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第2話:ゼロの少女

 翌日。


 ——昨日の“???:1000”が、頭から離れない。


(……見える)


 教室に入った瞬間、クラスメイトの頭上に浮かぶ数値が視界に入る。


 退屈:78

 眠気:88

 不安:23


 何も変わっていない日常。


 ——俺以外は。


「おはよ、神代」


「……おう」


 声をかけてきた友人の頭上には、


 好意:46


(普通だな)


 昨日までと同じはずなのに、妙に距離を感じる。


 俺はもう、“普通の側”じゃない。


 そう思った瞬間だった。


「神代」


 教室の後ろから声。


 振り返るまでもない。


 白鐘凛。


「ちょっと来て」


 周囲の視線が一斉に集まる。


(そりゃそうだよな……)


 クールで近寄りがたい彼女が、いきなり俺を呼び出す。


 ざわつかない方がおかしい。


 その中で、ひとつだけ目に入る。


 嫉妬:34

 興味:52


(分かりやす……)


 軽くため息をつきながら、俺は立ち上がった。



 連れてこられたのは、屋上だった。


 鍵がかかっているはずの扉は、なぜか普通に開いた。


「ここなら人来ないから」


 白鐘はフェンスにもたれながら言う。


 相変わらず無表情。


「で、何するんだよ」


「確認」


「何を?」


「あなたがどこまで使えるか」


 さらっと言いやがる。


「テストするってこと?」


「そう」


 短い返答。


 無駄がない。


「……やっぱ断るって選択肢は?」


「ない」


 即答だった。


(ですよねー……)


「普通なら、ここまで話さない」


 ぽつりと白鐘が言う。


「でもあなたは例外」


 その一言が、妙に引っかかった。


「じゃあ、これ見て」


 白鐘がスマホを取り出す。


 画面に映っていたのは、監視カメラのような映像。


 夜の街。


 人影がひとつ。


 その“頭上”に——


 歪んだ数値。


 怒り:120

 憎悪:140

 ——崩壊:進行中


「うわ……」


 思わず声が漏れる。


「これが“歪み”になる直前」


「……昨日のやつか」


「そう」


 白鐘は頷く。


「これ、どう見える?」


「感情が暴走してる。特に憎しみ」


「他は?」


「バランスが崩れてる」


「正解」


 即答だった。


「じゃあこれは?」


 次の映像。


 別の人物。


 一見、普通。


 でも——


「……あれ?」


 数値は安定している。


 なのに、どこかおかしい。


「どうしたの」


「いや……なんか違和感がある」


「具体的に」


「……感情が、揃いすぎてる?」


 自分でも曖昧な答え。


 一瞬の沈黙。


 そして。


「……合格」


「は?」


「ちゃんと“見えてる”」


 ほんの少しだけ、空気が緩む。


 その瞬間——


 安心:6


(また見えた……!)


 思わず息を呑む。


 やっぱり、完全に見えないわけじゃない。


 ほんの一瞬だけ、漏れる。


「じゃあ次」


「まだあるのかよ」


「実践」


 嫌な予感しかしない。


「今日の放課後、現場行く」


「は?」


「さっきの“崩壊中”のやつ」


「いやいやいや、ちょっと待て」


 思わず一歩引く。


「俺、戦えないって言ったよな?」


「言った」


「なのに行くの?」


「行く」


 迷いゼロ。


「あなたがいないと、効率が落ちる」


「効率って……」


「それに」


 そこで、ほんの一瞬だけ。


 彼女の視線がこちらを向く。


「——死ぬ確率が上がる」


(……は?)


 一気に現実味を帯びる言葉。


「だから連れてく」


 淡々とした口調。


 でも、その重さは軽くない。


 思わず、彼女の頭上を見る。


 一瞬だけ。


 警戒:12

 信頼:18


(……上がってる)


 昨日より、確実に。


「準備しといて」


 それだけ言って、白鐘は背を向けた。


 風が吹く。


 フェンスの向こう、広がる街並み。


 そのどこかに、“歪み”がいる。


(……マジかよ)


 普通だったはずの日常は、もう戻らない。


 ——でも。


 あの“見えない感情”の正体を、俺はまだ知らない。

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