55話 作戦会議
昼休みに俺は、ワザとクラスの真ん中で保木に楓の話をした。 幽体だったことは予め藍と打ち合わせて内密にし、交通事故に遭ったけど頑張って蒼仁先輩を追いかけてきたのだと説明する。 俺との関係は、リハビリ中だった楓とたまたま二ノ宮クリニックで知り合ったことにした。
「なにそれ! 鳥栖さん何も悪い事なんてないじゃん! 」
「いや、アイツの性格の問題もあるから一概には言えないけどな。 でも卑怯な真似をしていないのは事実だから 」
アイツの場合、良くも悪くもその真っ直ぐな性格にあるんじゃないかと思う。 それに加えてちょっと行き過ぎたおせっかいと、ちょっと上から目線の態度と…… いや、結構あるな。
「それで? なんで藍は彼女の事を気に食わないわけ? 随分機嫌悪いね 」
「別に…… ウチとは合わないだけ 」
幽体の時に俺に乗り移って迷惑をかけたから! と言わないのには感謝だけど、何故に俺を睨む?
「んで、お前は楓に凸って何を話してきたんだ? 」
「困ってるなら助けようか…… って。 そしたらなんて言ったと思う!? 」
「別に困ってない。 寄らない方が身のためだ…… か? おふっ! 」
藍はムッとして俺の脇腹に右フックを入れてきた。
「痛ってーな! なにすんだよ! 」
「一語一句間違ってないのがムカつく! 」
俺に八つ当たりするなよ! というか、あの場でケンカしてこなかった藍が偉い。 まったく、なんでここまでアイツの心配をせにゃならんのだ…… そう考えていると、紫苑が俺の袖を引っ張ってきた。
「燈馬君、本人は私に任せてくれないかな? 」
「「え? 」」
俺が知っている紫苑は内向的で人見知りする性格…… 藍も同じことを思っていたらしく、俺よりも藍の方が驚いていた。
「なんか…… 鳥栖さんの気持ちが分からなくもないんだ。 私もさ、似たような経験があるから…… その…… 親切心で話しかけてくれる人達を巻き込みたくないんだよね。 自分に関わって、その人まで虐めのターゲットになっちゃったらどうしようって 」
「そんなことあるかよ。 そんなことしたら…… って、だから中学の時ずっと一人だったのか? 」
テヘっと笑った紫苑は可愛いけど、そんな思いで中学時代を過ごしていたのかと思うと、気付いてやれなかった後悔で頭を抱えてしまう。
「紫苑ちゃん頑張ってたんだねぇ! よしよし…… 」
保木が紫苑を抱きしめて頭を撫でる。
「ちょっ! いや待って! あは、アハハ! あん! ダメェ! 」
そこに伊藤までが参加して紫苑をあれやこれやと撫で回し始めた。 伊藤、グッジョブ!
「賑やかだな貝塚 」
遠藤や、顔が真っ赤になった赤西が寄ってくる。 俺が狙っていたのはこれだ…… 少人数で楓を庇ったところで、目の届かないところではきっと陰口や暴力が待っている。 ならば、このクラスの仲間に助けを求めたい。 星院祭で協力できた仲間なら、賛同してくれる仲間も多いんじゃないかと思ったのだ。 ざっくりとした説明をし、最後に虐めじみたことは学校からなくしたいと付け加える。
「生徒会長の公約の実行というわけだな、わかった 」
遠藤は阿笠を呼んで俺達の輪に巻き込んだ。 それにつられて一人、また一人と輪が大きくなっていく。 遠藤は言葉巧みに皆を説得し、楓の事に限らず虐めじみた噂を見たり聞いたりしたら知らせて欲しいと言葉を括った。 まとまりのある話し方は流石だ…… 俺も見習わなきゃな。
「だが貝塚、ボッチや虐めの要因は大半が本人のによるものだ。 彼女がそれをどう受け止めるか…… 」
「紫苑に任せようと思ってる。 何も万人に好かれることはないし、風評被害って言うのか? ありもしない噂が静まればそれでいいと思ってる。 虐められたと言う生徒の寺子屋になってもいいけど、深入りすると逆手に取られて模倣犯が出ても困るし。 俺達に出来る事なんて限られてるよ 」
「ほう…… その辺はしっかり考えているんだな 」
これは俺自身が経験済みだからだ。 虐められたという友達の友達、要は知りもしない人を庇って余計こじれたことがある。 嘘をついて面白がった奴もいる…… ホントこの問題は難しい。
「佐伯、責任重大だな 」
「大丈夫だよ遠藤君。 私にはとっておきがあるし、燈馬君がいるんだから 」
紫苑の自信に満ちた笑顔に遠藤は目を丸くした。
「貝塚、お前…… 」
「ん…… いや、任務失敗だ 」
クラスの皆には秘密の暗号的に、遠藤にフラれた事を伝える。
「そうか、ご苦労だったな。 だが、戦況は良い方向に流れているんじゃないのか? 」
遠藤はクセのように眼鏡を直す。 ちょっと意味不明だったけど、好転していると聞いてとりあえず頷いておいた。
「それじゃ放課後にファーストアタックしてみるね、燈馬君 」
紫苑は俺に向けて拳を差し出してきた。 これはいつぞやの俺と赤西の真似だろうか……
「うん、健闘を祈る 」
こつんと差し出された拳に俺も拳を合わせて、不思議な気持ちで紫苑を送り出すのだった。




