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再始動1話

 11月の中盤に入り、ますます訓練に熱が入る日々を拓郎を始めとした3年生は送っている──という言い方は正しくない。2年生も1年生もとにかく必死だ。理由は言うまでもなく、来年の3月でクレアとジェシカが学園からいなくなることが濃厚なので、学びを得られる期間が僅かしかないのだ。


 無論ジャックやメリー、フレーナの指導が劣っていると言う訳ではない。それでも魔女が2人減るという事はそれだけの影響が出るのは避けられない。だからこそ、皆必死に僅かな時間を確実な血肉にするため歯を食いしばって訓練をするのだ。更に、3年生や2年生の一部では3人ぐらいを相手に拓郎がやっている魔法防御、反撃の訓練を取り入れ始めていた。


 むろん拓郎の様に万全な防御が出来る訳ではないので被弾する。だが、だからこそその痛みを糧としてどうすれば改善できるかを考える。そこにジャックやメリー、フレーナの指導も入るのでさらに伸びる。これにより、ついにレベル5に到達した生徒すら現れた。それが、珠美出会った事は珠美本人が一番驚いていた。


「レベル5になったって、ちょっと信じられないんだけど……」「異様な伸びを見せたな……まさか抜かれるとは思わなかったぜ」「珠美は回復魔法を習得するつもりはあるか?」


 珠美が診断を受けてレベル5になっていた事に驚き、雄一がやや悔しそうに声をかけ、拓郎が回復魔法に興味があるかを放しかけていた。むろん拓郎は無理強いをするつもりはない、だが興味があるなら自分の知識を教えようとしているだけである。


「うん、正直私自身が驚いてる。何で一気に伸びたんだろ……ついでだから簡単な回復魔法も覚えようかな。でもさ、雄一も恐らくレベル5になると思う。そう感じるんだ」


 と、珠美の返答。この珠美の直感は間違っていない。雄一もレベル5になるための壁を後わずかでぶち壊す事が出来る寸前まで来ている。彼が真面目に訓練を続ければ、年内にレベル5になるだろう。だが一方で、そこが雄一の限界でもある……魔女の血を受ける事も出来ない以上、雄一のゴールはレベル5となる。


「分かった、ある程度の回復と毒抜きの魔法をあとで教えていく。この二つがあるだけでも全然違うからな……雄一にもレベル5になったら教えるぞ」「マジか、じゃあ頑張らなきゃならねえな」


 こんなやり取りを、クラスメイト達が聞き逃すわけがない。レベル5になったら俺達にも回復魔法を教えてくれるのかという話になっていく。それに対する拓郎の答えは、真面目にやるならもちろん教えるという返答。当然クラスメイト達が色めきだすのは当然だろう。


「目指せレベル5!」「残り時間はわずかだが、絶対なってやるぜ!」「回復魔法がちょっと使えるだけでも、凄い事だもんね。頑張らなきゃ」


 実際、拓郎が珠美に教えると言った回復魔法の二つがあるだけでも、生きていくには困らないだけの仕事が入る。毒抜きは人間だけでなく動物にも使える。毒蛇などに咬まれた事で流し込まれる猛毒を道具などなく一瞬で抜けるというのはどれほどの強みなど、想像しなくても有用性は分かって貰えるはずだ。そして簡単な回復魔法であっても、命をつなぎとめて手術やより回復魔法を使いこなせる人にパスする事が出来るか否かでも差がつく。


 だからこそ、レベル5になったら教えると拓郎が宣言したことは非常に大きい。最悪仕事が見つからないときの切り札になり、命を助けられる切り札にもなる。覚えていて損はない──どころか、需要は青天井。だからこそ、クラスメイト達はここまで興奮するのである。レベル5の壁がはるかに高い事など理解したうえで超えてやるという宣言でもある。


 しかし、珠美がレベル5になった事は、彼女の家に大きな変化を招く事に繋がった。言うまでもないが、珠美の一家は優秀な妹を育てるために両親はお金も時間もつぎ込んだ。妹もそれに応え、中学生でありながらレベル4に到達し研鑽を積み続けている。しかし、ここで塾にもトレーナーもつけてこなかった姉がレベル5になったとなれば──しかも並みのレベル5ではない。基礎をみっちり固めた強いレベル5である。



 翌日、登校した珠美の表情が誰が見ても心配になるほどにやつれていた。誰もが思った、休んだ方が良いんじゃないか? 早退させた方が良いんじゃないかと。しかし、総提案してきたクラスメイトの言葉に、珠美は首を振るだけ。やがて朝のホームルームでやってきた担任ももちろん気が付いて、早退を勧めたが珠美をこれにも首を振って否定の意思を示しただけ。


「珠美、何か家であったの? 正直誰が見ても顔色がヤバいよ? 無理せず休んだ方が良いって」


 そんなクラスメイトの女性生徒の言葉にも、珠美は首を横に振るだけ。此処まで来れば家で何もなかったなんて誰も思わない。見るに見かねた拓郎が珠美に回復魔法を使用する。体力回復もだが、より精神的な疲労を抜くための魔法だ。魔法が終わると、珠美の顔色はかなりマシになっていた。


