5-24 波瀾ノ章 十一
・・・・こちらから探さずとも、そちらから来てくれるとは!
「とはいえ、喜んでもいられないようですね!」
行尊はとりあえず雷巌の腕の縄を切ると、短刀を雷巌に渡す。
「あとはご自分で!」
ふんふん!
「行尊!おまえ、なぜ生きている!?」
戦御体から女の声が響く。
「申し訳ありません!わたしは死にたくも死ねないのです!」
錫杖を構える。
だが、どう考えても分が悪い。
「あんたたち!何者だいっ!?ここが僦馬党の棲み家だと知ってそんなもので入り込んだのかいっ!?」
榊御前が声を張り上げる。
「・・・・・・」
「なんとも最悪の再会ですね」
行尊がひとり呟く。
滅創衆、おそらく雷鳥。
ならば、あの戦御体に乗っているのは霊力を持つ者、椿。
声からしても、まず間違いないだろう。
熊丸が榊御前を庇うように前に立つ。
「お頭、とりあえず離れてください!」
・・・・夜着の榊御前も・・・・何とも・・・・色っぽい。
「こんな時でもそんなことを考えているから、わたしはいつまでも腐れ生臭坊主なのです!」
首をふるふると振って、錫杖を構え直す。
「雷鳥!もうわたしを殺す意味はありません!斎尾は死にました!」
「・・・・・・・」
沈黙。
「そんな戯言を信じるとでも思っているのか!?」
戦御体が一歩前に出る。
月明かりに照らされたその姿は薄黒く、土色と黒に染められていて、体に沿って白の線を走らせている。
「わたしがこの手でとどめを刺した!間違いない!」
「・・・・・・」
沈黙。
「どうでもいい!滅創衆のやるべきことは同じだ!!今の帝の世を終わらせ、新しい世を創る!そのためにこのわたしが今の世に眠りから覚めて・・・・そこまで言わなくていい!・・・・それも言わなくていい!?」
「・・・・何を言っているんだ?」
「・・・・・・」
沈黙。
・・・・何なのだ、この間は?
「・・・・・・はい。すみません。・・・・・・・わかりました。・・・・・・はい」
「・・・・誰と話している?」
そうこうしているうちに、雷巌が縄を切り終えて行尊の隣に来た。
「あ、大丈夫ですか?」
ふんふん。
「良かった。てっきり殺されているかと・・・・」
ふるふる。
「食べ物までくれたのですか?僦馬党、いい方ばかりですね」
ふんふん。
嬉しそうに首を縦に振る。
「あの毒を飲んで生きているとは、其方、只者ではないな!?」
「それ言うだけに、すごい待ちましたけど!?」
「・・・・・・一滴で牛を殺す毒だぞ!?」
「わたしの体は不老不死なので!最強なのです!」
戦御体の前に立ち、ぐっと胸を張る。
「では斎尾殿は失敗したのだな!?では、能見はどうなった!?」
「あの、聞いてます?」
「何っ!?不老不死だと!?」
「どうも、話がかみ合いませんね・・・・」
「資孝!」
熊丸が叫ぶと、資孝たちが雷鳥の連れてきた者たちを取り囲む。
「相手は素人ですぜ!刀じゃなく、斧や鎌を持ってやす!」
「暴れるようなら斬れ!」
熊丸の言葉に、榊御前が叫ぶ。
「熊丸!」
「お頭!敵は戦御体です!これは小競り合いではない!戦ですよ!」
「・・・・・・」
「・・・・ええと、わたしは?」
ぼさぼさ男が小声でつぶやく。
・・・・雷鳥が自分から来てくれた以上、とりあえず後回しですね。
「うおりゃああああっ!!」
叫びながら熊丸が戦御体目掛けて走り出す。
「ああっ!ひとりでは無理だっ!!」
行尊が叫ぶが、熊丸は止まる様子はない。
「き、きたぁっ!!」
叫び声がして、戦御体が腰の太刀を抜く。
・・・・・・太刀を構えるが、腰が引けている。
「え、ええいっ!!」
ざん!!
戦御体の振り下ろした太刀は地面にめり込む。
熊丸はすっと横へ飛んで避けると、戦御体の足へ刀を一閃した。
ざんっ!!
「きゃあ!痛いっ!!」
・・・・まずいな。
「まて、熊丸!その戦御体にいるのは椿かもしれない!」
「はぁっ!?どういうことだ!?」
「そいつは、滅創衆です!わたしの探していた雷鳥です!!」
「なんだって!?」
この声を上げたのは榊御前だ。
「椿!?椿がそこにいるのかいっ!?」
「お頭、出てきちゃなんねぇ!!」
熊丸が叫ぶ。
「・・・・・・」
「椿!それは本当なのかい!?」
「・・・・・・」
・・・・・。
・・・・・。
・・・・長いな!
「雷巌殿・・・・」
行尊は雷巌にそっと耳打ちする。
「相手は素人です。前に踏み込むときに軸足が浮きます。上手くすれば、雷巌殿の力であいつを転ばせることが出来ると思います。やってみましょう!」
ふんふん!!
「もういい!椿かどうか、そこから引きずり出せばわかる!!」
熊丸が焦れて戦御体に飛び掛かる。
きんっ!!
戦御体の膝あたりを切りつけて、金属同士が火花を散らした。
「痛いっ!!」
よろける戦御体。
「今です!!」
行尊と雷巌は飛び出すと、戦御体の右足の踵を思い切り持ち上げた。
「ぐうううおおおおおおおっ!!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
「うおりゃああああああああああっ!!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
「ひぃぃいぃぃいいいいっ!!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
ぐらっ!
重心が、ずれた!
「あと一息ぃっ!!」
「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
「うわぁぁっ!?」
戦御体から悲鳴がする。
戦御体はそのままゆっくりと横倒しに倒れていく。
ずううん・・・・・・!!
夜の廃寺の境内に、盛大な砂埃が舞い上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・や、やりました・・・・ね・・・・・・・」
「ふん、・・・・・ふん、・・・・・・・ふん・・・・・・・・」




