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44話 決着? 公開処刑? いや……

 「うわはっ!! 」


 熱湯だって言ってたから覚悟してたらしっかり冷たいじゃねぇか!


 「本当に、君は期待に応えてくれる男だよ 」


 「何がですか! 服溶ける! ヤバいヤバい! 」


 服どころか体まで溶け…… ない? あれ?


 「当り前だろう? いくら生徒会長と言えど、そんなことをしたら殺人未遂で捕まってしまうじゃないか 」


 「だだ、だって花は溶けちゃったじゃないですか! 」


 「流石は美術部だよね 」


 会長はマイクを構えるのを忘れない。 今気が付いたけど、二ノ宮会長は普段の爽やかな笑顔に戻っていて、その後ろの吹石副会長は失笑していた。


 「彼女達に下着を脱いでもらったのは本当だから、ブラウスでびしょ濡れになったら大惨事だったね。 それとも見たかったかい? 大惨事にしてみようか? 」


 「…… 何を言っとるのです会長…… 」


 「赤い顔をして、説得力ないよ燈馬 」


 クスクス笑う会長に混じって、会場からも『サイテー』と罵られる。 会長は演説台に立つと、全校生に向けてマイクを握り直した。


 「これは男のロマンだから許してあげて欲しい。 それはさておき…… 今一度、僕は皆に問いかけたいと思う 」


 ここまでが会長の応援シナリオだったのか。 先生達もみんな了承済み…… そりゃ何も口出ししない筈だ。


 「この状況で、かつては迷惑を掛けられた相手を、体を張って守ろうと皆は思うだろうか。 言葉だけでは何とでも言えるだろうが、行動できるのは誰にでも出来ることではないと僕は考えている。 どうだろう? 彼に生徒会長を任せてもいいんじゃないだろうか? 」  


 会場中が拍手と歓声に沸いた。 さっきまでの驍樹コールはどこ吹く風…… ステージ横で様子を窺っていた三千なにがし君はいつの間にか姿を消していた。


 「君達も悪かったね。 公開処刑は本気だったけど、虐めたかったわけじゃないんだ 」


 二人に向けて会長が微笑むと、二人は抱き合って泣き出してしまった。 他の親衛隊に支えられながら立ち上がり、俺の前に来て『すいませんでした』と頭を下げる。


 「もういいって言ったじゃん。 そのかわり、来年の星院祭では協力してもらうからね 」


 そう約束をして、やっと俺の選挙演説は終了した。




 「ひどいじゃないですか会長! なんの打ち合わせもしてくれないし! 」


 生徒会室に戻ってきた俺は、二ノ宮会長と吹石副会長に精一杯の抵抗をしていた。


 「打ち合わせも何も、君は堂々と居眠りをしていたじゃないか 」


 頬杖をついてクスクス笑う会長はニヤニヤが止まらない。 想像していた通りの俺の行動に御満悦のようだ。


 「服が溶けるなんてビビらせて! 焦りましたよマジで! 」


 「ポリエステルを溶かす薬品なんて人体に向けて使える筈がないじゃない。 でもカッコ良かったわよ? 昔の蒼仁を見ているようだったわ 」


 吹石副会長もまた、少し頬を染めて俺に微笑む。


 「そうかい? 僕はあんなに必死だった覚えはないんだけど 」


 「そうよ。 あの時のあなたはとっても真剣だったわ 」


 微笑み合う二人の雰囲気に、俺がここにいていいのか正直微妙だ。 あの時っていうのは…… 吹石副会長が虐められていた頃の事だろうか。


 「燈馬、僕の見立てでは君が生徒会長に就任確定だと思う。 そこで二つ程お願いがあるんだが 」


 「はあ…… 確定ですか。 なんでしょう? 」


 2つも? 何があるんだ?


 「一つは三千院君がこの学校を私物化しないようしっかり見張って欲しい。 僕が在学中は心配ないだろうが、卒業した後は恐らく勢力を拡大しようとしてくるだろう 」


 「勢力って…… 宗教じゃないんですから 」


 だけど、選挙の最中にそれらしい片鱗は見たような気がする。 俺に野次を入れていた連中がそれなんだろう。


 「蒼仁が悪いのだけどね。 どうも蒼仁を見習って(・・・・)好きにしたいみたいなの 」


 笑みが消えた吹石副会長に、『耳が痛いね』と会長は苦笑いしていた。


 「彼に好き勝手されないよう、君にも力をつけてもらいたい。 まあ心配はしていないんだけどね 」


 「はは…… もう一つというのは? 」


 今度は二ノ宮会長が真剣な顔つきになった。


 「僕が生徒会に入って変わらず推してきたのが虐めの問題だ。 君にもそれを受け継いでもらいたい 」


 「…… 難しいですね。 個人の感情の問題ですから、完全になくすのは不可能に近い 」


 俺自身の経験上、他人が手を出してこじれた例もある。 大事なのは虐められた本人が立ち向かうことだと思うんだけど。


 「難しく考えることはないよ。 僕もやっていたことだが、ある程度の牽制と逃げ場を作ってあげればいい。 後は本人の問題であって、僕達に出来ることは少ない 」


 「目立たないですけど、ウチの学校でもあるんですか? 虐め 」


 「あるよ。 目立たないのは風紀委員と親衛隊が頑張ってくれているからさ 」


 俺にそんなカリスマはない。 自信はないけど、虐めをなくしたい気持ちは俺も一緒だから出来るだけ頑張りたい。


 「いい顔になったね。 それでこそ僕の燈馬だ 」


 会長は満足そうに微笑んだけど、あなたのじゃありませんよ!


