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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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41 風結ノ章 四十一

「すまない、白結丸!」

紅羽たち姉弟も戻ってきた。彩芽、杜若、金冠の三体も風結と蒼刃のところへ加わる。

「気を失って時千代に助けてもらっていた・・・。面目ない・・・」

彩芽は頭を下げる。

「かまわない。相手は妖。まともにやり合える相手ではない」

「敵は妖だったのですか、白結丸様?」

伊佐も心配そうに声をかける。

「そうだ。自らは神と言っていた」

どうも、妖は自分のことを神と言いたがる・・・と言いたくてやめた。

「ともあれ、みな無事でよかった。嶺巴の話では、この屋敷の主人の因幡国主にあの妖が憑りついて何かさせようとしているらしい。おれはそれを止めようと思う。だが、本当はミカナの父上の仇を討ちたい。その仇とは、因幡国主富士江成親だ。紅羽、おれを止めるか?」

「・・・止めぬ。妖は討ち取るのが武士(もののふ)の務め。それに、もう叔父上にこき使われるのはやめた!わたしは、あいつが大嫌いだ!」

「姉様!?」

「紅羽姉様!」

驚く伊佐と、うれしそうな声の時千代だった。

「いいのか?六原に戻れなくなるぞ?」

「かまわん!」

紅羽は握りこぶしに力を込めて、思い切り振り上げる。

「私は今まで、時千代が立派な緋家の跡取りになって、父上の後を継いで世のための(まつりごと)をしてくれればいいと思っていた。だが、今の緋家は腐敗が進んでいる。父上の治世にはなかったことだ。わたしはやはり、爺様や叔父上の考えには賛同できん。父上がそうしたように、民のために政はあるべきだと思う!」

「姉様・・・やはり姉様は美しいです!伊佐は、感動しました!」

「紅羽姉様、頑張りましょう!!」

「伊佐、時千代!」

彩芽と杜若、金冠は寄り添ってお互いの肩を抱く。


『なあ、白結丸。おちゃらけ三姉弟はともかく、あそこに骸が転がっておるのじゃが・・・』

「骸?」

見ると、瓦礫の下に上半身だけを出した男の遺体があった。

『すまぬ、近づいてくれ・・・』

風結をそちらに向けて近づく。

『間違いない。富士江成親・・・父上の仇じゃ』

「・・・・・」

『誰かに斬られたようじゃな。胸に斬り跡がある。ならば、妖ではない』

「そうか・・・すまない、ミカナ。間に合わなかったようだ」

『かまわぬ。このような死に様を晒してくれただけでも気が晴れよう。だが、誰にやられたか?』

「・・・荊火のほかにも、あの妖女(あやかしおんな)に操られている者がいるのか?」

『となれば、嶺巴の話にあった・・・』

「富士江の息子・・・成正か」


その時だった。

一瞬、静寂があたりを覆い、次の瞬間、鼓膜が破れるかというほどの大きな崩壊音が響く。

富士江屋敷の奥で、何かが大きな音を立てて崩れた。屋根瓦が落ちて割れる音。土塀が崩れて瓦礫となる音。柱が折れて壁が崩れる音。

その中から、地響きのような振動がゆっくりと地表を伝い、御体の中にいる白結丸たちにまで届く。その地響きは足音のようではなく、何かが波打つような拍子を打って響いてきた。その振動で、崩れかけていた壁や塀がまた崩れ始める。

「なんだ!?」

富士江屋敷の屋根の向こう、大きな影が見える。屋敷の屋根より数段高い。遠くの山と同じ高さ。その姿は夜の闇で覆われ、こちらから伺い知ることが出来ない。

「山?山が動いている?」

嶺巴も蒼刃を立ち上がらせ、音のした方角から近づいてくる何かに目をやる。

「御体・・・にしては大きすぎるね・・・なんだい、あれ?」

風結の中から見ても見上げるほどの高さ。

巨大な影は、屋敷の壁、屋根をかまわずに壊しながらこちらへゆっくりと近づいてくる。

「こっちへ来ますね・・・・」

「時千代・・・」

彩芽が金冠の前に出る。

「紅羽姉様、大丈夫です。時千代が紅羽姉様を守ります」

・・・なにそれ!!かっこいい!!時千代、かわいかっこいい!!ああ、ぎゅってしたい!!

などと言っている場合ではない!

