↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二重転生(ダブルリンカーネイション)  作者: 宮沢亮
第三章 勇者の資質と英雄の条件
42/81

第三十二話「黒髪奴隷と天才軍師」


 城下町を東に抜けクーリア城を迂回するように移動すると、そこには本当に千人近くの兵士が立っていた。銀の鎧を身に包み、剣や槍、弓を装備した兵士達が等間隔に並んでいる。


 戦闘で怒声を響かせていたウェザロブが僕とクィンクの存在に気づいて駆け寄ってくる。


「大将! すまん! 迎えに行きたかったんだが兵士達をまとめるのに精いっぱいでさ!」

「いえ、それは構いませんが、本当に指揮官が僕で良いんですかね?」


 立ち並ぶ兵士達は全員、銀の兜を深々と被っていた。

 その奥に光る眼光が何を宿しているのか、僕には予想もできない。


「何を言ってるんだよ! あんた以外に誰がやれんだよ!」


 と、ウェザロブは僕の肩をがっしりと抱いた。

 上官に向かって酷い態度だと思うけど、明るくて話しやすいのでかなり助かる。


「一つの部隊を三十人構成で三十隊作ってある。残りの百人は炊事や洗濯、治療が役目だ」

「全員の名前を把握している暇はなさそうですね……」

「なぁに、あんたは大将なんだから末端の名前なんて覚えなくても剣を掲げて行けぇ! って命令すれば良いんだよ!」

「それって僕がいる意味あります?」


 するとウェザロブは真剣な面持ちで、


「いや、正直な話、魔王以外はあんたの出番はねぇ」


 と言った。クィンクが何か言いたげに一歩前に出たがウェザロブが手で制止した。


「分かってる。もちろんあんた一人で戦わせるなんて無責任な事はしねぇ。俺らだって本当はあいつを自分の手でぶっ殺してぇのよ」

「どんな魔王なんですか?」


 クィンクの質問にウェザロブは青ざめた顔で、


「とにかくでけぇ。馬車が五つは積み上げれそうなほどでけぇ。なのに速くて、頭が良くて、魔法も使いまくってくる。魔王と言う名が相応しい存在よ」


 馬車が五つ……。しかも速くて頭も良いなんて勝てるのだろうか。


「ただ回復魔法を覚えてねぇからよ。魔道師をいつも近くに配置してんだ」

「では、あなた達は?」

「ああ、その魔道師達をぶっ殺してやるよ!」


 なるほど、僕達が魔王と戦っている間に兵士達で魔道師を倒す。

 回復の手段を失った魔王に対して物量戦を仕掛けるという事か。


「分かりました。出来る限り頑張ります」

「何だよそれ、男ならやってやるくらい言ってくれよ大将!」

「う、うん。頑張るよ」


 ウェザロブが僕の胸をトンと叩いた。

 何だか今まで出会った事のないタイプで頼もしい。


「そう言えば今日は違う服を着ているんですね。銀色の甲冑に黒の服ですか」


 クィンクの問いにウェザロブは、


「だっせぇだろ。でもなぁ、あの服は遠征するのには合わないんだよ。ましてや今回は魔王討伐だ。夜戦もあるだろう。目立つ色は避けたいって考えよ」

「そうですか……」


 何やら気になる事があるようだ。クィンクは小さく頷くと顎に手を置いて考え事を始めてしまった。

 するとウェザロブが僕を引き寄せて、


「あんたの隊には女を用意してある。あんたと同じ黒髪の珍しい女だ。好きにして良いぜ」


 と小声で言い放ち去って行った。

 そう言えば僕以外の黒髪を見るのは初めてだけど……もしかして。


 ◆


 あっという間に遠征が始まった。


 馬車にはペンキのようなもので「クリアハルト軍」と書かれている。三十以上ある馬車全てにだ。

 黒色の甲冑のマークが描かれており、天辺から黒い髪がポニーテールのように伸びていた。これが僕のトレードマークか。少しカッコイイかも。


 僕の乗る馬車はひと際頑丈な造りをしてあり、布で覆われるべき所が鉄板で囲われていた。重量があるのか馬の数も二倍で、それぞれに豪華絢爛な布が掛けられていた。

 走り出して気付いたが、車輪には御者が魔法を掛けているらしく振動はほとんどない。


 中には簡易ベッドに机と椅子、果物や水が山盛り入った箱が用意されている。

 大剣士ってここまで優遇されるのか……。


 少なくとも移動する間は快適に過ごせそうだ。

 クィンクも一緒だし思ったより悪くない。


 ただ問題が一つ。


「………」


 馬車の端でジッとこちらを見つめる女性……というより女の子。

 首輪をされており鎖で壁と繋がれていた。

 布一枚羽織っているだけで、奴隷みたいな扱いをされている。

 腰まで届く黒髪にぱっちりした茶色い目、肌は白色に見えるけど黄色人種の肌に近い。

 体型はレイブランドやクーリアの人よりも寸胴で、顔立ちも美人と言うよりは可愛らしい感じだ。


 うん、間違いない。

 黄色人種に似ているというより、黄色人種だ。


「リンクル、彼女は僕の前世と同じ日本人だ」

「えっ!?」


 僕は彼女に近づき、声を掛ける。


「あの、あなたは日本人ですか?」

「あ……あ……」


 少女は何か言いたげに口を開けるが、声が出ない様子だ。

 仕方ない、とりあえず鎖を外して敵意がない事を伝えるか。


「火の神よ。我の意思に応じて鉄を解かせ」


 レイブランド式の呪文詠唱を唱える。

 だが、発動しない。


「魔法が発動しない」

「どうやら魔法の効果を打ち消す魔法まで掛けているようね」


 本来は外の攻撃から身を守る為の魔法だろう。

 だが、あまりに威力が強すぎて中にいる人間まで使えなくなっていた。


「呪文で永続させる魔法は存在しないから、恐らく馬車に直接魔法陣が描かれているのね。基本的に魔法を打ち消したり人間を拘束し続ける魔法って言うのは箱の中のような限定的な場所でしか使えないから覚えておいて」

