54話 登校風景で
昨日、藍に筋肉弛緩のツボを押されて大変な目に遭ってしまったけど、蒼仁先輩の言った通りに晩飯を食べ終えた頃には復活した。 体のコリもほぐれたようで、今朝はなんだか体の調子が良かった。 いつものように菜のはを中学校で見送り、青葉と合流して一路星院東高校を目指す。
「今日はこっちから行こうぜ、燈馬 」
青葉が示したのは正門へ続く正規ルート。 裏門へ向かう道より少し遠回りになるというのにどうしたんだか。
「珍しいな、なんかあるのか? 」
今月はもう抜き打ち服装チェックは入らない。 それは生徒会長の俺が良く知っている。
「お前はいいよな、副会長を側で見ていられるんだから 」
「は? もしかして楓狙いなのか? 」
まともに歩けるようになるまでは、楓はタクシーを使って登校している。 しばらくこいつが朝に姿を見せなかったのは、楓の登校ルートを張っていたらしい。
「ズルいんだよお前は! 菜のはちゃんはもちろん、紫苑だろ? 藍だろ? みどり先輩まで! 」
いや、吹石先輩は関係ないだろ。 紫苑だって藍だってお前の友達だろうが。
「伊藤ちゃんだってあのお堅い遠藤と付き合っちゃうしよ…… 」
「なに嘆いてるんだよ。 保木とかどうなのよ? お前と一緒の中学じゃなかったか? 」
「ありゃダメだ。 最近ちょっと色は付いてきたけど、昔からアイツは…… 」
「私が何だって? たーかーがーきー! 」
背後から背筋が凍るほどの殺気を出して保木が唸ってきた。 初めて表通りを登校したけど、保木もこの時間に登校してたらしい。 逃げるように先に行ってしまった青葉の代わりに、保木と足並みを揃える。
「珍しいんじゃない? アンタとここで顔合わせるなんて思わなかった 」
菜のはの存在を知って以来、保木はよく声を掛けてくれるようになった。 藍と一緒にクラス女子のムードメーカー的な保木の存在は、何かと気にかけてくれるから助かる。
「青葉に引っ張られてきたんだよ。 アレが目的らしい 」
俺は、ちょうど校門を過ぎた所に停車したタクシーを指差す。 青葉は降りてきた楓の鞄を持とうとして、丁重に断られていた。
「ああ、編入生か。 よくやるねあのバカも…… っていうか、アンタの管轄じゃないの? 」
「管轄言うなよ。 別に俺はなんとも思ってねーよ 」
「アンタは紫苑ちゃん一筋だもんね。 まあ紫苑ちゃんもいいけど、私と付き合ったらどう? 安心して…… 」
「菜のははやらねーぞ。 どうせお前の目的は俺じゃなくて菜のはだろ 」
先手を取って釘を刺しておく。 『バレたか』と笑う保木は、青葉が言うように少し可愛くなったような気がする。 角が取れた、と言った方が正しいか。
「でもアンタ、彼女を副会長に指名してどうするつもり? あまりいい評判聞かないわよ? 」
「うん…… どうするもなにも、失敗したなって思ってる 」
「でしょうね。 私はてっきり紫苑ちゃんだと思ってた 」
「俺もそうだと思ってた 」
「…… なに他人事みたいなこと言ってるのよ 」
そんな話題を保木と論議するつもりはない。
「評判って、どんなんだ? 馴染めてないとか、悪目立ちしてるとか? 」
「私も人から聞いた話だから誇張されてる部分はあるだろうけどね、大まかにはアンタの言う通りよ 」
それは登校風景を見るだけで分かった。 楓が歩く方向には人垣が出来て、通り過ぎる度にひそひそと人垣から小言が漏れていた。
「アンタに取り入ったから服会長になったとか、二ノ宮先輩に色目を使って気に入られてるとか…… そんな噂も流れてる。 一学年下ってのも、学力が足りないのに編入できたのが二ノ宮先輩がらみだとか 」
「アイツは実力でウチに編入してきたんだから、そんなのただの妬みだ。 編入とか…… 前例がないとやっぱそう見えちゃうもんなのかな? 」
「随分と彼女の事を知ってるみたいだけど、昔からの友達? 」
「疫病神! っていいたいところだけど…… 」
保木と話して歩いていると、唐突に藍が乱入してきた。 横には紫苑もいて、二人と軽く挨拶を済ませる。
「あれじゃ全校生徒ぐるみで虐めてるみたいで感じ悪いわ。 ちょっと行ってくる 」
そう言うと藍は俺に鞄を押し付けて楓に向かって走っていった。
「疫病神? 藍も知り合いなの? 」
首を傾げる保木に、適当に頷いて話を合わせる。 放っておけない性格と言うか、すぐに行動する藍は逞しいと感心してしまう。 疫病神と言うんだから歓迎はしてないんだろうけど……
「燈馬君…… 」
心配そうに俺を見つめる紫苑…… そんな顔されたら、期待に応えるしかないじゃないか!
「ちょっとその話、詳しく聞かせなさいよ 」
藍のように保木が後ろから俺の首を絞め上げてきた。 俺と変わらない身長があるからモロに喉仏に食い込んで苦しい! おまけに背中に柔らかい二つの感触…… 保木ってこんなキャラだったっけ!?




