女だとばれる時2
「どうした?」
幼馴染で執事見習いのジャミンが妙に苛立っているように思えて、メルデルはそう聞いてしまった。
「……やはり行かれるつもりですか?」
「当然だろう。断るなどありえない」
シュロソを株分けしてもらい、お礼の手紙とお茶やキャンドラ領で取れた葡萄などの果実を送った。本当であればもっと気の利いたお礼をしたかったのだが、思い浮かばなかったのだ。
翌日、サラサンから手紙が届き、それは次のお茶会への誘いだった。
前回のお茶会の参加者へ試供品をキャンドラ領から送った。その後、業者ではないので数は多くないが、注文がいくつか入っている。
今回のお茶会は二人だけのようで、本当に話相手になるだけだ。
色々噂される第二王子だが、王族には変わりなく、その誘いを断ることは余程の理由がない限り不敬にあたる。
ジャミンにはわかっているはずなのにと、メルデルは彼の質問の意図がわからなかった。
「なるべく接近されないように心がけてください」
「どういう意味だ?」
おかしなことを助言されて、彼女は思わず剣呑に返す。
「その、第二王子殿下に置かれては、色々噂がありますので心配しております」
「噂か。確かにサラサン殿下の話し方は女性的で……」
メルデルはジャミンに答えながら彼の様子を思い起こす。
確かに女性に対する態度は少し硬いように思えたのは事実だった。
男色家の噂は事実かもしれない。
けれども、自身の対して、過度な接触があったことはなかった。むしろ、メルデルのほうが髪に触れたりと近づきすぎたかもしれないと思い起こして、少し恥ずかしくなった。
「メルデル様?」
「な、なんでもない」
もしかしたら頬が赤らんでるかもしれないとメルデルはジャミンの視線から逃げるように顔を背けた。
「私も同行してもよろしいでしょうか?」
「何を言っているんだ?」
ふいに問われ、彼女は目を見開いて幼馴染に再び顔を向ける。
「……馬鹿なことを尋ねてしまいました。お気をつけて。私は他の準備をいたします」
ジャミンははっと我に返ったようにメルデルの視線から逃れ、首を垂れた。
「ジャミン。大丈夫か?」
様子がおかしい。
体調が悪くなったかと彼女は心配になった。
「大丈夫です。ご心配なく」
ジャミンは笑みを浮かべ、部屋を退出した。
「大丈夫じゃないな。働きすぎじゃないか?」
メルデルは誰もいない部屋でつぶやく。
執事見習いの期間をもう終えていいのではないかと思えるくらい、ジャミンは執事然としていて、養父ベッヘンの仕事を担当していた。もう引退してもいいかもしれないとベッヘンが冗談を言えるくらいだ。
執事見習いを始める前から使用人の仕事をしてもらっていたが、今は両方の仕事をしているようだった。
「ベッヘンに相談してみよう」
サラサンとの茶会が終わったら、ベッヘンにジャミンに少し休暇を取るように促そうと決め、メルデルは出かける準備を続ける。
準備といっても、着替えにすぎないが。
女性であることがバレないように、彼女は着替えを一人で行う。
ドレスと異なり、コルセットをつけたりしなくていいので、着替えは一人でも十分だった。
(こういう時、本当に男装は楽だと思う)
「男子」であるため、女性が如何にドレスと纏い、化粧しているのか、メルデルは見たことがない。けれども、想像はできるのでその様子を浮かべるだけで疲れを覚えた。
(馬鹿だな。ドレスなんて着ることもないのに。着たいとも思わないのに)
想像するだけ無駄だとメルデルは自嘲した後、ジャケットを羽織る。
(サラサン殿下の迷惑にならないようにしなければ)
姿見で自身の全身を確認して頷くと、部屋を出た。