遙かなる望郷の地へ-53◎「深まる懸念5」
■ジョフ大公国/宮殿/大広間
「いいけど、教える見返りは?」
理解が難しいような、摩訶不思議な言葉が口にされた。本人は至って平静、にこやかに笑っている。
「み・か・え・り・だよ。わかんないかな? MIKA-ERI、ぎぶ・みー・さむしんぐ・ばっく、戻し入れ、キャッシュバック・・・」
「・・・では、どの様な見返りをお求めなのでしょう」
その表情にいつもの笑みを戻して、レムリアが尋ねた。
「そうだね、夢見姫。キミがボクと一晩付き合うことでもいいよ」
「一晩、お付き合いするのですか?」
「そう。そのとーり」
さしものレムリアも、苦笑いを浮かべて言った。
「別の条件をお伺いした方が宜しいでしょうね」
「駄目なのかなぁ?」
「駄目でしょう」
「そっか。なら、情報提供しない」
「それは、困りましたわ」
「だろ? だからさ、解決策は簡単だよ。一晩、ボクと一緒にいるだけさ」
「・・・倫理観の問題かと思うのですが、貴方にはそのような概念はありませんの?」
「気分次第だね。もっとも、貴女みたいな美人を目の前にして、何もしないというのは僕の理念に反するよ」
「理念・・・ですか・・・」
“賢女”の誉れも高いレムリアが、珍しくも“困りました”という表情を浮かべた。
「・・・シレイナス殿。もしも私やレムリアのことを試すつもりなら、そのくらいにしておいてください」
唇の端に皮肉っぽい冷やかな微笑みを浮かべて、エリアドが合いの手を入れた。
「まぁ、言葉通り、『あなたがレムリアと一晩一緒にいるだけ』なら、私はかまいませんけれどね。むろん、私はその言葉以上のことをさせるつもりはありませんし、その場には私もご一緒させていただきますが。
『この世界と彼女とどちらが大切か?』 なんて野暮なことは聞かないでくださいね。私には、どちらも大切なのものなのですし、まだ、この身を“闇”に投じるつもりはないのですから」
少しだけ考える振りをすると、エリアドは良い考えが浮かんだとでも言うように続けた。
「・・・そうですね。代わりに、私が一晩お相手する。などという条件ではいかがですか?」