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邦岡麗奈の災難

 最初はカウンター席に私一人のはずだったのだが、まずは黒宮とその妹さん。次に崎田と彼女の友人が喫茶店にやってきて、テーブル席に計五人が座ることとなった。

 出来ることなら一人でゆっくりと過ごしたかった。時間に問題はないのだが……まぁいいか。今更此処を後にできるような雰囲気でもないし、観念してお茶会に付き合うことにした。



「そういえば崎田。そちらの方は?」

「友人の真琴ちゃんです。私のクラスメイトで、黒宮君の幼馴染なんです」

「柏葉真琴といいます。蓮がご迷惑おかけしております」

「う゛っ……」


「ご迷惑だなんてとんでもない。彼は大いに、いい働きをしてもらっているよ」

「なら安心しました。あっ、彼一度熱が入ると周りが見えなくなる時もあるので、万が一の時は死なない程度で止めてくださいね」

「おい真琴。お前は俺のことを何だと思ってんだ」

「昔と相も変わらず色んなことに首突っ込んでは無茶をするなんとも見ていて不安になる奴」

「言いたい放題言ってくれるじゃあねぇか。俺からすれば真琴は……」

「今私のことはいいでしょおぉ」

「あ゛あ゛あ゛?! いだい痛いいたい! わかった、わかった。頼むからつねるのはやめろ!」

「とまぁこんな奴ですけどよろしくお願いしますね」


 今の一連のやり取りで、あの時の女子生徒だなっていう確信が芽生えた。あの黒宮に対してそこまで強気でいられるのは中々のものだと感心してしまう。というよりは、幼馴染で黒宮の事をよく知っているからこそ、そこまで言えるんだと納得してしまう。



「なんだ、楽しそうじゃないか」

「干場さん」


 カップの二つ乗ったお盆を持ったオーナーさんが現れた。


「お待たせしました。アールグレイと、エスプレッソになります」

「まってましたー」

「ありがとうございます」

「それと、ちょいとまってな」


 一度裏のほうに消えて行ったオーナーさんは、しばらくして5号ほどの大きさのホールケーキを運んできてくれた。苺のたくさん載ったショートケーキで、あまーい香りが漂ってくる。何ともおいしそうだ。


「おぉ~!」

「美味しそー」

「お代は蓮が持ってくれるってさ」

「はあぁぁ?!」

「冗談、冗談。サービスだ」

「マジに聞こえるんでやめてください」

「はいはい。ご注文もそろったところでお嬢さん方、お茶会を楽しみな」

「ありがとうございまーす」



 柏葉が器用にケーキを五等分に切り分けてくれた。五等分ってフリーハンドだとなかなか難しいのだが、形は崩れておらず、全てが同じ大きさに見える。


 切り分けてもらったショートケーキをいただき、口に運んだ。


「これは美味しい。スポンジがふんわりとしている。クリームの甘さもしつこくなくて、苺によく合っている」

「そうですよねぇ! 私も始めて真琴ちゃんと一緒にきてこのケーキ食べたとき、美味しくてもう感動しちゃいましたから!」

「干場さんの作るケーキは美味しいですから」

「真琴姉はよく知っているもんねー」

「あぁ」


 ケーキに舌鼓を打っていると、不意に黒宮と目が合ってしまった。昨日のことを思い出してしまい、黒宮もハッとしてお互い目をそらしてしまう。


「それにしてもなんで邦岡さん、黒宮君からそんなに目をそらしているんですか?そういえば黒宮君も」

「いやなんというかなその……」



 こうなってしまうと、だんまりしてこの状況を乗り切るほうが難しいだろう。もうこの際話してしまったほうがいいだろう。


「昨日な、黒宮に猫を撫でているところを見られてな。なんというかその……気まずくてな」

「え、えぇ。こちらとしてはたまたま目撃しただけなんすけどね……」

「邦岡さん。もしかして……」

「な、なんだ」

「また、撫でていたんですか」

「(また?)」


 崎田にそう言われて、体の熱が一気に湧き上がってくる。


「さっ、崎田!? それにまた。って!」

「いやいやー。邦岡さんは隠しているみたいですけど私は知っていますよー。実はこの間、任務帰りに野良猫撫でていたの見てたんですよー」

「!?」

「あとー、この間スマホの待ち受け画面ちらっと見えたんですけど、白猫の写真だったの覚えてますよー。」

「いいい、いやそそそれはだなぁ……」


 少しでも気を落ち着かせようと、私はテーブルに置かれたカップに手を伸ばし、ミルクティーを一口飲もうとしたのだが――――――


「む゛?! うぐう゛」


 口の中に広がったのは甘味ではなく、とてつもない苦みであった。突然の事で悶えそうになったが、この場で吐き出すわけにもいかず、慌てて飲み込み、すぐさまお冷を喉に流し込んだ。


「だ、大丈夫ですか邦岡さん!」

「それ、私のエスプレッソ」

「あっ。そ、そうだったか。済まない」


 どうやら手に取るカップを間違えたようだ。通りで味が違うわけか。改めてカップを確認して、今度間違うことなくミルクティーを口に運んだ。


「邦岡さん、もしかしてコーヒー飲めない人?」

「エスプレッソで断言するのもどうかと思うけど」

「お恥ずかしながら。コーヒーのあの苦みにはなかなか慣れなくてな。コーヒー牛乳とかなら大丈夫なんだが・・・」

「そんなに気にすることはないですよ。ブラックで飲めるのかなんてのは、好みの問題だと俺は思っていますから」



「まぁコーヒー談義はこのくらいにして。邦岡先輩は猫好きなんですか」

「実をいうとな。あんまりそういうイメージって湧かないだろう」

「意外だなぁって思ったのは……そうですね」

「やっぱり」

「ところで、猫飼っているんですか?それだけ好きってことは」

「いいや。飼ってはいないんだ」

「どうしてですか?! そんなに好きなら、飼おうって思わなかったんですか?」

「飼いたいという気持ちはあるんだが、父が猫を嫌っていてな。承諾が下りないんだ」

「あぁ、そうなんですか」

「だからなかなか本物の猫を触れる機会がなくてね。そういう機会が訪れたとなれば我慢できなくてな」

「なるほどそういうことですかー」

「まさか見られたのが黒宮だけじゃなかったとは。穴があったら入りたいとはこういうことか……」



 ケーキも食べ終えカップも空になりつつある頃、私は柏葉からある誘いを持ち掛けられた。


「んー。あっそうだ邦岡先輩。明日って予定はありますか?」

「いいや。日曜は執行班の仕事もないし、特に私用があるわけでもない」

「そうですか。猫好きの邦岡さんにとって、いいところがあるんです。よかったら一緒に行きませんか?」

「それは構わんが」

「ありがとうございます。紅葉ちゃんと希愛ちゃんもどう?」

「行きます行きます!!」

「私もー」

「ありがと。蓮は……」

「俺はいいや。男子俺一人ってのは今もそうだがなんとも落ち着かなくてな。女子四人で行ってきな。」

「あっそう」


「自分でそう言ったとはいえ、俺だけなんかそっけなくないか?」

「別に?」

「……何も言わん」


 また痛い目をみるのを避けようとしているのが、なんとなくだが感じ取れた。


「というか真琴ちゃんエスプレッソ飲めるの」

「まぁね」

「真琴姉色々飲むからね」

「(落ち着かん)」


 気まずい。

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