遙かなる望郷の地へ-22◆「富国強兵2」
■ジョフ大公国/宮殿/宰相の部屋
「あの・・・」
遠慮がちに口を開いたのはレアランだった。
「飛翔軍に加えて貰うことは、わたくしがカイファートさまにお願いしたのです。わたくしも、護られるだけではなく、国民を護りたいのです・・・」
非力なわたくしですが、出来ることを精一杯やりたい、とレアランは言葉を結んだ。
「大戦士殿。確かに、大公女殿下から件のお話しを伺ったとき、最初はどうかと思いました。大戦士殿が指摘されたように、“前に出る”ことには危険が付き物ですからな」
今、もしもジョフの民の“心の支え”たるレアランに何かあったら──弱小国のジョフは、ひとたまりもなく瓦解してしまうことだろう。
「それでも、敢えて私は大公女殿下の飛翔軍への編入を認めました。大公女殿下の心配は、無論私も抱いております。だが、今のジョフには例外を設けている余裕がない。一瞬の対応の遅れが、この国を容易に崩壊させてしまいます。大戦士殿のご心配も判りますが──私には早期警戒の飛翔軍を強化できる機会に目を瞑る訳には参りません」
そっとレアランが言葉を足す。
「わたくしの我が侭を、カイファートさまには聞いていただきました。国民の安寧を護るのならば、わたくしは率先して我が身を捧げましょう」
真剣なレアランの言葉に、有るか無しかの笑みを浮かべると。
「無論、大公女殿下の安全には十分な配慮を致しますぞ。リスクは付き物と言えども──座して待つ訳ではありませんので」
「・・・」
グランには、何もかもが予想できる範疇であったが、途中で口を挟まず、最後まで沈黙を続けた。何度か意を決して言葉を選び発言をしようとしたが駄目であった。
「判った・・・だが絶対に無理はしないでくれよ・・・」
漸く口にした自分の言い様にグランは些か情けなさを感じたが、これ以外に言葉が出なかったのである。
“やれやれ、苦しい台所事情は判っていたが此処まで厳しいとはなぁ。いっそ頭を下げてでも阿呆のハンスーに兵を借りるか…心の騎士団所属時の自分の配下の戦力をヴェルボボンクに行って借りられないだろうか・・・”
どちらにせよ政治的に面倒くさく思い、グランは言葉には出さなかった。
「やれやれ」
グランは大きく溜息をつくと、一言こぼしてしまった。