女だとばれる時6
「メルデル様。新しく入った使用人のケリーです」
「旦那様。ケリーです。よろしくお願いします」
ベルチ伯爵の夜会から数日後、新しい使用人が入った。夜会の際に話をされることはなかったのだが、翌日に伯爵の招待状を携えてケリーはやってきた。念の為と照会したら、伯爵から紹介が遅れたことの詫び状と共にケリーのことを頼まれ、雇い入れることにしたのだ。
「メルデル・キャンドラだ。こちらこそよろしく。何か相談事があれば、ジャミンを通して私にいつでも聞いてくれ」
「はい!」
ケリーは元気よく答え、ジャミンと共に部屋から退出する。
新しい使用人のケリーは小柄ながらもよく働く娘で、他の使用人からの評判もいい。ベルチ伯爵の頼みとはいえ、急に雇い入れたことに対しては反発がないようで、メルデルは安堵する。
(これで余裕ができたはずだ。ジャミンにも休みを取らせたい)
最近は落ち着いているように見えるが、やはりたまにおかしな言動をするので、メルデルはジャミンを心配していた。
しかし、執事で彼の養父のベッヘンに相談したが、ジャミンはやはり休暇を取るつもりはないようだった。
「最近は、誘いがきませんね」
ある時書斎で書類を確認していると、ジャミンがふいにそう漏らした。
「そうだな」
誰の誘い、そんな問いを返すことなくメルデルは相槌を打つ。
ベルチ伯爵の夜会から2ヶ月が経っていた。
あれほど頻繁にきていたサラサンの誘いが止み、夜会や茶会に参加しても、彼が姿を現すことはなかった。
「おかしな噂が流れ始めていたので、私は安堵しております」
「ジャミン?」
「メルデル様。キャンドラ領のお茶の購入者は多方に渡っております。無理に誘いにのることなどないのです」
ジャミンは畳み掛けるように言葉を続ける。
「私は無理などしてない」
王族からの誘いは命令に近い。断るのは困難であるが、メルデルは嫌々ながらサラサンと会っているわけではなかった。
彼と会うと温かい気持ちになり、張り詰めていたものが解けるような、そんな穏やかな時間を過ごせていた。なので、こうして2ヶ月も会っていないと寂しさを感じる。
(殿下は第二王子だ。伯爵の私と頻繁に会っていたことが自体がおかしかったんだ。……多分、飽きてしまわれたのだろう。カナル子爵のように)
カナル子爵の悲しげな表情を思い出して、メルデルは目を閉じた。
「メルデル様?お疲れですか?」
「そうだな。ちょっと休憩したい。ジャミン、1時間ほど休むぞ」
「畏まりました」
ジャミンは一瞬切なそうにメルデルを見つめたのだが、すぐに表情を改め一礼すると退出する。メルデルは彼が一瞬見せた表情に気がつくことはなかった。
書斎の隣には小部屋があり、室内でつながっている。メルデルは扉を開けるとベッドに身を投げ出した。
疲れているのは言い訳のつもりだったのだが、体は休みを欲していたらしく、目を閉じると彼女はすぐに眠りに落ちた。
☆
「メルデル様!」
大きな声で彼女は起こされた。
「な、何かあったのか?」
起こしたのはジャミンであったが髪を乱して焦った様子で、メルデルは跳ね起きた。
「王宮から使者が参っております。メルデル様に直接お渡しする書状があるそうです」
「書状?」
緊迫した雰囲気が彼から漂っており、メルデルはすぐにベッドから立ち上がると身だしなみを整える。ジャミンの後ろに控えていた使用人から布を受け取り顔を拭うと、彼から渡されたジャケットと羽織った。
そうしてジャミンに着いて使者が待っている応接間へ向かう。
「キャンドラ伯爵。こちらが陛下からの書状です」
使者は挨拶もそこそこに書状を渡す。
メルデルは書状を束ねる紐と解き、広げる。羊皮紙1枚のそれには王の署名と王印がしっかり押されていた。
『メルデル・キャンドラ。女性でありながら男性と性別を偽り、伯爵位を継承した事の罪は重い。追って処分を伝えるのでキャンドラ領で謹慎を申し渡す』
思ってもいないことで彼女は目眩を覚えた。けれどもここで倒れてしまっては皆に迷惑をかけると顔を上げた。
「メルデル・キャンドラ。陛下の命に従い、キャンドラ領にて追加処分が伝えられるまで謹慎処分を甘んじて受け入れます」
メルデルは書状を持ったまま、使者に首を垂れる。すると漆黒の制服を纏った男は頷き、踵を返した。
「メルデル!どういうことなの?」
使者が去り、最初に言葉を発したのは母のリゼルだ。
「人払いをお願いします」
乾いた声でそういうと、リゼルはすぐにジャミンを含み使用人を部屋から退出させる。部屋に残ったのは、メルデル、母のリゼル、弟のカイザル、そしてベッヘンのみだけだった。