紅羽は煩悩を振り払うように頭を振る。

その巨大な影はゆっくりと姿を現す。

月明かりに照らされたそれに、みなは息をのんだ。

最初に見えたのは、月明かりに照らされた千手観音像。体の両側に左右四本づつの腕を広げた穏やかな観音様の顔。だが、その姿はあまりにも不釣り合いな蜘蛛の姿につながっていた。観音像の下半身は蜘蛛の胸と繋がり、その胸は腹となる大きな横長の球体と連なっている。そして胸の部分から生える、左右四本づつの巨大な脚。広げた脚は富士江屋敷に収まらず、近くの建物を踏みつけて破壊している。

「ひいいいっ!?く、蜘蛛!?」

伊佐が叫ぶ。

「あああ、ああ、蜘蛛だ。だが、こんな大きな蜘蛛・・・・だが、菩薩様を宿している・・・」

紅羽もその大きさに呆気に取られていた。


『白結丸、あれは御体じゃ!御霊石の気配がある!』

「・・・と言われても、大きすぎて何が何だか・・・」

『しっかりしろ、白結丸!あの蜘蛛からさっきの妖の気配をわずかに感じる!おそらく成正が繰り手じゃ!』

「し、しかし・・・どうするんだ!?」

「紅羽、伊佐、時千代!!とりあえず離れる!嶺巴、動けるか!?」

「大丈夫、承知したよ!」

嶺巴の声には力が戻っていた。

「御仏を蜘蛛につけるとは、罰当たりにもほどがあるよ!!」



「何だ、あれは?」

成正の視線の先には五体の御体が見えた。

―――緋家の御体だろうか。先日やってきた但馬の国府の差し金だろう。

何であろうとかまわない。妖だろうが緋家の御体だろうが、どのみちこの土蜘蛛の敵ではない!

叩き潰すのみ!!


土蜘蛛は一番前の両足を振り上げる。前の脚の先端は鉤爪(かぎづめ)のように尖っており、他の脚より太くて長い。

前の両足を振り上げたまま残りの脚で一気に近づいてくる。

「いやあ!気持ち悪いっ!!」

一目散に逃げだす伊佐の杜若。

その杜若へ狙いをつけた土蜘蛛。

「ぎゃあああっ!!こっち来るぅー!!」

悲鳴をあげながら逃げ回る。

「伊佐!!」

紅羽の彩芽が太刀を持って杜若の前へ出る。

「ならば、貴様からだ!」

土蜘蛛の前足が彩芽めがけて振り下ろされる。

がきん!

彩芽は太刀でかぎづめを受け流す。金属同士が激しく当る音が響いて火花が散る。

「くっ、なんて力だ・・・。今の一撃で腕が痺れてしまった・・・」

太刀を持つ手に力が入らない。

「くたばれ!!」

土蜘蛛の次の一撃が彩芽を襲う。

ぎいいん!

金冠が太刀でその一撃を受ける。

「紅羽姉様!逃げて!!」

「時千代!」

金冠は土蜘蛛の爪を太刀で受けて、支えている。だが、重すぎる土蜘蛛の鉤爪が金冠の足や腕に亀裂を与える。

「えええいっ!!」

金冠に圧し掛かっていた鉤爪を風結が太刀で払いのける。

「ありがとうございます!白結丸さん!」

「北の山の方へ逃げろ!町へ蜘蛛を行かせるな!」

「はいっ!!」

金冠は彩芽の手を引いて北の方角へ走る。

「時千代、すまない!」

「言ったでしょ、紅羽姉様は時千代が守ります!」


「逃がすかぁっ!!」

成正は土蜘蛛を北へ向ける。

「この土蜘蛛は、どんな御体をも越える!この力の前には、緋家の栄華など塵のようなものだ!」

成正は陶酔しきっていた。


「ああ・・・行ってしまった・・・・。今の土蜘蛛はあいつの霊力だけでは半日も持つまい。自ら寿命を縮めるだけだと言ううのに・・・」

朽平は忌々し気に土蜘蛛が出て行った方を見つめる。

「わが最高傑作となる心づもりであったが・・・。これ以上に資財と時間を投げうってくれる士族を見つけねばならん・・・。ああ、またやり直しか・・・・」

朽ち平はひとり呟くと、都へ向けて歩き出した。


「よし、ついてくる!」

風結と蒼刃で付かず離れずを繰り返しながら土蜘蛛を北の山の山中へ誘導する。

木々をお構いなしに折り倒しながら突き進んでくる土蜘蛛。

「あの鉤爪さえ斬れれば!」

蒼刃が近くの岩の上に飛び乗り、そこから飛び降りざまに土蜘蛛の鉤爪を狙って太刀を振り下ろす。

ぎいいん!!

