やんちゃな王子
私達のもとに現れたのは、男としてはやや長いボサッとした赤髪の人物。
向こうにいる男四人組のほうをじっと見た後、今度は私のほうに近づいて手を伸ばしてきた。
「大丈夫ですか。お嬢さん」
「あ……」
「彼らは…? 見たところ友人というようには見えないようですが…。ひょっとしてナンパでもされてんのかい?」
「え?! いや、あのー……そうではなくて……」
おろおろしながらも説明しようと思ったんだけど、勝手にイベントは進行していくわけでー。
「おいおいあんたー。いくら何でも無礼講ってもんじゃないのか」
さっき話していた人がこっちに来て、赤髪の男性の右腕を掴む。勢いというか雰囲気に呑まれて、介入の余地が私にはなかった。
「何だよ……あんたらも人のこと言えるっていうのかい」
「その辺についてあれこれ言える道理はねぇかもしれないが……。少なくともあんたのようなもんじゃあないがねぇ。お姉さんびっくりしちまって言葉も出なくなっちまってるじゃないか」
「あ、あのー……待ってください……」
今来た赤髪の男性に事情を説明しようと思い、その間に割り込もうとしたんだがそれをさっきの四人組の一人に止められた。
「下がっててくださいお嬢さん。あんな奴に好きかってなんかさせませんって!」
「おいあんた横取りかぁ! 勝手にこの麗しいお姉さんに手ぇ出そうっていうなら俺たちも黙ってないからなぁー!」
「ふぇ?!えぇぇ……」
なんか勘違いされてるし、向こうも便乗してしまってえらいことになってきてるし、私どうすればいいのー!?
逃げてしまうのも一つ手ではある。……なんだけどどういうわけか身体動かないし、責任を放棄してしまうのも自分の良心が許さない気がしてしまってどうにもならない……。
とにかくこのままじっとしていることしか、今の私にはできなかった。
そのあとは四人組と赤髪の男のケンカ(?)というか私を巡った闘争へと発展していって……。とはならないようにしたくて――
「あ、あの! 待ってください!」
私はさっきよりも大きな声を上げていた。やっとその声が届いたのか皆の動きが止まった。
「私なんかの為に……これ以上こんなこと……やめて…ください……」
うるうるとした目で男たちのほうを見る。それが効いたのか動きが止まったようだ。その隙に私は赤髪のほうに近づいて、やっとのことで事情を説明した。
「そうか……俺の勘違いだったというのか……。申し訳ないお嬢さん」
「俺等の方こそ…あなたの前でお見苦しいところを……」
「これで手打ちにしましょう。お互い彼女に対して礼儀が足りなかった」
「そうですね……」
和解したようで、赤髪の男と四人組の代表が握手をして、誤解から始まった騒動は解決した。
「……」
「(もうこんな演技二度とやりたくない)」
冷静になったところで思ったことがあった。プライド投げうってでもやったことだが、自分自身を殴りたいくらい後悔しています……。
父さん、母さん。じいちゃん、ばあちゃん。希愛、真琴。……紅葉。ひょっとしたら俺、これから一生女として生きていくことになりそうです……。
その後は双方別々の方向に歩いて行った。何とか大事にならなくてよかった。
それにしても今のやり取りでだいぶ時間をとられてしまった。これだと当初指定した場所につく頃にはいい時間になっているだろう。
でも事が片付いたことだし早く行こう。そう思ったが――
「やっほー」
「?!」
さっき行ってしまったはずの赤髪の男性がいた。
「どどど、どうして貴方がここに?」
「いやーほっとけなくてねー。でも何事もなかったようでー」
「さっきので手を打ったんじゃないんですか?」
「あくまであの時の対立をやめただけ。貴女を諦めたとは言っていない」
「は、はぁ……」
「(ホントに面倒な人だな……)」
お願いだがらもう関わらないでぐだざい。もう私の精神的なライフはボロボロな゛んでずぅ……。しつこいとかそういう意味ではないんです。頼むから今は一人にしでぐださい……。
しかし。そこでうずくまっている余裕もなくて……。
「「いました! あの赤髪の野郎ですー!」」
「だそうだお前ら! 逃がすな―!!」
何事ですか?! 今度はまた別の集団がこっち向かって走ってきたんですけど?! やっと少しは一息つけると思ったのに。どうしていつもこうなるのー!?
