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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
影狼 (かげろう)

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5-12 影狼ノ章 十二

「よかあったぁ!!はぁなぁ!!」


ここは関ノ府の御体蔵《みたいぐら》。

皆秀から「紫雲《むらくも》、直りましたよ!」との知らせを受けた蓮華は、瑞奈と共に試繰《ためしく》りに来たのだ。

そこで、明日からの遠征に備えて準備をしに来た嶺巴と伊佐に出くわした。


「よかったぁ、あたし、瑞奈が処刑されちまうかと思ってぇ!!」

嶺巴がそう言いながら、瑞奈をぎゅうぎゅう抱き締める。

「く、苦じいっ!?」

胸に顔を押し付けられながら、瑞奈が声を絞り出す。


それを蓮華は横で見ていると・・・・。

・・・・・・なんだか、ちょっとだけイラっとする。

何でだろう?


「こら、嶺巴!瑞奈様が苦しがっています!」

「いいだろ?本当に心配したんだから!」

そういいながら、瑞奈の顔を胸から離さない。

「・・・・・・むぅ」


「でも、本当に無事でよかったですね」

伊佐が話しかけると、嶺巴はようやく瑞奈を離した。

「は、はい。心配かけました。嶺巴殿にも、伊佐殿にも」

「い、いちおうおれもかなり心配していましたよ!嶺巴殿が武政殿へ蒼刃で殴り込むのではないかと!」

後ろから皆秀が話しかけてきた。

「そんなこと、する訳ないだろ!」

「いえ、やりかねないほど、汐永殿に噛みついていましたよ!」

伊佐が意地悪く言った。

「ふん!」

嶺巴が鼻を鳴らす。


「でも、わたしは・・・・宗近殿に利用されてしまいました。それでこのような戦に行くことに・・・・」

「もう、瑞奈がどうだったって、あいつは戦をすることに決めていたんだから!」

「こら、嶺巴!大殿をあいつとか言わないで!」

嶺巴を伊佐が嗜める。

「でも、本当にそうですね。戦の口実づくりに利用されてしまいましたね」

皆秀が言う。

「宗影殿との約束を果たせず残念です・・・・」

瑞奈が言うと、嶺巴が瑞奈の肩に手を置く。

「大丈夫だって!淡影が何とかしてくれるさ!」

「そうですよ。淡影様、大将を仰せつかってからずっと悩んでおいででしたけど。ある時急に、「吹っ切れた!」と言って明るくなっていらっしゃいました。たぶん、何か思いつかれたのと思いますよ」

伊佐が優しい口調で言う。

「それならよいのですが」


「今日は淡影様は来ていないのですか?」

「はい。淡影殿は昨日のうちに風結の支度を済ませられましたよ」

蓮華が聞くと、皆秀が答えた。

「・・・・そうですか」


少し残念そうな蓮華を、ちらっと瑞奈が見る。


「蓮華殿、もう一度ちゃんと、淡影殿とちゃんとお話ししておいた方がよいのでは?」

「・・・・瑞奈様・・・・」

「紫雲の試繰りは後でもできます。行ってきてください」


「・・・・はい。」


「ああ、淡影なら屋敷にいるよ!」

嶺巴が言うと、蓮華は走り出した。


「ありがとう!」




◇




淡影は、与えられた自分の屋敷で旅の支度を整えていた。

「明日は早いからな。鎧は身につけて寝る、と」

そのそばで、ミカナがふわぁ、と欠伸をする。

「ミカナ、だんだん瑞奈殿の狐に似てきたな」

「何を言う。おれのほうが愛らしいじゃろ?」

「・・・・うーん、まあ。・・・・今日は岩姫に会わなくていいのか?しばらくお別れだろ?」

「昨日、話をしておいた」

「寂しがっていただろう?」

「ふーん。と言われた」

「・・・・話し方だけでなく、性格までミカナに似てきたのか?」

ちょっとだけ口をへの字に曲げたミカナだった。

「ああ、そうじゃ!おれも旅の支度をせんといかんのぅ」

と独り言を言って出ていくミカナ。


「淡影様・・・・」

すると庭に、蓮華の姿があった。

少し息があがっている。

「蓮華・・・・来てくれたのか?」

淡影は庭に出て蓮華のそばへ行く。

「淡影様が明日出立と聞いて・・・・」

「ああ。明日の早朝に出る」

「ご無事で帰ってきてくださいね」

「もちろん。蓮華のところに帰ってくる。約束する」

蓮華は淡影のそばに来ると、その笑顔を無言で見つめた。

「蓮華、おれはずっと迷っていたんだ。宗影殿と戦をして勝てるだろうかと。もし勝てても、宗影殿の首を取れるのか?おれにそれが出来るだろうかと」

「・・・・」

「でも、宗影殿・・・・兄上に、おれがこの霞家の宝刀を持つにふさわしいということを認めてほしい。だから、おれはどうしても兄上に勝ちたい」

そう言いながら、腰の白い鞘の長刀に手をやる。

「だが、蓮華が言ってくれた。おれにも、宗影殿にも死んでほしくないって」

「・・・・・・」

「出来るだけ、そうするつもりだ。おれが兄上の後を継ぐにふさわしいと認めてくれれば、兄上も引き下がってくれると思う」

「・・・・淡影様。でも」

「わかっている。兄上は簡単に勝てる相手ではない。だから、おれも死ぬ気で戦う。そうしなければ、兄上にもわかってもらえないからな」

そう言って、にっこりと笑った。


「淡影様、わたしずっと淡影様と一緒に過ごしてきて、ずっとこのまま、蔵馬で爺と璃玖様と妙寂様と天狗様、わたしと淡影様で生きていくんだって、なんとなく思っていて・・・・」

蓮華は淡影の顔を見上げる。

「でも、淡影様はどんどん強くなって、わたしの手の届かないところへ行ってしまう・・・・。だから、わたし天狗様に頼んで、東雲山で修行して・・・・とても辛かったけど、淡影様は小さい頃からこの修行に耐えてきたんだって・・・・わたし・・・・そう自分に言い聞かせて・・・・」

蓮華の目から涙が溢れだした。

「・・・・何言ってるのかな、こんなこと言いたいのじゃなくて・・・・」

「蓮華。すまない。どうしても、おれは蓮華に殺し合いなどしてほしくないんだ」

「ごめんなさい。もう、わかっています。でも、わたし・・・・」


蓮華は淡影の胸に顔をうずめた。

「淡影様のそばに、ずっといたいのです・・・・」

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