合同会議を始めよう
日も経って、約束の水曜日になった。放課後になってすぐ、俺たち執行班の面々は会場のセッティングに動き回っていた。普段置いてあるソファーやテーブルを端のほうに動かし、長机やパイプ椅子を運び込み、用意を整える。作業に励んでいるところで、小松主任から声をかけられた。
「黒宮。そろそろ山水の執行班が到着する頃合いだろう。こちらもだいぶ整ってきたところだ。崎田と一緒に、来客用の玄関からここまで案内してやってくれ」
「わかりました」
そう言われたので、向こうのほうでパイプ椅子を運んでいる崎田さんに話しかけた。
「崎田さん。小松主任から、一緒に山水の方々を案内してこいって頼まれたんだ。そろそろこちらも踏ん切りが……」
「おっけー。じゃあいこっか」
俺が言い切るよりも前に、崎田さんは明るい返事で了承してくれた。…正直助かる。
表で待っていると、二台の車がうちの駐車場に入っていくのが見えた。おそらくあれだろうか。そう思ってしばし待っていると、俺の予測通りであった。泰牙達、山水高校の執行班の面々が俺たちの前に現れた。
「本日はお越しいただき、ありがとうございます」
崎田さんが切り出すと、真ん中に立っていた銀髪サイドテールの眼鏡をかけた女子生徒が一歩前に出て崎田さんと握手した。
「お礼を言うのはこちらのほうです。このような場を開いていただいて。いや、それだけではないですね。調査に協力してくれるのだから」
「いえいえ。同じ執行班として当然のことです」
二人が社交辞令を交わしているところを少し離れたところから見ていた俺であったが、崎田さんと話す女性がこちらに気が付いたのか、今度は俺と握手を交わした。
「それと、君が黒宮蓮だったね。以前の君の活躍はお世辞無しに、私達も高く評価しています。桐生さんが信頼を置くのにも納得が行きます」
「そ、それはどうも。こちらとしても恐縮です。ええと……」
そういえば以前の任務の際、俺は先行していて山水の執行班とちゃんと顔を会わせていない。終わった後で泰牙と少し話をしたくらいだ。なので大変失礼なことなのだが、俺は彼女の名前を知らない。
「恐れ入ります。私は山水高校執行班班長の森嶋雲雀といいます。本日はよろしくお願いしますね。黒宮さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ここで立ち話もなんです。応接室にご案内致します」
「お願いします」
応接室まで山水高校の執行班一同をご案内すると、応接室の入口に邦岡さんと袴田さんが立っていた。
「邦岡さん。山水高校執行班の方々をお連れしました」
「ご苦労だった。崎田、黒宮」
「お疲れさまー」
俺達に軽く一礼すると、今度は森嶋さんのほうを向いて一礼した。
「兼城学院執行班副班長、邦岡麗奈です。本日はよろしくお願いします」
「山水高校執行班班長、森嶋雲雀です。こちらこそよろしくお願いします」
「中へどうぞ。全員揃っております」
脇に避けた俺と崎田さんが応接室の扉を開けて皆を室内に通す。全員入ったところで最後尾に続くようにして俺たちも応接室の中に入り、扉を閉めた。
用意された椅子に、各校の執行班の面々が向き合うようにして席に着いた。小松主任と長坂主任が握手をしたところで、合同会議が始まった。
「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます。事件の早期解決に向けて、お互い力を尽くしましょう」
「こちらこそ。有意義な時間にしましょう」
「では早速始めようか。まず初めに事件について簡単に振り返ることとしましょう」
最初は今回取り上げる連続失踪事件について、これまでに分かっている情報について振り返ることとなった。俺が泰牙から事件の情報を聞いた先週の土曜日からこれで四日経ったことになる。まぁ実際はそれより前から山水のほうで調査をしていたことにはなるが。
「こんなところになるだろうか。次に新たに得られた情報についてこちらから報告させてもらおう。森嶋、よろしく頼む」
「はい」