「あっちゃー。さっきしつこく絡んで因縁つけてくるもんだからパパッと片付けてきたんだけど、仕返しといわんまでに増援まで連れてくるかー」
「な、なにしてるんですかぁ……」
「……ちょっと失礼」
「え?! ひゃあ!?」
この人の問題なので、無関係な私を置いて一人で逃げていくものだと思ったのに、この人は私を抱えてそのままあの人たちから逃げていくことになっていた。
てかこれって……話に聞くお姫様抱っこ? 女の子の憧れともいうあれですか!? でも私……俺はホントは男なのにこんなことされてる……。でも今は女だから、突然されたことってのもあるけどちょっとドキドキしてしまっている自分がいた。
いや待って。何で私まで巻き込まれてるのー?!
しばらく走って逃げていたけど、私を抱えている分動くのは大変だろう。
「やっぱきついかー。ちょっと待ってて」
「ふぇ?」
彼が突然立ち止まると、その場に私を降ろして、追っ手を迎え撃つ形になった。
何をしていいのかわからずに、道の端っこでおろおろしてしまうのもそうだったんだが、私は赤髪の男の動きに見とれていた。
少々荒っぽくも感じるが、見る者の目を引かせるような鮮やかな動きでひらりひらりと相手の攻撃を躱していき、相手に息もつかせぬほどの速さで反撃していく。
相手側は全てで五人。向こうのほうが頭数が多いのにもかかわらず、展開は一方的であった。気づいた時には四人が倒れており、リーダー格と思われる一人だけが残っていた。
「あんたらもしつこいねぇ。もう手を引いてくれませんかねぇ」
最後の忠告というわけかその男に向かって申し出を入れるが、相手は聞く耳持たず。拳を構えて赤髪の男のほうに突っ込んでいく。
しかし五人でかかってきて、まともに有効打を与えられなかった相手だ。その一発の拳もあっさりと受け流されて反撃をくらう。
「はぁ……落ち着いたか」
「そ、そうですね……」
気づけばあっという間のことであった。あっけにとられていたっていうのもあるが、何よりも彼のその動きは速かった。
「さてと……って。なんだあれ?」
「え?」
誰が撃ったのかは知らないが、こちらに向かって何か飛んできている。青白い気弾のようなビームのようなそんなものが。
って気づくのが遅かった!これじゃあ二人が避けるには間に合わない!……もう背に腹は代えられない。選択をしている余裕はない!
「すみません! 事情は後で説明しますから!」
私はその男の前に立つようにして能力を使おうとしたんだが、その寸前に男が右手から何か紅い火の玉のようなものを飛ばしていた。
それに驚いてしまって、私は体勢を崩してしまった。不幸にもその時に男の右腕を掴んでしまっていたようで、その体ごと引っ張ってしまっていたようで。
そのあとのことしばらくは、大量の煙に巻かれてしまって視界がほとんど遮られてしまっているためよくわからなかった。
少なくともわかっているのは、感覚で今は元の身体に戻っていること。あの青白い何かと、男の放った紅い何かが数メートル先で衝突して、すさまじい爆音とこれまた煙を発生させていること。
そして今俺は倒れたことで道路に背中つけて倒れているわけで、おそらくあのとき男の服の袖を引っ張ってしまったから、その人も一緒に倒れているわけで。
「大丈夫ですか? すみません。これにはいろいろと事情が……」
煙が徐々に消えていったと同時に、俺の言葉も消えていった。だって今俺に覆いかぶさるようにしてマウントとっている人物。さっきの人と違うんだから。それに――
「……」
「……」
彼……いや。彼女もまた被害者なんだから。
「つながらないか、桐生」
「はい。補修でしょうか」
「なら後でもう一度かけといてくれ」
電話なんか出られるわけなかろう。(黒宮蓮曰く。)




