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遙かなる望郷の地へ-82◇「公都攻防戦6」

■ジョフ大公国/公都/公都前防衛陣地


☆☆☆ 更に二時間経過 ☆☆☆


「それはまことか?」


 宮殿の謁見の間には、難しい顔をしたカイファートが玉座の斜め前に立っていた。玉座には、幾分硬い表情を浮かべたレアランが座っている。


「恐れながら事実でございます。リェス隊長麾下の軽騎兵第一連隊は、優勢な巨人軍に遭遇した模様。第一連隊の状況は不明ながら、相手方がオークのみならず、一群の巨人をも含んでいる──その様に、グラン様から伝えるようにとのことであります」


 第四連隊の記章を付けた兵が、片膝を付いて報告する。


「・・・判った。御苦労だったな。今宵はゆっくりと休むが良い」

「はっ。では、これにて失礼させて頂きます」


 軽騎兵が下がった後──カイファートはレアランに話しかけた。


「これだ事実だとすれば、ゆゆしき事態となります。オークレイダーだけでも手を焼くでしょうに、この上巨人とは。」

「・・・巨人が相手ですと、ツィーテンさまの縦深陣地では持たないかもしれません。至急、ツィーテンさまにお逢いして話しましょう」

「御意」


 レアランとカイファートは謁見の間を出ると、公都前面で陣地構築を指揮しているツィーテンの元に急いだ。


               ☆  ☆  ☆


「あらら~攻めてくるのはオークだけでは無く、巨人も一緒なんですか」


 レアランとカイファートから緊迫した状況を説明されても、緊張感もなくあっけらかんとツィーテンは笑った。そもそもこの男、緊張することがなるのだろうか? そんな反応に、多少渋面を作るカイファート。傍らに佇むレアランも、流石に心配そうだ。


「如何にも、ツィーテン殿。大戦士殿からの連絡によると、一群の巨人が南進中で、公都に向かう公算が非常に大きいとのことですな。現在構築中の陣地も、巨人に併せて変えねばならんでしょう」

「いえ、その必要は無いと思いますよ」


 一転真面目な口調で言うと、ツィーテンは作戦卓の上に大きな紙を広げた。ツィーテン手書の“設計図”である。カイファートとレアランはその紙を覗き込んだ。


「ふむ、これが“要塞線”の全体像ですか。」

「その通りです」

「戦力の配置は、如何されるつもりか?」

「三段構えの布陣で、最初の二段までは一撃で撤退します。最後の三段目が主抵抗線になりますね」

「弓兵だけでですな?」

「その通りです。途中の障害と壕で足止めされているところを弓兵とカタパルト部隊が曲射。各ポイントの拠点に配備されたバリスタは相手を直射。拠点は相手に取り付かれそうになったら即座に撤退します」

「相手は、数に任せて正面攻撃を行うと思うが?」

「無論、それは予想しています。それに、損耗したとして引かないでしょうしね」

「それが判っていて、尚もこの布陣なのか?」

「そうです。火と水と人の力で、見事相手を撃退してみせますよ。彼らは必ず夜攻めてくる。そして、夜目が利く彼らの特性を逆手に取るのです」

「成る程──オークに対する布陣は判り申した。しかし、巨人に対しては如何に対応するのか?」


 オッホン、と咳払いするとツィーテンは不適に笑って行った。


「その点こそ、こちらにとって更なる利点となるのですよ。

 実際のところ、問題なのは相手側の士気の高さです。数の強みを追い風として、滅多なことではモラルブレイクしないと考えた方がいいでしょう。特に、巨人が加勢している状況では尚更ですね」

「・・・良いところ無しといった状況に思えるが、錯覚かね?」


 先程の説明とは矛盾する様だが、とのカイファートの突っ込みにも涼しい顔でツィーテンは続けた。


「いいえ。相手方の強みと思っている点──それこそが、相手の弱点なのです。ご存じの通り、巨人は強力な戦力です。その反面、練度も知能もオーク達より遙かに低い。つまり、オーク達の方が巨人の行動を優先させる様な仕組みが無ければ、相手方はいたずらに混乱することになります」

「なるほど。そこを突く訳か」

「はい。オーク達の練度も、私たちに比べて高いとは言えません。従い、巨人の行動を許容出来なくなる状況に、相手方を追い込めばいい」

「この“発火点”とかかれている場所──これがその布石となる訳ですのね」

「ご慧眼です、大公女殿下」


 慣れぬ事柄ながらも、真剣に作戦図を追っているレアランに、ツィーテンは大きく頷いた。


「如何に早く、完璧にこの縦深陣地を完成させるかが、私たちの死活問題となってくるでしょう」

「市民は、最大限に協力するだろう。すでに、大勢の者が協力を申し出てきてくれている」

「頼もしい限りですね」


 心からの言葉に、レアランもカイファートも笑顔で応えた。

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