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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第1章 江戸時代にラーメン屋をつくるためには

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土浦九万五千石

 街道はそこそこの賑わいである。とはいっても、せいぜい目に入る距離に人の気がたえないという程度であるが。初夏の風がいやに心地よい。ちょっと寝不足な感じはあるが、敬忠は足早に歩みをすすめる。その前を嬉しそうに、まるで跳ねるように進む瞬。先日夜遅くまで敬忠の創作話に聞き入り、少しテンションが上っているらしい。敬忠にも経験がある。もちろん”令和”の話だが。就職するかしないかの頃、とあるアニメにはまる。もともとそういう創作が好きであった敬忠、というか”令和”の恭子はその二次創作の同人誌を出すにまで熱中していた。イベントの前の日、朝までその作品の事をSNSで知り合った友達と語り合った夜のこと。この国は昔からそういう”物語”が好きなようだ。実際、敬忠の戯作は”令和”のエッセンスもいれてこの世界でも売れに売れている。

「そんな好きならば、帰ったら献じよう。私の作品で良ければ」

「もちろん、サインも入れてくださいね!」

 作者としては嬉しい限りである。、また瞬も上機嫌である。”令和”の時代に出会っていれば、いいオタク仲間になれたのであろうか。

「もう少しで土浦だ」

 いかにも城下町、といった雰囲気を感じる風景。土浦藩九万五千石の城下町である。藩主は譜代の土屋但馬守。江戸城登城の折に先代藩主の姿を見かけたことがあった。先代の藩主である土屋英直公は藩政改革に取り組むなど、名君のほまれも高い人物であった。しかし、わずか三十五にして鬼籍に入ることとなる。

(無念であったろうな......)

 ”令和”の世とは違う命の軽さ。しかし、思い直すと”令和”の世にもなんともできない死は存在する。この世界に来て”令和”の世での生き方を反省することになるというのも不思議な話である。

 しかし、今は目標がある。

 ”ラーメン”を作るということ、それ一つ。

 十分にこの世界でなすべきことはなした。それなりの財産も作った。さらには瞬という心強い同志も―――

 目指すは水戸藩の城下町水戸である。

 そこにこれからの人生を歩む第一歩があるはずだった。

「日も高い。少し休もうか」

 敬忠の申し出に、ハイと元気よく頷く瞬。昼食も兼ねて、適当な店の暖簾をくぐる二人。

「軽く、酒をいただこうか。ここは酒のうまいところだ」

「本当ならば、ビールといきたいですね」

 瞬が敬忠の気持ちを読んだようにそうつぶやく。

「......」

 そういえば、結構話をしたのにも関わらず、いまだ”令和”での瞬のことを聞いていない。自分のことも話していないからお互い様ではあるのだが。料理の腕を見るに、料理人であることは確かそうであるが―――考えればきりがない。

 目の前の瞬が美味しそうに茶飯を平らげる。

 この度も旅程の半分を過ぎようとしていた―――

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