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見知ったような顔

 二秒と満たぬうちの出来事。一瞬のうちに目の前にいた音田さんが視界からフェードアウト。目に映るのは人と車の行きかう街並みのみ。固まってしまうしかなかった。


 ナニガドウナッテンスカ?


 ただこの一言にすぎる。殴られて吹っ飛ばされた音田さんがすぐ近くで倒れていたことに気づいてから、ようやく少しばかり、今のことについて整理することができそうだった。


 まず殴ってきたのは誰なんだ。首を右に回して横を見る。まずあそこにいる三人ではないだろう。


「え゛っ!? 何事?!」

「ふっとんできたー」

「これほどの一撃。何者だ……」


 あの喋り様を聞く限り……というよりも立ち位置と吹っ飛ばされた方向考えれば、彼等ではないのは容易にわかる。

 それもあるが、希愛や紅葉はこんな荒々しいことはしないだろう。少なくとも俺はそう信じている。


 でもってこんなこと考える必要はないとは思うんだが、なんでついさっき会った人に連絡先渡されるくらい気に入られているのか。ということ。


 別に好まれるようなことしたわけでもないし。和気あいあいと話をしていたわけでもない。一目ぼれにしたってそこまでするんだろうか。いや、案外そういうものかもしれない。知ったことではないが。




 殴られた右頬をさすりながら音田さんはゆっくりと立ち上がった。


「何をしてると思えば、男の姿で堂々ナンパか。姿が変わろうが中身は変わっちゃいないか」

「まったくだなー。やることいちいち怖いんだからー」

「誰かさんのおかげでな」


 その会話を聞いて、音田さんのほうに回していた首をゆっくりと元に戻すと、左側に人がいた。紺色の髪をした男性が。立ち位置と話の内容考えるに、殴ったのはあの人で間違いないだろう。


「それにしても来るの速いのなー」

「ここからそんなに遠くないところにいたんでな。バスを使って十分程で済んだ」

「あれまー。駅の方かと思ったからもうちょい時間かかると思ったんだがなー」

「それで隙あらばナンパか。相変わらず危機感ってものに欠けているな」

「ありゃまー。ズバッと言われてしまったなー。お兄さんかなわねぇやー」


 怒り心頭であろう紺色の髪の青年に対し、音田さんはわざとらしい棒読みなしゃべり方で返答している。恐れを知らないっていうのはこういうことなのだろうか。


「自覚があるならそれを直そうという気はないのか、それにだ……ん?」




 音田さんと話していたその人はようやく棒立ちの私に気づいたようだ。説教でも始まりそうなところだったが、そうはせず、私に向かって軽く一礼してからこちらに数歩近づいた。


「友人がご迷惑をおかけした。無礼をして申し訳ない」


 紺色の髪の青年はかしこまって私にもう一度一礼。今度は深々と一礼した。


「いえいえそんな。突然のことで驚きはしましたが……」

「他にもご迷惑おかけしませんでしたか。あの人調子に乗るとすぐ暴走してしまうものですから」

「えぇと……。いろいろ混乱することもありましたが、大丈夫です。吉村さんでよろしかったですか。あちらの音田さんと同じ調査をしているということで、彼から簡単に説明は聞いております」

「そ、そうだったか。連絡にあった協力者というのはあなたのことでしたか。」

「はい。今は蕪城ゆずと名乗っております。私の他にも、あちらの三人にも協力していただいてます」


 向こうの木の近くに立っている三人。蕪城透、不知火蓮、リゼル・ホーキンス。皆この場だけの仮名ではあるが、自分から見て左のものから順に紹介する。


「そうですか。すみません、巻き込むような形になってしまって。改めて、吉村誠也……と今は名乗っています。後それから……」


 吉村さんは後ろのほうを振り返る。ちょうど見える先の信号が変わったところであった。


「いきなり走り出さないでくださいよー。びっくりするじゃないですかー」


 交差点の信号が青に変わり、横断歩道をわたってくる二人が見えた。女性二人に見えるんだが……ん? なんか一人見覚えがあるっていうか……。


「あぁ、済まない。自分としたことが情に流されてしまった。」

「らしくないな」

「どうしたんですかー」


 何度か瞬きして、追いかけてきた二人のほうを見る。


「さっき言っていた友人が粗相をしていてな。それで感に堪えずといった感じだな……」

「気を付けな。お前らしくない」

「そうですよー。それに……」


 まだ固まったままの私に気づいたのか、栗色の髪の少女がこちらに近づいてきた。


「お姉さん。どうかしましたか。……大丈夫ですか?」


「あ。え、えぇ……。ちょっと、あっけにとられてしまって……」

「そうですか。すみません」




 間違いない。俺はこの人を確かに知っている。おそらく今の俺たち同様に、あの人たちも被害者同士で解決への道を模索しているのだろう。


 しかしだ、もしそうだとすればこの人の姿は殆ど変わっていないといっても言っていいだろう。そうだとすれば。の話だが。


「いえいえ、謝らなくたっていいですよ」

「いえいえ。放置してしまったんですよ。礼儀が足りないっていうか……」

「そんな、気にしなくていいですよ」


 まぁともかく。もしその人だったとしても、今名前を呼んではいけない。俺が知っていたとしても、向こうにとっちゃ知らない人だ。食い違いどころの問題ではない。

 今はなによりも、彼女のことを知っているかもしれない黒宮蓮ではなく、彼女と初めて会った蕪城ゆずを演じなければいけない。


「調査に協力してもらっている人たちだ。一度音田と別れた後に出会ったんでな。後であいつにも説明しないとな」

「そ、そうですね」


 私が吉村さん達と話をしていると、向こうにいた三人もこちらに来た。




「姉さーん。その人たちだーれー?」

「何というか、私達と同じ状況にある人たち。さっき音田さんが言っていた別の場所調査していたっていう方たち」

「あぁーなるほどー」

「吉村さん。この人たちも私同様に調査をしている人たちです。」


 吉村さんたちに、私のほうの連れも紹介する。


「奇妙な形で巡り合うことになってしまったが、今は問題解決に向けて協力しよう」

「はい」




 簡単に顔合わせを済ませて、音田さんの言っていた本命とやらに向かおうとしたんだが――


「あれー、草薙君?」


 不知火蓮……いや。崎田紅葉が放ったこの一言で場の空気が凍り付いた。っていうか。




 うん。もう言ってしまおう。


 巡り巡って、全部ばれたわ。 

「あの人がさっき言ってた人か?」

「あぁ。悪魔を探す契約をしていた者だ」

「ふーん」

「てか、なんか知ってる人がいるような……」


凍りつく五秒前。

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