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江戸に立つ、龍の麺  作者: 八島唯
第1章 江戸時代にラーメン屋をつくるためには

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千住の宿

 外は仄暗い。かなり陽が長くなり、必然朝も早い。身支度をして屋敷よりいでる二つの人影。身長が高い方はこの屋敷の主である柳橋弾正敬忠であり、もうひとりの背の低い娘は最近この屋敷に住むことになったお瞬という少女である。敬忠は日を避けるため菅笠をかぶり、珍しく家紋入りの背割り羽織も羽織っていた。腰には家老時代に差していた二本。一竿子忠綱が銘の刀である。敬忠が有するものとしては最上のものである。背の打飼袋には朝、早起きして瞬が握ってくれたむすびが二つほど入っている。一方、瞬の方は同じく編笠に、手には手甲、脛には脚絆の旅装である。

「おはようございます」

 深々と頭を下げる辻番。瞬のことはすでに説明済みだ。しかし、なにか辻番の視線を感じる敬忠。無理もない。養子、養父というには―――少し無理のあるお互いの年齢である。ぎゅっと、袖を掴む瞬。その視線を嫌に感じたらしい。どうも、甘える傾向が強い気がする。まあ、この年代そういう事があってもおかしくはないのだろうが。今まで一人で苦しいこの”江戸”の世を生き抜いてきたのだろうから。それから考えると自分は恵まれていたな―――と敬忠は考える。

 昼になる前に千住大橋に至る二人。千住の宿に入ったあたりで昼食―――というか朝食を摂ることにした。

「茶を二つ。弁当を使っても良いかな」

 はい、と茶屋の娘が元気よく返事をする。若い娘であるがそれでも瞬よりは年上のようであった。

 これから二人が向かおうとするのは、水戸藩の城下町水戸。もちろん目的は”ラーメン”を作るためである。

 瞬はいやに落ち着きがない。料理を作っている時はなんとも言えぬ迫力を感じるのだが、普段は子供っぽさが目立つ。数えで十五。この時代であれば結婚していてもおかしくはない歳ではあるが。

「旅行などに行くのは初めてです。”江戸”の世では」

 上気がかった瞬の言葉。茶が運ばれてくると、敬忠は背の打飼袋から乾燥した笹の葉に包まれた握りを二つ取り出す。一つをそっと瞬に―――

 瞬の手による握り。味は当然、折り紙付きである。

 この瞬を水戸につれていきたい。

 そう敬忠は決心してこの旅を決心した。

 ”令和の時代”のバラエティー番組。『日本で初めてラーメンを作ったのは誰?』そんなことを思い出す。

 正直、それがなにかの手がかりになるとも思えない。しかし、この時代にルーツがある以上無視もできない気がした。

 あわせて自宅にいると、色々瞬に気を使わざるを得ない。食事だけではなく、日常の雑用に関してまで気が利いて色々やってくれる。洗濯、掃除......楽ではあるがただただ気がとがめてならない。何か下女を雇ったようで。やはり自分は”令和の人間”なのだな、と思いを強くする。

 隣では自分の握ったにぎりを頬ばる瞬。”江戸の世”では旅行など言ったことがないと言っていた。ならば、”令和”では......?いや”平成”でも”昭和”でもよいが。瞬がきて数日が過ぎたというのにそのあたりのことはなかなか聞きにくいものがあった。旅の中でのよもやま話でそういうことが出ないかという期待もあったのかもしれない。

 熱い茶をゆっくりと口につける。

 日が暮れる前どこまで歩けるかな、ということを考えながら。

 千住の宿―――水戸街道のはじまりの宿である。

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