女だとばれる時5
「次はいつがいいかしら?」
「おまかせします」
サラサンはメルデルの返事を聞くと、嬉しそうに微笑んだ。
アンダム家の午餐会から二週間後、サラサンにお茶に誘われ王宮を訪ねる。それからも何度も誘われ、メルデルはサラサンのお気に入りとして周知されるようになっていた。
幼馴染で執事見習いのジャミンは、彼女が王宮に呼ばれる度に心配そうな顔をしていて、その度にメルデルは説明する。
サラサンはメルデルに対して無体なマネなどしない。
噂通りの人ではないと。
時折見つめられることがあるが、嫌な視線などではなかった。
見つめられる度にメルデルの心が喜びで満たされ、サラサンと会うのが楽しみになっていた。
「キャンドラ伯爵。お久しぶりですね」
「カナル子爵。ご無沙汰しております」
領地のお茶の購入者の一人でもあるベルチ伯爵の夜会に、メルデルは招待された。
久々の夜会で少し緊張していたところ、声をかけられ挨拶を返す。
半年以上前に一度だけ挨拶をしたことがあるだけで、名前を覚えていてよかったと彼女は安堵する。
子爵はメルデルと同じくらいの背丈の小柄な青年であり、顔も中性的。本当は女性である彼女が彼は本当は女性ではないかと疑うくらい、華奢だった。おかげで男性としては細身のメルデルが女性とバレないでいるのも彼のおかげかもしれない。
そんなことを思いながら、カナル子爵を眺める。
「サラサン殿下はお元気ですか?」
ふいに問われたことに彼女は瞬時に反応ができなかった。
「殿下には以前懇意にしていただいたのです」
カナル子爵は目を伏せながらそう続ける。
どう返していいかわからず迷っていると、急に会場がざわめく。
「……どうやらいらっしゃったようですね」
彼はメルデルから目を離すと、会場を見つめた。
彼女は意味がわからなかったが、同様に視線を向ける。
そこにいたのは紛れもなく第二王子サラサンで、この機会に近づこうとする貴族たちに囲まれていた。
挨拶に行くべきか、迷っていると、彼がメルデルに気がつき、群がる貴族たちから逃れこちらにやってきた。
「メルデル」
数歩まで近づいたところでサラサンはにこやかに微笑みながら、彼女を呼ぶ。けれどもその隣のカナル子爵に気がつき、眉を顰めた。
「サラサン殿下。お久しぶりです」
子爵は下から数えたほうが早い下位の貴族だ。
王族に声をかけるなど不敬に近いはずなのに、カナル子爵は平然と声をかけていた。
「久しぶりね。カナル。メルデルに何の用かしら?」
「サラサン殿下。以前のようにジョセフとお呼びください」
カナル子爵は質問に答えず、そう返した。
(そういえば以前は懇意にしてもらっていたと言っていたな)
二人のやり取りを目の前にしてメルデルはジョセフことカナル子爵の言葉を思い出す。
「カナル。私は質問しているの。メルデルに何の用?」
「サラサン殿下。私はキャンドラ伯爵に挨拶をしていただけですよ。他意はありません」
「そう。メルデル。ちょっと話したいことがあるの。こっちへ」
「殿下!?」
サラサンはカナル子爵を睨みつけると、メルデルの手を掴む。振り払うわけにもいかず、彼女はされるがまま、彼についていくしかなかった。
「ここまでくれば大丈夫ね」
いつの間にか中庭に連れてこまれていて、以前のことを思い出し赤面する。けれども今日は二人の他誰もいないようだった。
「あのね。誤解しないで。カナルが何を言ったかわからないけど」
「誤解?どういうことでしょうか?」
誤解とはなんだろうととメルデルはサラサンを見上げる。
暗がりの中で表情はよく見えなかったが、困っているようだった。
「懇意にされていたとカナル子爵はおっしゃってましたが、誤解とは?」
「なんでもないわ。ごめんなさいね」
「殿下が謝ることなどとんでもございません」
ふいに謝罪されて、メルデルは首をたれる。
「メルデルはそうよね。うん。わかっていたわ。さあ、会場に戻りましょう。おかしな誤解をされる前に」
(おかしな誤解とは、ああ、サラサン殿下は男色の噂があるから、それか。ということはカナル子爵との誤解とは……)
急にサラサンの言葉の意味わかり、メルデルは立ち止まる。
そして自分の頬が上気していくのを感じて、見られないようにと顔を伏せた。
「メルデル?どうしたの?」
「なんでもないです。あの、誤解の意味がわかりました。あのカナル子爵も誤解されているのでそれを解いたほうがよいかと」
「誤解ではないわ」
「え?」
「な、なんでも。カナルには話すことはないわ」
(……まさか、サラサン殿下は私にそういう気持ちを?いや、でも、それは)
メルデルは困惑していた。
「どうしたの?」
「何でもございません」
まさか自分に対してそういう気持ちがあるのかと聞くこともできず、メルデルはその問いに答えず、サラサンに着いて会場へ戻る。
それからどうしても落ち着くことができず、メルデルはサラサンにぎこちない態度しかとれなかった。