確かに正確に入ったはずの蒼刃の太刀は、土蜘蛛の鉤爪の硬さに撥ね退けられる。

「うひいいいい!?痺れるぅ!!」

「嶺巴!」

風結が蒼刃の腕を掴んで引っ張り跳ぶ。そのt直後、蒼刃がいた場所に土蜘蛛の鉤爪が振り下ろされる。

「逃げても無駄だ!!もうこの国に土蜘蛛から逃げられる場所などない!!」

土蜘蛛が八本の足を交互に動かして後を追って来る。

『町からだいぶ引き離せた!白結丸、ここで仕留めるぞ!』

「だが、あんな大きいもの、どうやればいい?」

『御体は皆同じじゃ!御霊石を壊せば、動かなくなるはず!』

「承知!」

風結は土蜘蛛に向き直り、太刀を構える。

辺りはうっすらと朝日が射してきた。

陽の光を浴びた土蜘蛛の姿に、改めて不気味さを感じる。

巨大な蜘蛛の姿と上半身だけの腕八本の観音像・・・。

「まったく、趣味が悪いとしか・・・」

嶺巴が隣でつぶやく。

「ああ、ひどい趣向だ」

『来るぞ!』

風結と蒼刃はそれぞれの方向へ跳ぶ。

その地面を土蜘蛛の鉤爪が音を立てて抉る。

「動きは速くない!躱しながら、足の関節の御霊石を狙うんだ!」

「承知!」

蒼刃が土蜘蛛の右横に回り込み、脚の関節の御霊石を狙って太刀を振り下ろす。

だが蒼刃の太刀は、とっさに避けた土蜘蛛の脛に当り弾き飛ばされる。

「うわっ!?なんて硬い!」

風結はその隙に土蜘蛛の腹の下に潜り込む。

「下からならどうだ!」

土蜘蛛の腹の底に太刀を突きたてるが、その刃は傷をつけるに留まる。

「何でここまで硬いんだ!?」


「つぶしてやる!」

成正は土蜘蛛の胴体を風結もろとも地面に押し付ける。

「うわっ!?つぶされる!?」

ずうん!!

土蜘蛛の胴体が地面に押し付けられて砂煙を上げる。

「白結丸っ!!」

嶺巴が叫ぶ。

「・・・危なかったっ!!はぁはぁ・・・」

『ぷはああっ!生きた心地がせんぞっ!』

土蜘蛛の胴体が地面に迫る瞬間、風の力で抜け出していた。

「もう二度とあの下には入らない!!」

『はぁはぁ・・・そうしてくれ・・・』


「前からは白結丸に任せ、わたしたちは背後から行くぞ!」

「さすが、紅羽姉様!」

紅羽と伊佐は左右に分かれ、土蜘蛛の背後から脚を狙う。

「近くで見ると、やっぱり気持ち悪い!」

伊佐が叫びながら、杜若の太刀を土蜘蛛の後ろ脚に叩きつける。

ぎいいん!!

杜若の太刀は弾かれて、腕がびりびりと痺れる。

「なにこれ、気持ち悪い上に硬いって!!」

「伊佐、脚の関節を狙え!!」

白結丸が叫ぶ。

「承知しました!仰せのままに!!」

きゃー、やっぱり私を見てくれているぅ!

これはいいところをお見せしなくては!!

杜若は跳びあがると、土蜘蛛の一番後ろの脚の付け根を狙って太刀を振り下ろす。

すると急に土蜘蛛は向きを変え、杜若を正面に捉えた。

伊佐の目の前に十本の腕にそれぞれ太刀を持った観音像が迫る。

「いやぁ!!こっちもこっちでなんかいやぁ!!」

杜若の太刀を振り払うと、観音像は左右の腕で挟み込むように斬りかかる。

「伊佐姉様!!」

金冠が杜若に飛びついて、観音像の太刀を躱す。

「時!」

杜若と金冠は抱き合って転がり、その勢いのまま立ち上がる。

「すまない、時!助けられた!」

「伊佐姉様、来ます!」

土蜘蛛はそのまま杜若を追いかけてくる。

杜若と金冠は太刀を構える。

観音像は右腕五本の太刀を一斉に振り下ろす。


「後ろを取った!!」

紅羽の彩芽は土蜘蛛が杜若に気を取られているうちに、土蜘蛛の背後に回り込み太刀を構えて突進する。

すると土蜘蛛の腹の部分、後ろのあたりに無数の棘のようなものが現れ、一斉に彩芽の方を向く。

「え!?」

その棘の先から白い液体が放出され、彩芽に降りかかる。

「な、なんだ!?」

避ける暇もなく、彩芽の全身に液体がかかると、徐々にその駅は硬化し始めた。

「ななななな、なんだこれは!?・・・硬くなってきた!?彩芽が、動かない!!」


「それこそがわが力!水を操る霊力だ!その泥水はすぐに固まる性質を持っている。すぐに動けなくなる!」

成正が勝ち誇るように叫ぶ。


『あれは父上と同じ力を感じる!水占術のものじゃ!あやつなどが使って良いものではない!』

ミカナが忌々し気に叫ぶ。


「五本もあると、こっちは一本では捌ききれない!!」

伊佐は襲ってくる観音像に悲鳴をあげた。

「二人で五本ずつです!頑張ってください、伊佐姉様!!」

金冠も応酬に耐える。


『白結丸!あの蜘蛛、腕も脚もたくさん生えておるが、乗っているのは人じゃ!人は腕二本と脚二本しかない!動きが単調じゃ!そこを狙え!』

「そうか!さすがミカナ!」

白結丸は蒼刃を探すと、嶺巴に声をかける。

「嶺巴、伊佐と時千代とともに、蜘蛛の前足を頼む!おれは観音像の腕を落とす!」

「え!?どうするつもりだい!?」

「とりあえず、やってみる!」

そう言って風結は走り出し、高く跳んだ。

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