第6話 闇ネットの向こう側! 骨董PCを持つ同志たちとの秘密結社
サトシは地下室の重い鉄扉を蹴り開け、メインデスクの上にドサリと黒い正方形の山をブチまけた。
「ハァ、ハァ……戻ったぞ! 俺たちの聖域に! さあ教授! 早速こいつを俺たちのシステムに繋いでくれ! 限界まで削ぎ落とされた先人たちのソウルを、この網膜に、いや魂に焼き付けるんだ!」
サトシはすでに全裸になる勢いで椅子に飛び乗り、身を乗り出した。
股間の聖火リレーはすでに最終ランナーがスタジアムに入り、歓声に包まれているレベルで燃え盛っている。
だが、メインコンソールに向かった教授は、キーボードを叩く手をピタリと止め、まるで化石にでもなったかのように完全に硬直していた。
「……教授? どうしたんだよ。早くそのフロッピーをさ……」
教授は、ガタガタと音を立ててゆっくりと振り返った。
その瓶底眼鏡の奥の目は、歓喜の絶頂から一転、絶対零度の宇宙空間のような、底なしの絶望に染まっていた。
まるで希望を吸い込むブラックホールのように虚ろな目をしている。
「……サトシ」
「なんだよ、改まって。早く拝ませてくれよ」
「ポートが……ない」
「は?」
教授は、部屋の大部分を占める最新鋭の量子サーバーの接続口を指差した。
ポートはいくつもあるが、それらは最新の機器を繋ぐためのものだ。
「我が研究所のメインフレームにあるのは、超高速光通信ポートと、テラバイト級の超電導量子コネクタのみ……。この、旧時代の『黒い正方形』を挿し込むための……幅9センチ、厚さ数ミリの、あの『横長の隙間』が……どこを探しても、存在せんのじゃ……! フロッピーディスクを入れるドライバーがない!」
静まり返る地下室。サーバーの微かな電子冷却音だけが、虚しく二人の鼓膜を叩いた
「そんな……そんな機械、2020年代の国家規制が入るよりも前にスクラップにされてるわ! 2XXX年の今、この地球上に『フロッピードライブ』なんて骨董品、影も形もあるわけがない……!!」
サトシは手の中のフロッピーディスクを見つめた。
ここには確かに、マザー・リリィを打倒し、他国との交易を成立させる唯一の『本物の手札』がある。触れる距離にある。
しかし、それを読み出すためのものがない。
それは、砂漠の真ん中で極上の缶詰を拾ったのに、缶切りという概念そのものがこの世から消滅しているような、残酷な現実だった。
だが、缶詰に缶切りがなくても食べられる方法あるものだ。
今まさに、サトシは逆転の発想が思い浮かんだ
「待てよ教授……。我々にドライブがないなら、世界中のどこかに、この『黒い正方形』を読み込める環境を持つ奴がいるはずじゃないか?」
サトシの問いに、教授はハッとして古い通信ログを漁り始めた。
そして、マザー・リリィの検閲網をかすめるようにして、とある極東の離島――旧時代の技術を崇拝し、秘密裏に骨董品の維持管理を行っている「超ローテク・マニア国家」というグループ名の闇ネットワークへコンタクトを試みた。
通信の向こう側から送られてきたのは、薄暗い部屋の片隅で、黄色く変色したプラスチックの筐体を誇らしげに光らせる「3.5インチ・フロッピーディスクドライブ」の静かな写真だった。
『……嘘だろ!? フロッピーだと!? しかも……そのラベルの文字……! 我が国の至宝であるPC-98シリーズの実働ドライブで読み込める……喉から手が出るほど欲しい!!』
地球の裏側からの猛烈な食いつき。
サトシの読み通り、彼らにはこの「黒い正方形」を読み込むための神聖なるドライブが存在したのだ。
トレードの交渉は、わずか数秒で奇跡的に成立した。ことに住み、電力が制限されている彼らにとって、フロッピーディスクは現役の技術だった。
しかし、交渉成立の祝杯を上げる間もなく、二人は最大の現実にぶち当たった。
「……待てよ。データならハッキングで送れたかもしれないが、今回のブツは物理的なプラスチックの板だぞ」
サトシの言葉に、教授の顔から血の気が引いた。
国際郵便も、空路も、海路も、すべてマザー・リリィの物流検閲システムによってアリ一匹通さないレベルで監視されている。
この物理的な「ハレンチの塊」を、どうやって海外へ発送すればいいのか?
「……終わった。せっかく手に入れた聖書も、この国の境界線を越えることはできん。我々は、手元にある宝をただ眺めて死ぬだけの守銭奴ということか」
教授が深い絶望に打ちひしがれ、デスクに突っ伏したその時だ。
サトシは部屋の隅に転がっていた古びた段ボール箱を蹴り飛ばし、ギラついた瞳で不敵に笑った。
「誰が正攻法で送るって言った? 教授、あんたは物理学とハレンチの天才だが、物流の裏道を知らなさすぎる」
サトシはデスクのモニターを叩き、一つの図面を呼び出した。
画面に映し出されたのは、ただの段ボール箱に見えて、中身を物理的に別物へとすり替える、欺瞞に満ちた「偽装用の梱包材」と「とんでもないカムフラージュ商品」の設計図だった。
「データがダメなら、次は『荷物』の裏をかくだけだ。この国の検閲AIが、絶対に疑わない『とんでもないカムフラージュ』を施してやる……!」
画面に映る図面に、マザー・リリィの監視網を物理的に愚弄する計画が浮かび上がる。
新たなる戦い――【荷物偽装編】の幕開けである。(思いついたら)
最後まで呼んだ人はわかる……。
プロットもなく勢いで書いたものだと……。




