5-08 影狼ノ章 八
「さあ、話していただきましょうか!」
義陽が瑞奈と雷巌の前に仁王立ちする。
瑞奈は膝を揃えて下を向く。雷巌も、大きな体をできる限り小さくしている。
「・・・・あの・・・・蓮華殿からいつものように芋をいただいて・・・・・・」
雷巌がふん、ふん、と頷く。
「隣の牢の方が欲しそうにガタガタしていたので、あげようと思ったのですが・・・・」
ふん、ふん。
「どうしても届かないなーってごちゃごちゃしていたら、この方が牢を壊して出てきてしまって・・・・」
ふん、ふん。
「ついでにわたしの牢まで壊してしまいまして・・・・・・」
ふん、ふん。
「壊してしまったから、怒られると思って、逃げました・・・・」
ふん、ふん。
「それだけです。ごめんなさい」
ふん。
ふたりは深々と頭を下げる。
・・・・・はぁ。
深いため息をひとつ。
「・・・・・・ともかく、無事でよかったです。本当に襲われたのならどうしようかと思いました」
「すみません・・・・・・」
「ですが、壊した柵は、明日から二人で直すのですよ!」
「はい・・・・・・」
ふたりとも、これ以上ないくらいに縮こまって頭を下げる。
「それと、これをお返しします」
義陽は懐から白い短刀を差しだした。
「あ、わたしの・・・・」
宴の舞の後に捕らえられた時、取り上げられてしまったものだ。
「大切なものなのでしょう?」
「はい!」
とても安心したような、嬉しそうな顔で義陽を見た。
・・・・この笑顔。
義陽にとっては・・・・うれしくもあり、切なくも・・・・。
本当に妙珠に似ている・・・・。
◇
「狐白丸ー!!ふさふさー!!」
「あおおおん!!」
瑞奈は狐白丸を抱き締めて頬をすりすりしている。
「瑞奈殿ー!!行尊ですよー!!ふさふさー!!」
かぷっ!
狐白丸が行尊の手に噛みつく。
「〇◇▽×◆!?」
「雷巌殿、あの生臭坊主を外に捨ててきてください!」
ふん、ふん!
瑞奈の言葉に頷く雷巌。
「あ、ああ!!ちょっと!?」
雷巌は行尊を持ち上げて外へ出て行った。
「しかし、今年は芋が豊作だったから良いようなものの、毎年こうとは限りませんからね。自分たちの糧は自分たちで作る!これが関ノ府の掟ですよ!」
義陽が言うと、瑞奈は「はーい」と、気のない返事をした。
「・・・・いつもの瑞奈様ですね」
蓮華がぽつりと言うと、義陽は無言で頷いた。
「・・・・どうかしたのか?」
天狗が二人の顔を覗き込む。
「い、いや!何でもないです!!」
「はい、何でもないですよっ!!」
「それはそうと、さっき気付いたのじゃが・・・・」
「・・・・なんですか?」
天狗が何かに気付いた?
息を飲む義陽と蓮華。
「狐白丸は雌じゃな」
・・・・はぁっ!?
「い、いや、そんなこと意識はしていなかったのですが・・・・そうなのですか?」
義陽がそう聞くと、天狗は頷く。
「さっき、わしの鼻に噛みついてぶらぶらさせておったら、どうも、腹の下に何もないと思ってな。詳しく調べてやった」
「・・・・それで天狗殿、傷だらけなんですね」
「皆、知らなかったのですか?狐白丸は女の子ですよ!ね、狐白丸!」
「おおん!!」
蓮華は額に手を当てる。
「ああ、くらくらする・・・・」
・・・・もしかして、それで瑞奈様に懐いてしまった?
なにか、いろいろと納得いくような、いかないような・・・・。
狐も人に一目惚れするのだろうか?
「あ、それと、しおながもちにお願いがあるのです」
瑞奈が義陽を見上げて言った。
「はぁ・・・・なんですか?・・・・嫌な予感しかしませんけど」
「たいしたことではないですよ。今宵は、蓮華殿と一緒に床を並べたいのです。前みたいに。ここに泊まっていってもよろしいでしょうか?」
・・・・・。
「はあああああああっ!?」
「ええええええぇぇぇぇっ!?」
「何をそんなに驚いておるんじゃ?ずっとそうじゃったのに?」
・・・・・・そ、そうだけど!!
「れ、蓮華殿がよろしければ・・・・」
「は、は、は、はい!よ、よろしいです・・・・」
その返事ににっこりとする瑞奈。
・・・・どういうつもりなの!?
◇
暗い部屋の中、ふたりは床を並べた。
・・・・そりゃあ、旅の間はずっと同じところで寝ていましたが!
それは、瑞奈様のことを聞く前で。
なんというか、今となっては・・・・どうしてよいのか・・・・。
・・・・眠れる気がしない。
「蓮華殿、久しぶりですね。こうして二人で・・・・」
「は、あ、はっ、あ、ひゃい!」
「ふふ。緊張してますか?」
「し、しますよ!瑞奈様のこと、聞いてしまったから・・・・」
「わたしのこと、詳しく話したのは初めてなんです。母様以外は、みんなわたしのこと女だと思っている。ううん、もしかしたら、母様が一番女だと信じているかもしれません」
「・・・・辛くなかったですか?」
「今までは・・・・それにわたし自身、自分を疑っていなかったので。女というのはこういうものだと思って育てられました」
「そうなのですか」
「ですが、母様のように胸は膨らまないし、体つきがどうしても変わってきます。それで、わたしはどんな女にも負けないように、女でいなくてはいけなくなりました」
・・・・瑞奈様のあの艶っぽさは、努力の賜物だったんだ・・・。
瑞奈は、蓮華の方を見ると、にっこりと微笑んだ。
「でも、蓮華殿と一緒にいて、女でいることが辛くなりました」
瑞奈はそこでふぅ、と息を吐いた。
「母様にも言われましたから」
「・・・・なんと言われたのですか?」
「本当に愛しい人が出来たら、ちゃんと打ち明けなさい、って」




