第3話:最初の監査官——若きレオン
マナ運用局の建物に入ると、俺は——自分自身を見た。
いや、正確には「自分に似た男」を。
20代半ば。黒い髪。鋭い目。
監査官のコートを纏い、青いHUDを瞳に宿している。
俺と——瓜二つだった。
『検出:カイ・ヴェルナー(第一世代)』
『年齢:24歳』
『職業:マナ運用局・筆頭監査官』
『マナ効率:99.1%』
『特記事項:「マナ・レジャー」の開発者』
「これが……俺の、前世……?」
「そうだ」
オズワルドの声が、耳元で響いた。
「お前は、転生者だ。912年前に死に、今の時代に転生した」
「転生……」
俺は、自分の「前世」を見つめた。
彼は——若い男と話している。
白髪ではない。黒い髪の、若い男。
だが、その顔には見覚えがあった。
「師匠……?」
若きレオン・グラナート。
まだ20代の、理想に燃える青年。
彼は、「前世の俺」に向かって、熱く語っていた。
「カイ、世界樹の状態は危機的だ! このままでは、あと500日で枯死する!」
「分かっている、レオン。俺も、同じ計算をした」
「だったら、なぜ動かない! 今すぐ、マナの使用を制限すべきだ!」
「制限? 誰が従う?」
「前世の俺」が、冷たく言い放った。
「人々は、魔法のない生活を想像できない。制限を提案すれば、暴動が起きる」
「だからといって、何もしなければ——」
「分かっている」
「前世の俺」が、立ち上がった。
「だから俺は、別の方法を考えている」
「別の方法……?」
「世界樹を救うのではなく——世界樹が死んだ後も、人類が生き延びられる方法を」
レオンの顔が、驚きに染まった。
「そんな……世界樹が死んだら、マナがなくなる……人類は——」
「滅びない。俺が、滅ぼさせない」
「前世の俺」の目に、強い光が宿った。
「俺は、世界の家計簿を作る。すべてのマナの流れを記録し、最適化し、100年後も、1000年後も、人類が生き延びられるシステムを」
「……それが、お前の答えか」
「ああ。俺は、『今』を救うことを諦めた。だが、『未来』は救う」
俺は、自分の前世の言葉を聞いていた。
彼は——俺と同じだった。
冷徹に、数字だけを見て、感情を排除している。
だが、その奥には——確かな意志があった。
「カイ」
若きレオンが、「前世の俺」の肩を掴んだ。
「お前は、間違っている」
「間違っている?」
「『今』を救うことを諦めるな。俺たちが動けば、まだ間に合う」
「間に合わない。計算した」
「計算だけで、世界は救えない」
レオンの目に、涙が浮かんでいた。
「お前は、人の心を見ていない。数字の向こうにある、命を見ていない」
「……」
「カイ。頼む。俺と一緒に、『今』を救ってくれ」
「前世の俺」は——長い沈黙の後、答えた。
「……考えておく」




