18 風結ノ章 十八
「お前たち!」
重蔵が叫ぶ。
「来てくれたのですか!?白結丸殿!嶺巴殿!!」
皆秀も声を上げた。
「当たり前じゃないか!見捨てるわけないだろう!?」
白結丸が言うと、嶺巴も頷く。
「あたしはね、こう見えて面倒ごとが大好きなんだ!」
ニヤリとする嶺巴。
・・・・見たまんまだが。
「くそっ!!」
佐伯は踵を返すと、門の中へ逃げ込む。
「あ、待て!」
嶺巴が追いかける。
「白結丸殿!あいつを追ってください!あいつは御造所のことに気づいています!緋家の奴等に知られる前にあいつを何とかしないと!」
「わかった!」
「皆秀のことはおれに任せろ!!」
重蔵が胸を叩く。
「親方ーっ!!」
半泣きの皆秀。
「後は頼む!」
白結丸は佐伯の後を追って門の中へ消えた。
◇
「このおれが何の支度もなく一人で来たと思っているのか!?」
「なんだよ!負け惜しみか!?」
嶺巴が刀を構える。
佐伯は暗い広間の中、何かに手を伸ばした。
「こいつは、中御体紅鎧二式!おれのような霊力の少ない者でも、長く動かせる!戦御体よりも安く簡単に作れ、扱いやすいという・・・・・・」
「そんなことはどうでもいいよ!ともかく観念しなっ!!」
嶺巴が刀を振りかぶって、佐伯めがけて振り下ろす。
「うわっ!!まだこいつに関して言いたいことがあるのに!!」
「・・・・あんた、ただの戦御体馬鹿だね!?」
「ふん!もうよい!おまえなんぞ踏み潰してやる!」
佐伯はそう言うと、そこにあった大きな赤い丸いものの蓋を開け、中に入り込んだ。
「嶺巴!!」
「白結丸!あいつ、あの中だ!」
嶺巴が指さしたのは、白結丸がさっき頭をぶつけた赤い球のようなもの。
その赤い球には、両腕と両足が生えている。
その図体に似つかわしくないくらい短い。
だが、その足で赤い球はゆっくりと立ち上がった。
「どうだ!!これが紅鎧二式だ!!」
「毬だ!」
「いや、あれは栗だろ!?」
「違うよ、太った蛙だ!」
「こらっ!!馬鹿にするな!」
紅鎧二式は嶺巴めがけて走り出した。
「えっ!?」
見た目に反して、その動きは素早い。
一気に嶺巴の目の前まで間を詰めると、その腕を嶺巴に振るった。
「うあっ!?」
嶺巴の体が飛ばされて、床に打ちつけながら転がる。
「嶺巴!!」
「痛いっ!!」
「・・・・はぁ、生きてた」
「あいつ、素早いよ!だけど、それほど力はないみたいだね!」
嶺巴も立ち上がる。
「・・・・・・やはり手足が短いぶん、力が乗らない!これは改良の余地ありだな」
佐伯がぼやく。
「だが!!この紅鎧二式、刀は通らん!くたばれ!!」
白結丸めがけて紅鎧二式が突進してくる。
白結丸は壁を背にして刀を構える。
「刀では斬れんというのに!馬鹿な奴だ!!」
紅鎧二式の体当たりが白結丸に届こうかというその瞬間、白結丸は飛び上がって避ける。
紅鎧二式はそのまま壁に突っ込む。
どうん!!
・・・・がらがらがら。
壁が崩れ、紅鎧二式の丸い体に瓦礫が降り注ぐ。
「やった!?」
嶺巴が声を出す。
「甘いわっ!!」
瓦礫の中から紅鎧二式が立ち上がった。
「・・・・でも、痛そうだねぇ」
「痛くない!!」
佐伯が見栄を張る。
「嶺巴!やはりあいつ、丸いだけに急に止まれないんだ!壁や柱にぶつけよう!」
白結丸が佐伯に聞かれないように嶺巴に囁く。
「承知だよ!要はぶつからなきゃ勝手に建物に突っ込んでいくんだろ?」
「その通りだ!」
「何かごちゃごちゃ言ってやがるなーっ!!」
逆上した佐伯が紅鎧二式を走らせる。
白結丸と嶺巴はすっとそれを避けると、紅鎧二式はその勢いのまま羅城門の柱に突っ込む。
べきっ!!
乾いた音を立てて柱が折れる。
「こいつら!!」
佐伯の額がずきずきと痛む。
「ほうら、こっちへおいでーっ!!」
変な顔をして舌をべろべろとさせる嶺巴。
どううん!
がらがらがら。
「当たんないよー!どこ見てるんだいっ!?」
「くそーつ!!」
べきっ!!
めりめりめり・・・・。
「はははっ!あんたが突っ込みたいのはここだろーっ!!」
大きなお尻を向けてぺんぺんと叩く
「馬鹿にしおってーっ!」
・・・・敵を挑発するなら嶺巴の右に出る者はいないな。
「白結丸、感心してる場合じゃないよ!そっちへ行った!」
「あ、ああ!よっと!」
ずううん!!
がらがらがら・・・・・。
◇
「なんだ、これ!ちっともほどけないぞっ!?」
重蔵は皆秀を縛る縄が絡まっていて苦戦していた。
「親方、おれのために危険を冒してきてくれたのですね!?」
目を潤ませる皆秀。
「あたりめぇだろ!?お前は俺の弟子だ!弟子はおれの子供だ!」
「親方・・・・・・」
「破門なんて言ったがよ、本当はお前に真っ当な木彫り職人になって欲しくてよ・・・・」
「・・・・え?」
「だがな、皆秀。お前には木彫り職人の才能はない」
「・・・・・・え?」
「だから、この先どれだけ修行しても腕の立つ木彫り職人にはなれねぇよ」
「・・・・・そ、そんな!?」
「だから、やっぱりおめぇは破門だ!彦佐たちと戦御体でも作って遊んでな!」
「お、親方・・・・・」
一気に皆秀の目から涙が溢れだす。
どうううん!!
ばらばらばら・・・・
べきっ!!
どうううん!!
門の中から破壊音が立て続けに響いてくる。
「しかし、あいつら何をやっているんだ!?」
重蔵と皆秀の頭上から細かい礫が降ってくる。
「も、もしかすると、門が崩れるかもしれません!」
上を見上げながら皆秀が叫ぶ。
三階建ての羅城門、白い壁にびりびりと亀裂が走る。
そして上の方がグラグラと揺れ始めた。
「おい、だけどよ、この縄、ちっともほどけねぇんだ!!」
「う、うそっ!!危ないっ!!」
ふたりのすぐそばに大きな瓦礫が落ちてくる。
ずううん!!
「うひゃっ!?」
砂埃が舞い立つ。
「げほっ!!」
「大丈夫ですか、親方!?」
「あ、ああ!大丈夫だ!」
「門が崩れます!親方、逃げてください!!」
「お前を置いて逃げられるわけねぇだろ!?それが出来りぁあ、ここにはいねぇよ!
「でも!!」
ずううん!!
またすぐそばに大きな瓦礫が落ちてくる。
「・・・・・・・」
「親方!」
「じゃ、そう言うことで」
ぴゅっ!!
一瞬にして重蔵の姿が皆秀の視界から消えた。
・・・・・・・・。
・・・・・・・。
「え?」




