↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
流転 (るてん)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

397/425

5-29 流転ノ章 二

「淡影がこんなに早くここまでくると思わなかったな」

「そうですね。二万の軍を率いて、ここまで早く京へ上ってくるとは」

宗影が言うと、澄玲が頷く。

宇治川のほとり。

川向うには見渡す限りの大軍勢。

こちらは五千。相手は二万。

勝ち目はない。

だが・・・・。


「澄玲、本当に良いのか?戦御体まで・・・・」

「何をいまさら。わたしも戦えることは先の戦で証明したでしょう?」

「だが、今度の敵は・・・・」

「何も違いません。それに、わたしの方が殿より強いことをお忘れなく」

「・・・・そうだな」

苦笑いする宗影。


「宗影殿!」

そこへ、文成と昭基がやってくる。

「上皇様を京の内裏へ送り届けてまいりました」

文成が地面に片足をつけて頭を下げる。

「うむ。ご苦労だったな」

「それと・・・・」

文成が宗影に耳打ちする。


・・・・やはり、瑞奈が。

宗影はふう、と息を吐いた。


そして宗影は昭基の肩に手を置くと、昭基の顔を上げた。

「おまえを巻き込んで申し訳ないと思っている。もし、命が危ないようなことがあれば、おまえは吹原へ戻っても良い。おれたちと共に命を散らすことはない」

宗影の言葉に、昭基は顔を上げて宗影を見る。

「わたしは、命を取られて当然の身。わが首を落とし、父の元へ送りつけるが戦の常。ですが殿はそれをされず、古越殿や御前殿にわたしの武の手ほどきまでしてくださいました。わたしはここでそのご恩をお返しします!」


力強く言い切る昭基。その顔に迷いがない。

澄玲と文成の指導の賜物だと宗影は頼もしく感じた。


「・・・・いい顔になったな」


文成が連れてきたときはほんの子供の顔だった。

この半年で、見る見るうちに成長した。

顔つきは鋭く、自信を持つまでになった。


「殿に、わたしには逃げ帰る場所がある、などと言われるとわたしはとても悲しい思いです!」

「・・・・そうか。すまん」

宗影は昭基の前に膝をついて顔を覗き込む。

「だが、おれの本心だ。お前はもっと強くなれる」


「もう、殿!」

澄玲が口を挟んだ。

「ここには殿を置いて逃げるような者はひとりもおりません!戦う前から負けるようなことを言わないでください!」


澄玲の言葉に文成が無言で頷く。

そして、昭基がニヤリとした。


「はっはっはっ!!またおれは澄玲に怒られてしまった!」

そう言って立ち上がると、川向うの伊豆霞軍を見る。


「おれは淡影とここで決着をつける!同じ慶秀の作った戦御体、同じ霞家の血を引く者同士!おれも、負けるわけにはいかん!!」


「はい!」

昭基が声を上げた。


「おれが淡影と決着をつける!その間は絶対に邪魔を入れるな!おまえたちにその役目をまかせる!!」


「「おう!!」」





◇





「皆秀殿、久馬《きゅうま》殿!」

宿儀は御体匠として同行してきたふたりに声をかけた。

「なんだ?」

「はい?」

白縫の点検をしていた二人が顔を上げる。


「あそこに橋があるが、見えますか?」

「ああ。宇治橋だろう?」

久馬が言うと、皆秀が首を傾げる。

「変わった橋ですね。床板がない」

「そうなのだ。敵が橋の床板を全て取り払ってしまった。画龍点睛《がりょうてんせい》を欠く状態だ」

「ああ・・・・・・」


織部綴師《おりべてつし》の弟子、織部久馬は、宿儀の言葉に嫌な予感を感じた。

皆秀は首をひねる。


「もしかして、宿儀殿・・・・」


「ああ。間もなく陽が暮れる。開戦は明朝と伝令が言っている。今夜のうちに、あの橋に床板をつけられるだろうか?」


「・・・・やはり」

久馬が顰め面で宿儀を見る。

「夜の闇の中で川に入って床板をつけろと?」

皆秀も驚いた顔をする。


「兵が通れるくらいでかまわない。戦御体と馬は渡河出来るが、兵は無理に川を渡すと流される。できるだけ兵を失いたくない」


「・・・・あのな、それでおれたちが失われるかもしれないぞ?」


「大丈夫。肝胆相照《かんたんそうしょう》、生死同胞《せいしどうほう》。生も死も一緒だ」


宿儀の言葉に、久馬と皆秀は顔を見合わせる。


「意味はよくわからんが、仕方ないな。御体車の底板を使おう」

「わ、わたしは職人たちを集めてきます!」

皆秀が走り出す。


「感恩戴徳《かんおんたいとく》!」

宿儀は頭を下げる。

「だが、打ち付けたり固定するのはできない。音で敵に気付かれるからな。ただ橋桁に乗せて縄で縛る。それでいいな?」

久馬が言うと、宿儀は大きく頷いた。




◇




「なあ、ミカナ」

淡影は風結の前に立つ。

隣に鎧姿のミカナが淡影の着物の袖を掴んで立っている。

「なんじゃ?」


「おれは、兄上に勝てるか?」

「何を言う。そのために来たのじゃろう?」

「そうだが、これが本当に正しいか、わからなくなってきて。なぜ、兄上はこれだけの兵力の差があるのに、逃げないで川向うにいるのか。逃げてくれれば、戦わずに済んだかもしれないのに」

「まあ、宗矢はそんな男ではないな。戦の勝ち負けよりも、淡影と戦って道を譲るべきかどうかを知りたいのじゃろう」

「・・・・緋家を倒して父上や母上の無念を晴らすはずだったのに、なぜ兄上と戦うことになっているのか。共に戦う道はなかったのだろうか?」

「宗矢と宗近では持っている理想が違うのでな。淡影が宗近に従うことを選んだ時から、宗矢が敵になると決まっておったのかもしれん」


夕陽が赤く空を染め始めた。


「ミカナはもし、風結の中で眠らなければ、今頃川の向こうで兄上と一緒にこちらを見ていたかもしれないな」


「じゃが、今こうして淡影の隣におるのじゃ。お主のその白い刀と同じ。選んだのではない。選ばれたのでもない。それぞれが道を進んできた結果、こうなるべくしてこうなったのじゃ」


「ミカナ・・・・妙寂の婆の説法みたいなことを言うのだな」


「・・・・誰が婆じゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。