 「さあ行こう。 間もなく開票作業が終わるころだ 」


 先に立ち上がって差し出された会長の手を握り、俺は再び会場へと戻るのだった。




 演説が終わってすぐに投票が始まり、その日のうちに次期生徒会長が決まる。 その時点で現生徒会は解散され、全権は次期生徒会に移譲されることになる。 生徒会長選挙はあるけど他の役員選挙がないのは、副会長以下役員は生徒会長の指名で決定できるからだ。 それだけ生徒会長の権限は大きく、指名された側に拒否権はない。


 「それでは、第36回生徒会長選挙、開票結果をお知らせします 」


 司会を務めている柳原放送部長がステージでマイクを握った。 三千なにがし君と並んでその結果を聞いていたが、ドキドキする間もなく結果は10倍の差をつけて俺の圧勝だった。


 「おめでとう、やり方は反則まがいだったが…… 負けたよ 」


 三千なにがし君が握手を求めてきた。 なんかキザったらしい奴だな…… けど敵は作りたくはないので苦笑いでその手を握り返す。 そもそも俺が何か演説したわけではないし、全て二ノ宮会長に踊らされただけの選挙だ。


 「では貝塚燈馬生徒会長、今後の生徒会方針と役員の任命をお願いします 」


 柳原部長に演説台へと促され、微笑む二ノ宮会長に爽やかに送り出される。 方針って言ったって何も考えてなかったぞ……


 「えー…… まずはお詫びを。 マジで生徒会長になるなんて思ってもいなかったもので、方針も何もまとまっていません。 後日まとめて報告したいと思います。 ごめんなさい 」


 壇上で頭を下げると、一部からはブーイングが飛んできた。 だけど決めてないのは本当なのだから、その場しのぎでモノを言ったって面倒になるだけ。 多分こうするのが一番いいと判断した。


 「役員についてですが、副会長に2年A組の遠藤蘇芳を指名します 」


 ざわつく会場の中から遠藤がスッと立ち上がってステージに歩いて来る。 おぉ? ふざけるなと騒ぐかと思ったら、意外に往生際が良いんだな。


 「貝塚…… 」


 ステージに上がってきた遠藤は眼鏡を中指で直して俺に正対した。 頭の切れるこいつには、万が一の時には役員になってもらおうと決めていた事だ。


 「よろしくな、遠ど…… 」


 「断る! 」


 は? ここまで出てきておいて?


 「い、いやいや! 指名されたら拒否できないんじゃないのか? 」


 「その通りだ。 だが断る! 」


 意味が分からない。 そんな気持ちが顔に出ていたのか、遠藤は軽くため息を吐いて再び眼鏡を直した。


 「お前の生徒会(・・・・・・)の副会長は僕じゃないと言っているんだ。 ふさわしい女性(ひと)がいるだろう? 」


 女性(ひと)と言われて気が付いた。 思わず二ノ宮会長と吹石副会長を見ると、二人とも失笑して頷いている。


 「そうだねぇ…… 僕を見習ってくれるのなら、彼女を副会長に指名してもいいんじゃないのかい? 燈馬 」


 ニコッと笑った二ノ宮会長から遠藤に視線を移すと、申し訳なさそうに俺から視線を逸らした。 こいつまでグルだったのか……


 「遠藤、お前…… 」


 「い…… いい機会だ貝塚。 バシッと決めて見せろ 」


 目を合わそうとしない遠藤から、『すまん』という心境が痛い程汲み取れた。 二ノ宮会長のシナリオには、俺が公開告白をするまで含まれていたらしい。 怖ぇ…… 公開告白ならぬ、これじゃ俺の(・・)公開処刑じゃねぇか!


 「書記は引き受けてやる。 安心してどちらかを選べばいい 」


 思いもよらぬ展開に会場からも歓声が沸いた。 キャーとかワーとか、俺の恋路など興味ないくせにどんどん盛り上がっていってるぞ!? 最前列で見上げている後輩達は目を輝かせてるし、会場全体は告れオーラに満ちていた。 


 「…… はぁ 」


 二ノ宮会長に慣らされたのか、皆は生徒会を私物化してもなんとも思わないらしい。 もう…… どうなっても知らねぇぞ! 覚悟を決めて会場中央の2年A組の列に向き直った。


 「あ、あの…… 副会長には…… 」


 遠くからでも分かる紫苑の表情。 その横で固唾を飲んでいる藍。 言うべき名前は決まっている…… 決まっていた筈だった。




 「楓 」


 いつからそこにいたのかは分からない。 ステージから一番遠い、体育館の出入り口の横に参列していた先生方と肩を並べ、真新しい星院東高校の制服を身に付けていた彼女の名前を俺は呼んでしまっていた。




 



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