5-06 影狼ノ章 六
・・・・瑞奈様のとんでもない秘密を知ってしまった。
蓮華は淡影の屋敷の縁側で庭を眺めながら、膝の上の狐白丸を撫でていた。
ずっと一緒に旅をしてきて、いつも同じ部屋で寝ていた。
全然気が付かなかった。
同じ部屋で寝て、同じように着替えていたのに・・・・。
「それに、あの時も・・・・」
鷹根峠で瑞奈様は何も纏わずに石の中に閉じ込められていて・・・・。
すぐに狐白丸が布で体を隠したとはいえ・・・・。
・・・・気が付かなかった。
そのあとの・・・・。
「蓮華殿の”初めて”をひとつだけわたしのものにしようと思います。そうすれば、蓮華殿の中にいつまでもわたしが残るから・・・・」
そう言って、瑞奈様はわたしに・・・・。
く、唇を・・・・。
・・・・顔が、熱い。
あれは、殿方として・・・・かしら・・・・・・。それとも、女として・・・・?
ど、どうしたらいいの!?よけいに瑞奈様の顔が見れなくなってしまう・・・・。
わたしだって・・・・瑞奈様のこと・・・・・・。
「あーっ!!わかんなぁいっ!!」
「ど、どうした!?急に叫んで!?」
「淡影様っ!?」
いつの間にか、近くに淡影が立っていた。
「どうして淡影様がここにっ!?」
「い、いちおう、おれの屋敷だから・・・・。皆、勝手に住み着いてしまっているけど」
「そ、それもそうです!じゃなくて、いつからそこに!?」
「いや、つい今だけど・・・・」
「・・・・・・」
・・・・はぁ。
大きなため息をつく。
「・・・・淡影様、わたしのこと、どう思っています?」
「急に、どうした?」
「いいから、答えてください」
「うぅん・・・・」
淡影は眉間にしわを寄せて考え込んだ。
「大切な仲間だ」
「・・・・そうでしょうね」
蓮華はつまらなさそうにそっぽを向く。
「だが、仲間の中でも、蓮華は特別なんだ」
「・・・・どういう?」
さして期待もしていない。
「蓮華は・・・・そうだな、おれが帰ってきたときにいつもいて欲しい」
「・・・・どういう意味ですか?」
「蓮華の顔を見ると、落ち着くんだ。蔵馬にいた頃みたいに、天狗と厳しい修行をして傷だらけになっても、蓮華の顔を見ると帰ってこれたな、って思う。安心するんだ」
「・・・・」
「だから、おれの帰る場所にはいつもいて欲しいって思っている」
「だからわたしを戦には連れて行かないの?わたしは淡影様と一緒にいたくて修行して強くなったつもりだし、戦御体も使えるようになったのに・・・・」
「蓮華には戦いなんてしてほしくない。強くなるのはいい。自分を守れるからな。だけど、泥まみれ、血まみれになって、それでも這い回って人を殺し合うような場所に、蓮華を連れて行きたくはないんだ」
「・・・・それは、わたしだけなの?」
「そうだ。他の誰よりも、蓮華にはそう思っている」
「淡影様。わたし・・・・」
「まあ、妾じゃがな」
「わたし、わたしね・・・・淡影様のこと・・・・ずっと・・・・」
「蓮華・・・・」
「まあ、おれのようにいつもひとつというわけにいかんからのう」
「淡影様のこと、どうしてそんなに無神経なのか本当にわからないの。ずっと悩んでる」
「?」
「どうしてそういう話をするときに、ミカナを連れてくるの!?」
「え?駄目か?」
「あたりまえでしょっ!!」
ミカナが淡影の袖をつまんでこちらをじっと見ている。
「おれがおらんと、淡影はそこかしこの女に色目を使うでの!」
「・・・・ひどいことを言うよな、ミカナ」
否定できない蓮華。
「無意識の悪意が一番たちが悪いのじゃ」
「でも、なあ・・・・。そもそもこういう話をするつもりじゃなかったし・・・・」
「なら、しないでください!!」
「あ、でも、おれ・・・・戦に出ることになった」
「・・・・はぁ!?なぜそれを先に言わないのですか!?」
「いや、言おうとしたら蓮華が・・・・」
「どこに!?誰と!?」
「・・・・蓮華は天狗から聞いていると思うけど・・・・木曽の宗影殿のこと」
「・・・・まさか、宗影様と・・・・?」
「そうだ。木曽宗影の討伐・・・・おれの兄上、霞宗矢だ」
「どうして!?そんな・・・・」
「戦いたくない気持ちと、戦って兄上を越えたいという気持ちが半分づつある。だから、蓮華に話をしようと思って」
「そんなこと・・・・わたしは、わかりません。でも、淡影様にも、宗影様にも、死んでほしくない・・・・」
「・・・・そうか。ありがとう、蓮華。それでいいんだ。決心がついた」
淡影は蓮華の肩に手を置くと、その場を去っていった。
「・・・・え?それだけ?」
「蓮華よ、お互い、苦労するのう。惚れた相手が悪いのじゃ」
ミカナはそう言ってうんうんと頷くと、淡影を追って去って行った。
なによ、それ!
・・・・帰る場所!?
わたしは、ただ待っていろってこと?
狐白丸が膝の上でひとつ大きな欠伸をした。
「まったくあいつはっ!なんにもわかってくれないんだからっ!!」
ぐっ!と思わず狐白丸の尻尾を掴んだ。
「ぎゃんっ!?」