「仕方ありません。次に停車した時に外すように言いますから」


 笑いかけると少女も苦笑いを浮かべた。

 無理やり笑顔を作っている様子で、僕の事が怖いみたいだ。


「でも好きにするってメイドさんなら鎖に繋いだら意味ないと思うんだけどなぁ」

「……ええ、そうね」


 道中、少女に見つめられて気まずい思いをしながらも、気がつけば夜になり野営を組む事となった。

 展開が速すぎてとてもじゃないがついていけない。

 こんな事で大丈夫だろうか。


 ◆


 夜、魔法を使えない為、馬車内を照らすのは蝋燭の明かりだけだった。

 クィンクがウェザロブに聞きたい事もあるからと、少女の鎖の件の事を話に行った。

 僕は彼女を一人にする訳にもいかず、椅子に座って時間を潰す。


 この大陸に来てまだ二日目。

 それなのに魔王討伐の為に千人の兵士を率いて遠征に出ている。


「訳が分からない……」


 溜息が漏れる。こんな事は想定外だ。

 同じ命の危険ならレイブランドの、オルアルク家の未来の為に冒したかった。


「フレア姉さん……」


 目を閉じると赤い髪のエルフが思い浮かんだ。

 いやそれフレアハート本体だから。

 僕の姉さんは今、ジェイクハルトだ。


 うん、でも……フレアハートは綺麗だったな。

 中身がクリアハルトだと思うとゲンナリするけど、フレア姉さんだと思うとドキドキする。


「どうかご無事で」


 両親も、バルサも、アネスタも皆も無事だろうか。

 クィンクは一年ほどしてから帰郷すると言っていたが、とても心配で待てそうにない。


「ただいま、悠人」

「リンクル!」


 悩みの底に沈んでしまいそうになったタイミングでクィンクが戻ってきた。

 浮かない顔だ。何かあったのだろうか。


「ウェザロブと話してきたけど、旅が終わるまでその鎖は外さない方が良いわ」

「どうして?」

「この子はニッチェルの奴隷らしいのだけど、脱走癖があるみたい。今脱走されても困るでしょ?」

「だけど……」

「大丈夫。その代わり遠征が終わったら奴隷から解放する約束をしたから」

「本当ですか!?」


 僕が少女に笑顔を向けると、少女はまた苦笑いを浮かべた。

 やはり何を言っているのか分かっていないのだろう。

 そう考えると日本人である可能性が高い。


「名前はイリア。黒髪の少女が三人同時に競売にかけられた事があったらしくて、珍しいから買ったと言っていたわ」

「イリア……」


 黒髪の少女が三人同時に現れるなんてますます地球人である可能性が高い。


「ただイリアは最初から言葉を喋られないみたい」

「紙があれば日本人かどうか確かめられるのに……」

「大きな荷物は宿屋に預けたままですからね」


 こうなったら仕方がない。

 魔王を倒し、解放してから話を聞こう。


「何かゲームみたいだ」

「ゲーム?」

「あ、いや、こっちの話」


 お姫様を救い出すゲームみたい、なんて言ったらクィンクがまた怒りだしそうだからな。

 ……そう考えると嫉妬してくれているのだろうか。


「そう言えば、僕もウェザロブに会いに行っても大丈夫ですかね?」


 面白い話が聞けそうだし、これからの話もしたい。

 出来るなら数多くの兵士と話をして連携を高めたいしね。


 だが、クィンクはピシャリと、


「駄目です。子供が夜に出歩くなんてもってのほかです」


 と僕の提案を却下した。

 兵士達の楽しそうな声が微かに聞えるのに出歩いてはいけないなんて、クィンクは厳しいな。

 その日何度もクィンクの隙を伺ったが、入り口側で座って眠る彼女をかいくぐる事はできず、気づけば朝が来てしまった。


 ◆


 ◆


 ◆


 翌日、再び馬車を走らせ続けたクリアハルト軍はとうとう国境を越えて隣国へと入った。

 と言っても国境に関門がある訳でもなく、同乗したニッチェルが「大体この辺りですね」と教えてくれただけだが。


 ニッチェルが僕達の馬車に乗っているのは、いよいよ僕やクィンクに出番が回ってきたからである。


「フレメイラは悪魔と呼ばれる羽根のある魔物達に支配されています。しかし昼間の奴らは動きが遅く、判断力も鈍っています。攻め落とすチャンスです」


 机の上に広げられたフレメイラ城の地図。

 地下に造られた神殿のような城で、迷宮のように中が入り組んでいる。


「悪魔の長はクイーンと呼ばれ、一番奥の部屋で悪魔の子を産み続けています」

「そのクイーンを倒せばフレメイラの人達は助かるの?」

「ええ、その通りです」


 城の配置図を見る限り、地下の構造は船を沈めたようになっている。

 クイーンのいる場所はちょうど船尾に当たり、後ろには大きな壁があった。


「土の上級魔法で後ろから回りこめないかな」

「なっ!?」


 ニッチェルが目を見開く。

 いや、この地図見る限り船首から入って攻略する必要ないでしょ。

 するとニッチェルもクィンクも地図を眺めながら、


「「すごい……」」


 と唸り声を漏らした。

 うん、クィンクは自分で言っていた通り兵法とかの知識が皆無らしい。


 もしかしてゲームとかで培った知識だけで天才軍師になれる世界なのか?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。