森嶋さんが立ち上がってプロジェクターの横にある、パソコンの置かれた長机の前に立つ。
「天王寺さん。我々から新たに報告が二つあります。……良い知らせと悪い知らせがあるのですが、どちらからお話ししましょうか」
「……悪いほうから頼む」
「分かりました。悔しいことに先日、新しい被害者が出たとの報告がありました。プロジェクターに出します」
プロジェクターに、一人の女性とホテルの写真が映し出された。
「名前は雪村凛香、27歳。駅近くのJOLホテルに勤務。写真にもあるとおり、彼女の髪型もポニーテールです」
「そうか。また被害者がでてしまったか……」
新たな被害者が出たという報告を聞いて、俺の左隣に座る崎田さんがこちらに顔を寄せてこう囁いた。
「(私、ますます不安になってきた)」
「(頼むから取り乱さないでくれ)」
「(もう取り乱すつもりはないから)」
「(なら結構)」
その後は元に戻り、森島さんの説明を時折頷きながら聞いていた。
「では良い知らせとは?」
黙ってコクリと一回頷くとパソコンを操作してプロジェクターの画面を切り替えた。
「見回りの調査もあって、犯人と思しき人物をピックアップしました。これまでの被害者四人が最後に目撃された地点の周辺の監視カメラ等の確認、見回りの結果、この人物が失踪当日のすべての場所にて確認されました」
「この短時間でよくここまで」
「私達も、運が良かったと思っています。この人物についての推測なんですが、男性で年齢は三十代から四十代、身長は170センチ程。外見の特徴について、髪型は黒髪で全体的にボサっとしていて短め、それから顎髭を蓄えていますね」
「もう少し、鮮明な写真は用意出来ないのか?」
「解析したものと、それからこれらの推測されるデータを基に、CGによる顔グラフィックを生成しました」
また画面が切り替わると、顔のあたりをアップされた犯人と思われる人物の写真と、CGで作成された3Dモデルが映し出された。近年の技術はかなり向上していて、当人のDNA情報からでもこういったデータが取れるとは聞いてはいたが、実際見比べてみるとかなり似ていた。
「我々は今後、事件現場の調査に当たる予定です。無論この人物の足取りについても調べていきます」
一呼吸、と言うよりはため息をついてから森嶋さんは話を続けた。
「ですがこれまで各被害者の関係者への聞き込みや現場の調査とやることずくめで思うように手が回っていません。他校の執行班にも調査協力を依頼していますが、他の一件の調査があったり、返答を頂けていなかったりいうこともあって、私達も苦労しています。そこで私達二校の執行班で割り振って担当を決めようと思います」
「各被害者ごとに担当を決めるということか」
「そういうことです。それに加えてこの人物の調査を進めていくという段取りです」
「となると班は……六つが良さそうだな。各校で三班ずつ作って割りふろうか。その他意見や異論のあるものは挙手してくれ。」
全員それで納得したようで、そうするものはいなかった。
皆で話し合いながら先の話通り各校三班ずつ、計六班作り、各被害者についてと、犯人捜査をする班に分かれた。
ちなみに俺は袴田さんと、雪村凜香に関する調査をすることとなった。他の割り振りに関しては以下の通りである。
メンバー 担当
一班 森嶋 萩原 渡辺美鈴
二班 中本 粟津 竜胆 山科京子
三班 紫苑寺 桐生 古沼 犯人捜査
四班 天王寺 北島 松浦菜々香
五班 邦岡 崎田 草薙 絢瀬愛乃
六班 袴田 黒宮 雪村凛香
「有益な情報は得られた時は速やかに連絡し、早期解決に役立てていきましょう」
会議を終えて、十分程度の自由な交流の後、俺と崎田さんで山水の人達を見送り、応接室の片付けを済ませたところで本日は解散となった。
しばらくは忙しくなりそうだ。
「崎田さん! いざって時は俺がお守りします!」
「おぉー。頼りになるよー桐生君」
「気合い十分だねぇ~」
「頑張りましょうね。桐生さん」
「(その気合が空回りしないことを祈ろうか)」
気合いは十分。




