193 花舞ノ章 幕間 六
「本当にいつも面倒を見ていただき、申し訳もありません」
義陽は伊佐に頭を下げる。
「ほら、お前たちも」
そう言って竹丸と狛丸の頭も下げた。
「ありがとう」
「明日も遊びたい」
伊佐は少し笑って、「また明日も遊びましょうね」と言った。
以前、もしゃもしゃから「伊佐殿を嫁にすればよいではないか」と言われてから、まっすぐに伊佐のことを見られなくなっていた。
だが、この日はなんとなく、伊佐から目が逸らせなかった。
綺麗な目をしている。
白い肌、少しやんちゃそうな顔立ちだが、見た目よりも落ち着いていて面倒見がよい。
身分の高い家の出であろうことは雰囲気でわかった。だが、その素性は何も知らない。
聞いても良いのだろうか?
それとも・・・・・・。
「今日は市へ連れて行ってくれたとか。こいつら、悪さしませんでしたか?」
義陽が言うと、伊佐は笑った。
「あの、瑞奈殿と競い合って、見つけるたびに何かを食べていましたよ。もうお腹いっぱいでしょう、ふたりとも」
「はい!」
「たべすぎた!」
狛丸と竹丸が元気に答える。
「まったく、お前たちは・・・・・」
「では、また明日伺いますね」
伊佐がそう言って振り返って出ていく。
義陽の気持ちの中に、言いようのない苦いものがじわっとしみ込んでくるような感触があった。
翌日も、子どもたちは伊佐のところへ出て行った。
義陽は筆をとって久しぶりの書き物を始めた。
「義陽、いいかしら?」
藤月だ。
「姉上。おめずらしい。どうかしましたか?」
藤月はお腹をさすりながら義陽の前に腰を下ろす。
「まだ、それほど大きくありませんが」
義陽が言うと、藤月は少し不満そうな目を向けた。
「人から見るとそうでしょうが、わたしには大変重いのですよ」
「そういうものですか。で、どうしたのです?」
「あの、白拍子のことです。瑞奈王という娘・・・・」
少し、言いにくそうに藤月が言った。
「・・・・気を使わないでください。ずっとおれも感じていたことを姉上も感じたのだと思いますから」
「そうなの。あの娘を見ると、妙珠殿のこと思い出してしまって・・・・」
「それで、おれが妙珠を思い出して辛い思いをしているのではないかと気になって、わざわざ来てくれたのですね」
「はい。余計な心配でしたか?」
「正直申しますと、峠で初めて見た時は息が止まるかと思いました。ですが、あの時、なぜか子供のような話し方で・・・・いえ、それは良いのですが」
「義陽が気にならないのなら良いのです。他の者たちは元気な時の妙珠殿を知っている者がもう少ないので・・・・」
「おれは大丈夫です。ですが、父上や母上に会わせないよう、気を付けてください。特に父上には・・・・」
「そうですね。わかりました。少し心配だったので。安心しました」
そう言って藤月は腰を押さえながら立ち上がると、部屋を出て行った。
藤月は知らないが、瑞奈は誰かの手が届くような人ではない。
でも・・・・姉上の心配通りだ。
はな・・・・瑞奈王を見るたびに、妙珠のことを思い出す。
すこし、胸を締め付けられるような苦しさを感じる。
だが・・・・・。
妙珠のことを思うたびに、伊佐の顔がちらつく。




