憧れを形にしたい
この広い空間の中を飛んでいる赤髪の少女。見紛うことなく、それは紅葉であった。
彼女の能力でもある炎を使っているようだ。それを噴出することによって飛んでいる。まだぎこちない感じもするが、それでも彼女は飛んでいた。
「黒宮に草薙じゃないか。どうしたんだ」
「邦岡さん」
邦岡さんは入口近くに立って、向こうの方で飛んでいる紅葉の方を見ていた。
入ってくる時の扉を開ける音で、俺と悠が入ってきたことに気がついたのだろう。
「崎田さん、一体なんの特訓を……って見ればわかる事ですよね」
「まぁ今見てもらっている通りだ。崎田が空を飛べるようになりたいと私に言うもんだから、付き合ってやっている」
「崎田さん、突拍子に凄いこと言いますよね。よく邦岡さんも冗談で受け流さずに応じましたよね」
「冗談で言っているような感じではなかったのでな。それにこの先なにか役に立つかもしれないと、崎田がそういうのでな」
「邦岡さんを説き伏せる崎田さんもなかなかのもんだと思うけどね」
「崎田だって執行班の一員だ。それに彼女の実力は皆高く評価している。信用とはそういう所からも来るものなんだ」
崎田さんは学院の中でもそうだが、執行班でも一目置かれる存在だ。家柄もあるが、何よりもその実力だ。十年程と短いが、歴代の中でも一二を争うほどの実力者との呼び声もあるそうだ。
そして人柄の良さや熱心なところがあり、慕われている。学院内で彼女を嫌うものは、おそらくいないであろう。
「それで邦岡さんはその手伝いをしているわけですか」
「まぁそんなところだ。都合のつく日はこうして相手をしてやっている。しかし私でないとそれが務まらない。それがこの特訓の難点ではあるがな」
「どういうことです?」
「安全面についてのな。少し前に歩いてみろ。すぐにわかる」
そう言われたんで二人で今いる場所から前に歩いてみると、三歩目で早速違和感が。というか違和感より先に感じたのは驚きであった。
「お゛あぁ?!」
「のわぁ!?」
内履きがぐっと沈みこんでいって、次に足をあげようとしたら、今度は弾んで浮き上がる。まるでトランポリンだ。
「この部屋一帯に私の能力を施してある。私達が立っているここだけは元のままだがな」
「何もどうしてこんなことを」
「安全確保のためだ。床や壁に激突されて怪我されたらたまったもんじゃない。もうすぐ東京への遠征もあるからな」
「成程。そう言えばもうすぐでしたね」
「くれぐれも今は能力を使うなよ、黒宮」
「わかってますよ。一応距離は置いておきますね」
万一の誤作動が無いように、俺は邦岡さんから三メートルは離れた。巻き込んでしまうと、此処一帯にかけられた保護が無くなってしまう。
しばらく邦岡さんと話していたら、向こうの方にいる彼女も俺達が来たことに気がついたのだろうか。進路を変えてこちらの方に向かってきた。徐々に減速し、俺達のいる五メートルほど手前に着地した。
「やっほー」
「やぁ、崎田さん」
「蓮君もやっほー」
「や、やっほー。それにしたって、えらく大胆なことを考えたな。空を飛ぼうだなんて」
「なんかカッコイイなーって思ったの! ビューンって飛んで、グワーッて! 想像するだけでもなんかワクワクしない!?」
「あ、あぁ。そう、だな」
擬音ばっかりの説明でよくわからん。さすがにこれで邦岡さんを納得させたとは思えないが、その時はちゃんと説得したんだろう。
「安心しろ黒宮。崎田も自分なりにプランをちゃんと考えてある。私とも相談してな」
今回のことについて色々案はあったと言う。
最初に思いついたのは両足から炎を噴出する方法。しかしこれだとバランスが取りづらく、狂ってしまえば自らの意思とは違う方向に飛んで行ってしまう。
次に思いついたのは両手から噴出する方法。前述の方法に比べてバランスが取りやすく姿勢も安定するが、即座に攻撃に移れないことが最大の欠点。崎田さんの得意とする剣術が死んでしまう。
ならば片手でどうにかならないかと言うのが三つ目の案だ。これなら右手は空くので崎田さんの得意とする刀による戦いは出来なくもないが、最初の案以上にバランスが取りにくく、飛ぼうというなら単純計算でも二倍の出力が必要になる。その結果、一番現実的でない案となったそうだ。
ということで、一番合理的だという二番目の案が採用となった。
「何とか第一目標は達成したのはいいんだけど、その後が問題なんだよねー。これじゃあ刀で戦えないし」
「邦岡さん。現状だとどんな具合なんですか?」
悠が邦岡さんに、これまでの成果について聞いた。
「そうだな。とりあえずは飛ぶという目標は達成した。攻撃手段がどうこうというのはもちろん考えなければならないが、それよりも前にするべきは、細かな調整ができるようになる事だ」
「調整ですか」
「そうだ。自分で制御できないと言うなら実践では使えない。そうだな・・・草薙のマシンガンの弾幕をノーダメージで躱しきれて及第点と言ったところだろうか」
えらいハードル高くないですか?
「知っているか? マシンガンの命中率というのは、ほかの銃に比べると低い。だが今の崎田の動きは直線的で、先読みされて数発は当てられてしまう」
「いやいや大袈裟な」
「でもそれくらいはできるようにならないと!飛んでいったっきり止まれないなんて情けないし!」
「まさにドラッグマシンというわけか」
「一度走り出せば曲がれないってか……」
「っていつから居たぁ!?」
「そなたらが四人で話してからすぐのことだ」
「いるなら一声かけてくれ」
「おぉー、李梨華ちゃんいつの間にー」
いつの間にか俺らの背後に北島さんが立っていた。話しかけられるまで気が付かなかった。
「あの動きは確かに早い。でも直線的な動き。それに急加速、急停止もあって、特に咄嗟の逆方向への方向転換となると一瞬だけ彼女の動きは止まってしまう。動体視力に優れた草薙であれば簡単に動きを制限できるでしょうね。彼に動きを読ませないようなしなやかで柔軟な飛行が必要になる。そういうわけでしょう」
「そんなところだ」
自分で説明しようとしたところを北島さんが説明したため、邦岡さんはその通りだと、一言でまとめる。
「自分の意思で、空中で自在に動けるようになる。それが次の課題だ。それが出来れば実践でも有意義に働く」
「じゃあそれ意識してやってみます!」
そう高々に宣言してから、彼女は向こうの方に走って助走をつけてから再び空中へと飛んでいった。
「口で言うのは簡単ですけど、実際に難しいもんですよね?」
「手先の細かい動き。ひとつ間違えればそれだけで軌道が変わってしまうからな」
「ならば我らは見守ってやるとしよう。紅き翼を携えた姫君の勇姿を」
「翼はないと思うけどな」
そのあとはこの場にいるもので議論しながら、紅葉の特訓に協力した。
「草薙くんも出来たりしないもんかな?」
「流石に銃じゃ飛べないよ……」
「そうだそうだ」
「言ってくれれば障害を破壊する援護くらいはするよ?」
「頼むから余計な被害が出ない程度の火力でやってくれ」
援護射撃は的確に行いましょう。




