5-1:木曜日
5:木曜日
彼女は緑色のサイドポニーにモデルのような小さな顔と180cm程のすらっとした体格だった。整った目・鼻・口に締まるところは締まり出るところは出ていることが服の上からも判断できた。
全身茶色だが、薄めのカットソーと濃いめチノパンは一応の対比になっていた。遠くから一見したら裸かと見間違えそうな服装だなと思った。
それか、学園祭の木の役か。
「お前がポンちゃんか?」
なんか偉そうな喋り方だ。
「ポンちゃん?何のことだ?」
聞き覚えのない言葉だ。
「ポンコツのポンじゃねぇか。それくらい分かれよ」
そう笑いながらその女性は僕の背中を叩いた。
「ぽ、ポンコツじゃないですよ」
「はいはい、そういうことにしてあげる。そんじゃあ、ポンポンたぬきのポンちゃんな」
それもなんか嫌だったが、そこまで嫌ではなかったのでそれでいいことにした。
「それでいいですよ。それで、なんの用ですか?」
「お前に言いたいことがある」
お前もか。
「何ですか?あなたの場合は?」
「お前、あまり異性に興味がないらしいな」
いきなり何を聞いてくるんだ。
「そんなことないですよ」
俺は軽く否定した。
「そんじゃあ、お前、今まで付き合った人数は何人だ?」
彼女は冷やかすような目だった。
「0です。いません」
「ということは、お前、童貞か?ひゃーははは」
彼女は下品も糞もないほどバカ笑いしていた。のどちんこが見えるくらい笑っていた。のどちんこが下品に揺れていた。
「別にいいでしょ」
俺は突っぱねるように言った。
「いいえ、良くないね」
彼女は動じなかった。大木のように動じなかった。
「どうしてですか?」
「お前みたいなやつのせいで、最近、俺に彼氏ができないんだ」
彼女は腰に手をかけ俺に向けて指をさした。その姿は、人の形をした木とその枝のようだった。
「……はい?何て言いました」
「だから、お前みたいなやつのせいで、最近、俺には彼氏ができないんだ」
さらに指に力を込めたのか、鋭くまっすぐ指が伸びていた。よく成長した枝のように急に伸びた。
「いや、俺に言われても。それに、俺みたいなやつがいても、彼氏ができるやつはできると思うが」
「だが、可能性が減るのは確かだ。責任とれ」
正々堂々ととんちんかんなことをいいよる。
「本当に彼氏ができないのか?」
「そうだ」
「……いつから?」
「生まれてからだ」
「ずっとじゃねぇか!」
俺は指を差し替えした。
「悪いか?」
彼女は不機嫌に指を下ろした。
「悪いというか、お前、彼氏がいないのが最近と言っていただろ」
「そうだ。昔からいないから、最近もいないようなもんだ」
「何だ、その屁理屈?」
腹立つな、こいつ。
「それに、付き合うだけが全てじゃないだろ?童貞君」
前髪をかきあげながら蔑むように見下してきた。
俺はよく育った木を見上げている気分だった。
「それは、つまり」
「そうさ、そういう関係も世の中にはあるのさ」
そう言う彼女の唇が妙に艶かしく輝いて見えた。雨に濡れた葉っぱのように綺麗でみずみずしかった。
「……こんな事を聞くのもなんだが」
「なんだよ?」
「何人と、そういう関係になったんだ?」
俺は唾液をごクリと飲んだ。
「0人だ」
「お前、処女じゃねえか!」
喉の奥から唾を吐きだした。
「つっ!きったねーな、てめぇ」
彼女は唾を腕で拭っていた。
「お前、さっきから自分が彼氏いたような雰囲気や男性関係あったような雰囲気だけ出しやがって、結局ただの処女じゃねぇか」
「なんか悪いか?処女のサキュパスだっているかもしれないだろ」
「何故サキュパスだよ?」
「エロいことの代表だろ?馬鹿かお前は?」
なぜ唾を吐き捨てるように言うのだろうか?
「そもそもサキュパスがいるのかがわからないんだが」
「それもそうだ。ひゃーははは」
悪魔のように下品な笑い声。
「そんな笑い方だから彼氏できないんだろ」
「笑い方のせいにするんじゃねぇ」
他にもいっぱい理由はあるとは思うけど。
「そんなこと言わなくても」
「それよりも、お前は何で異性に興味がないんだ?」
仕切りなおしてきた
「ないことはないですよ。ただ、一般的よりはないだけです」
「それがなんでだって聞いているんだよ。女性を見てかわいいなー、とかは思わないのか?」
「思いますけど、付き合いたいとは思いません。きれいだなー、とか、かわいいなー、とかは遠くから見ていたら思います。でも、近づいたら見たくないところが見えると思うんです。ほら、富士山だって遠くから見たら綺麗だけど、近くから見たらゴミだらけと言うじゃないですか。汚いところとか、ブサイクなところとかが見えるんです。自分のお母さんみたいなところが見えると思うんです」
俺の意見を聞いて、きょとんとしていた。おそらく、自分が思っていた返事と違って面食らったのだろう。
「結婚願望とかもないのか?」
不利に思ったのか、話題を変えてきた。
「ないですね。周りの同級生の親が離婚しているところをたくさん見てきているので、結婚なんかいいところがないと思いました。それに、俺のお母さんが結婚なんかしなくていいと言っていました。そうとう苦労したんだと思います」
「そうなんだ」
「だから俺は思うんです。『1つの恋愛は多くの苦労で帳消しにされる』と」
それを聞いた彼女は提案してきた。
「だったら、俺と恋愛してみるか?」
「はっ?」
今度は俺が面食らった。
「俺と恋愛して、お前の言っていることが本当か試そうか?」
「いや、俺にも選ぶ権利が」
「うっさいな。俺は見た目通りいい女なんだぜ」
彼女は自分の胸を指で凹ました。
「そりゃあ、見た目はいいけどさ、性格とかが悪い」
「うっさい」
勢いのまま彼女は僕の手を握った。
「わわっ」
「どうだ、女性の手は?嬉しいか?緊張するか?」
「……なんか、普通」
――殴られた。
「そんなんだから彼女できねぇんだ」
「そうだよ、できないんだよ」
「そうじゃなくて、やる気あんのか?」
「だから、やる気ないって」
「あーもう、鬱陶しい、お前」
彼女は両手で頭を抱えていた。成長が止まったきのように。
「どうしてそんなに異性に興味持たせようとするの?」
「それは、お前を立派な男にするためだ」
「……言い方っ」
「ひゃーははは、気にするな」
彼女は洗濯物のように俺の背中をパンパン叩いた。




