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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第1章 江戸時代にラーメン屋をつくるためには

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敬忠の告白

「そろそろ、打ち明けてもいい頃合いと思う」

 箸を置き、ゆっくりと話し始める敬忠。

「”令和”の世、私は一介の―――いや難しい言いまわしはやめよう。まあ、平凡なサラリーマンだった。尤も正社員と派遣の中間くらいの待遇だったが。性別も今とは違う」

 敬忠の告白に瞬はただじっと敬忠を見つめる。

「結婚もしていなかった。ああ、それは今も同じか。尤もこの世のように死別したわけではなく、ただ未婚であったのだが」

 死別、という言葉に瞬は反応する。再び聞く敬忠の過去の話。そしてさらに未来の”令和”のことも。

「家族もなく、まあダラダラとアニメを見たり、スマホでゲームをしたり―――そんな中で唯一熱中していたのが”ラーメン”であった」

 じっと敬忠の顔を見つめる瞬。敬忠は更に続ける。

「食べ歩きだね。東京だけではなく、千葉や埼玉、東北や北海道にも貴重な休みを使って行ったこともあったね。まあ、ほとんど毎日食べていたかな。それがあの”令和”の世界の『死因』かもしれないけど」

 敬忠の告白。そして『死因』という言葉に瞬が反応する。敬忠はそっとそんな瞬の前に”ノート”を差し出した。

「どうもSNSとかは嫌いで。この”ノート”に色々感想とか食べログ的なことが書いてある」

 その”ノート”を瞬はそっと手に取る。

「見てもよろしいのですか?」

「是非もない。雑多な内容で申し訳ないが、少しでもなにかの参考になれば幸いだ。もう今の私には不必要なものであるしな」

 言葉遣いが戻る敬忠。それもそのはず。この世界では引退したとはいえ親藩の元重役であるのだから。”ノート”を両手でぎゅっと抱きしめながら瞬は応える。

「私も―――”令和”の世界で『死』を経験したようです。多分。そしてその”令和”では食にまつわることを生業としていました。敬忠様がすべてを告白してくださったのに、今の私はそこまでしか言えません。もう少しお待ちいただければ―――私ももっと記憶が戻るかと」

 ゆっくりと敬忠は首を振る。

「それは、気にせずともよい―――瞬殿のおかげでこの江戸で”ラーメン”を食べることができた。あとはこれを足がかりにして私の求める”ラーメン”、”令和のラーメン”を作ることに向かって頑張りたいものだ。それがあの世界とこの世を繋ぐよすがとなるのだろうから」

 すっと立ち上がる敬忠。部屋の障子をすっと開ける。初夏の夜は遅い。夕方の西日が部屋にさす。

 その光は初めて二人が作った『義公』のラーメンを照らすうように―――


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― 新着の感想 ―
[良い点] 大変面白く拝見しました。 国民食と言われるラーメンと江戸時代の組み合わせがとても興味深いです。 ラーメンは探求するのに値するテーマだと思います。 私は素人ですが時代考証や料理技術について特…
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