」
「悠。今ばかりは仕方ない。俺や天王寺さんだって穿くんだから、そこは何とか……」
「……わかった」
「ズボン穿くのも新鮮かも」
「確かにな。私としてはこちらのほうが落ち着くな」
「いやいやー。麗奈って私服の時もズボンの時がほとんどだからねー」
男女各々反応は色々であるが、今はコスプレを楽しんでいる時でもない。慣れない感覚についていろいろ話をしていると、袴田がスマホを構えていた。
「……袴田さん。何を期待してんのか知りませんけどパンチラなんてないですからね。対策してますから」
一応スカートの下、体操着の短パンを穿いている。保険にと蓮が、自分のものを用意していた。
「なによー」
「大体下着は元のままですからね」
全員の着替えが終わったところで改めて作戦会議が行われた。
「ひとまず四人ずつに分かれて動こう。八人全員で固まっていても効率が悪いだろう」
「そうですね。動くのも大変ですから」
「じゃあ私の班は中を見ることにしよう。黒宮の班は、先に外を見てもらえないか」
「はい」
とりあえず邦岡の提案通りに四人ずつに分かれる。邦岡をリーダーに、天王寺、草薙、北島の班。それから残りの四人、蓮をリーダーとした班。打ち合わせも済ませていざ動こうとしたところで邦岡から忠告が入る。
「後さっきまではいろいろあって気が抜けてしまったが、こっから先はまた仮名で呼び合うこと。くれぐれも頼むよ、蕪城さん」
「分かりました。……吉村さん」
何故かリーダーではなく、御守り役という肩書を任されたことについて、蓮はあれこれ聞かず黙って了承することにしたようだ。
校舎周りを沿うようにして怪しい場所をいくらか探してみるが時にこれといったところは見つからず。冷静になってみればわざわざこんなところに隠れているものだろうかと彼……いや、彼女は考えていた。
四人で相談し、今度は学院の地下を調べてみることにした。一応調べる場所がかぶらないよう吉村さんに連絡を入れてから向かうことにした。
それにしても人気がない。あんな騒ぎが起こったからかどうかは分からないが。
「確かにここいらだったら隠れるのにはいいかもね。普段からここって、あまり人の出入りは多くないからねー」
「考えてみればー、あの日以来ここ来た覚えないんだよなー」
「まぁ、ここには用ないだろうな。……私はしょっちゅう天王寺さんに呼ばれるわけだし……。最近はうまいこと予定が嚙み合わないのが救いね」
今この場には四人しかいないとはいえ、気が抜けないように黒宮蓮は、蕪城ゆずを演じ続けた。
「あの人はそういう人だからねー。自分磨きに余念がないっていうかねー」
「なさ過ぎて時々主任や麗奈に突っかかれるけどね」
「班長として大丈夫なんですかそれ……。ともかく順番に見ていきましょう」
部屋を一通り、編入の翌日に蓮が手合わせした体育館のような空間も含めて調べたが、この辺りも特に変わったこともなく、怪しい者も居なかった。
「こっちもダメか」
「どうするのー姉さーん」
これからどうしようかと思ったところに、スマホの着信音がなった。
「ちょっと失礼。はい。……えぇ、今は学院の地下に。……そうですか。……はい。わかりました。すぐに向かいますね」
通話を切ったところで、音田が彼女にすり寄ってきた。
「どうしたのゆずちゃーん。なにかあったのー」
「とりあえず離れてもらえませんか。いちいちいじっかしいです」
「それで何だった?」
スマホを持っていない右手で音田を振り払ってからスマホをポケットにしまい、電話の内容を説明した。
「吉村さんから。屋上に来てほしいって」
「やっぱり素体がいいのか、結構似合う」
「また一発欲しいんですか?」
「何よー、悪いことは言ってないじゃなーい」
「お前はいい加減学習せんか」
こればっかりはどうもならない。