「珠美、本当に大丈夫か? 家が嫌なら保健室で休んでてもいいんだぞ」「いえ、先生、大丈夫です。拓郎君の魔法でかなり楽になりましたから──」


 担任の言葉に珠美が力なく笑いながら返答を返した。が、流石にそれならいいかと担任はならない。


「珠美、何かあったのだろう? 言いずらい事だろうから後で相談になるぐらいなら……」「──ううん、先生。クラスメイトのみんなにも聞いてもらった方が良いかもしれないから」


 そうして珠美は、昨日の夜家で何があったのかを話し始めた……家に帰って食事をして、片づけをしている時であった。珠美は母親と一緒に食器を洗っていたのだが、母親に学校での話を振られてあれこれと話しているうちにレベル5になった事をついぽろっと口にしてしまったらしい。


 その時は母親はスルーしたが、20秒ほど後に母親の手から洗っている皿が落ちた。床に落ちて皿は割れてしまったが……母親はそんな事はどうでもいいとばかりに珠美に詰め寄った。レベル5って本当なの!? と。そんな大声を出せば当然父親も妹もなんだなんだとやってくる。最初は喧嘩かと思って止めようとしたらしいのだが……


「珠美が、レベル5になったって……」


 震えながら珠美の母親が口にしたその一言で珠美の家は文字通りひっくり返った。漫画的表現で家が飛びあがって一回転した後に着地するイメージで考えて貰えば大体あっている。そこから珠美への質問攻めであった。レベル3であったはずの珠美が一気にレベル5に成長していたことは天地がひっくり返ったような衝撃だったのだ。


「お姉ちゃん、いったいどんな訓練をして……」


 衝撃を受けたのは妹も同じである。自分より訓練時間は短い(と思っていた)姉がいつの間にか自分のレベルを抜いていたのだからショックを受けるのは仕方がない。そして訓練内容を聞きたがるのも自然な事だろう。実際珠美が急に伸びた理由は夏の合宿で多くの貯金を蓄え、訓練を繰り返したことでその貯金にとんでもない利子がついてドーンと帰ってきたのが理由である。


 内容を聞いて、両親と妹は引いた。だがそれ以上に魔女と訓練をする意義を改めて思い知った。その結果──



「妹が飛び級でこの学校に来たいと言い始めて……親も乗り気になって……無理だって散々押しとどめても全然聞かなくて……最終的にはなぜか妹と決闘をする羽目になって……」


 珠美の話を聞いて、誰もが頭を抱えるか天を仰ぐかのどちらかのジェスチャーを取っていた。珠美が経った一晩でどえらい苦労をさせられたことは十二分に理解できたからである。


「ちなみに決闘の結果は?」「妹の魔法を全部無力化して何もさせなかったよ?」「やりすぎやん……」


 珠美の魔法を全部無力化の言葉を聞いてため息が漏れた。即座に突っ込みをした男子生徒の言葉に誰もが同意した。ほどほどにしておくぐらいの加減はできるようになっているはずなのに、なんでそこでベストを尽くしてしまったのか。お金と時間をつぎ込み、本人も必死で苦労しながら努力を積み重ね、その結果が突如成長した姉に何もできずに終わったとなれば……


「妹ちゃんがギャン泣きしたんじゃね?」「自分の努力は無駄だったって感じになるよなぁ」「実際は立派だし、無駄なんて事はもちろんないんだが」「それでも珠美が容赦ねえ。せめてある程度食らったふりぐらいはできただろ」「だって妹の魔法、皆の魔法と比べるとスカスカだったんだよ? 軽い防御魔法を手に張ってビンタするような感じで振り払うと消えちゃうんだよ?」


 クラスメイトからあれこれ言われて、珠美が我慢できなくなったのか反論を口にしたが……それでももうちょっと、手加減をして上げた方が良かったんじゃという声は消えなかった。


「珠美、ちょっとだけ冷静に考えてくれ。今まで自分が必死に積み上げたものがビンタ一つで無に帰したら、それは心が折れるか絶望するかという感覚になるんじゃないかなと思うんだよ。まあ、珠美も決闘ならば全力を尽くすべきという形で行動しただけだろうから悪い訳じゃないんだが……妹さんもそりゃあまあ、ショックだったろう」


 拓郎の言葉に、珠美も「決闘って言うんだし、妹も手加減しないでって言うから……」と弁解する。確かに珠美も悪くはないんだが……妹だけでなく、両親にとってもショックであったろう。まさか姉が、自分達は必死に磨いてきた妹を超えてしまっていたのだから。


「おかげで気が付いたらもう朝で──一睡もできなくて。家族全員今日は一日顔色が悪いままで過ごすことになりそう──私は、さっき拓郎君のおかげで凄く楽になったけど」


 珠美の顔色が悪いのに早退も欠席もしなかった理由はクラスメイト+担任の全員が理解したが……これどーすんの? という空気が漂う事は避けようがなかった……

以前のアカウントがログイン不能に。こちらで続行します。

以前のアカウント情報は一応公式に相談していますが、復帰できるかは分かりません。

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