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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第1章 江戸時代にラーメン屋をつくるためには

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よみがえる『藕粉麺』

「では、始めますね」

 そっと包みの中のやや茶色がかった粘土のようなものを大きな板の上に広げる。

「レシピ通り―――小麦粉と『蓮根』を乾燥した粉を蕎麦の水回しの要領で練ったものです。あとはうどんの要領で軽く足で踏み込んで、二刻ほど寝かせました」

 光圀の麺。小麦粉を使うのは当たり前であるが、そこに乾物の『蓮根』を粉にしたものをつなぎとして投入する。

 悪くないかもしれない。

 最初、そのレシピを見たときにはいまいちピンとこなかったが、瞬が水を加えて粘り気を出すのを見て実感する。『蓮根』がつなぎとして有効なことを。自然薯など、そばのつなぎに使うことはよくある。瞬は微妙な塩加減でさらに麺のこしを整える。それを踏み込んだものがこの―――塊である。

「ここから延ばして麺を切る作業ですが―――あの、要領はわかるのですが―――その」

 瞬がもじもじする。なんとなく察する敬忠。袖を絞り、たすきにかける。

「蕎麦切りと同じ要領かな?」

「すいません......”令和”の時代だったら、練るのだってこの手でできるくらい力はあったのですが......この細い小さな腕では、生地を伸ばすこともできません。失礼ながら指示させていただきますのでお願いできますでしょうか.....」

「是非もない。瞬殿、よろしくお願いする」

 瞬の指示に従って、丸いのし棒で生地をのしていく。その厚さや力の強弱を瞬が事細かに指示する。

「そろそろよろしいですね」

 敬忠の袖をつかみながら瞬がそう告げる。

「麺を切るのは私がやります。包丁仕事は力の問題ではないので」

 何重もに折り重なった生地に向けて包丁を下す。生地はへこむことなく、瞬時に二つに切り裂かれる。小気味の良いテンポでどんどん、生地が麵状になっていく。仕上げに軽く小麦粉を振り、両手で軽く握り縮れさせる。

「麺が縮れていたほうがスープが絡まりやすくなるはずです」

 見る見る間に、いくつものボールのような塊が出来上がる。それと並行して、かまどに火がくべられ、大きな鍋に湯が沸かされる。これは当然、麺を茹でるためのものであった。

「煮る加減が難しいので何度か試させてください。最高の湯で具合を探ってみます」

 湯が煮立つと、人差し指でつまんだ麺をその中に放り込む。そして左手の指で右上腕の付け根を探り―――つまりは脈拍のスピードで時間を測っているようだった。

「この体ではどうも、時間の感覚がにぶくて.....」

 時間を確認して箸で煮えた麺を探り、軽く口に含む。そして首を振り、また最初から同じことを繰り返す。

 それを何度繰り返したであろうか―――ついに、頷く瞬。

 今までにはない大量の麺を湯に投入し、かまどに火吹竹であらん限りの空気を吹き込む。ちょっとふらっとしたのは愛嬌であるが。

 脈をはかり、ある瞬間に湯の中にざるを投入する。一瞬の出来事。しずくが宙を舞い、地面にたたきつけるように籠を威勢よく振り下ろす。

 ―――『光圀』の麺が一〇〇年ぶりによみがえった瞬間であった。

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