↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
花舞 (はなまい)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/423

179 花舞ノ章 八十二

・・・・どれくらいの刻が経ったのかしら?


嫌に頭がすっきりしている。すっかり熱も引いているようだ。

失った霊力が、戻ったということ?眠ったから・・・・。

ただ・・・・。

手足が動かない。


「目が覚めたか?」


・・・・この声は・・・・知らない。


「だれ?」


「わしの名は滅創衆二ノ衆纂紗(さんさ)の破導(はどう)、斎尾(いお)。お会いするのは二度目じゃな」


「また、そんな難しい、覚えられないことを言う・・・・」


「最初に会うたのは、上皇の院での宴の時。あの時は憎き宗影に邪魔されたがな」


「なぜ、わたしを付け狙うの?」


「ずっと考えておったのじゃ。何故宗影はお主を宗近の元へ送ったのか・・・・」


「ねぇ、わたしのはなし聞いてる?」


「そして、わしが一番必要としているものをお主が持っておることもな」


「そんなもの、欲しければあげるから皆を自由にしてあげてくれないかしら。何が欲しいのか知らないけれど」


「血、じゃ」


「血?」


「わしの作った”器(うつわ)”に注ぐ、血。神たる者に流れる血じゃ」


「わたし、神じゃないわ」


「まだ気づいておらんだけじゃ」


「・・・・・わかってはいるけど、そんなものを自慢する気がないだけです」


「ならば、われらが理想のために、その身を捧げよ」


「・・・・何をしようとしているの?」


「命を、創る」


「は?」


「朝廷も帝もいない世を創る。だが、その後の世界で民が生き延びるにはやはり世を統べる者が必要だ。その命を作る」


「それが何の意味があるの?同じことを繰り返そうとしているのじゃない」


「今、何故に世が乱れるかわかるか?それは、帝の命に限りがあるからじゃ。命を失われ、またはある命を奪われ、次の帝に権力を求める。それ故に、世が乱れる」


「それは当たり前でしょう?人である限り、いつか命は尽きる」


「そうだ。それ故に、帝が変わると政(まつりごと)が変わる。そして私利私欲に溺れる者たちが命の奪い合いを続けるのじゃ」


「・・・・・・・それとわたしは関係ないではないですか」


「自身が否定しても、世はそれを認めない。宗影のように、お主を利用しようとする輩が必ず現れる」


「それはあなただって同じでしょう?宗影殿はわたしを、こんな風に扱ったりしない!」


「それは目的の違いだけだ。やるべきこと、見るべき夢の違いがある。命ある帝が玉座に座る限りな」


「命のない帝って・・・・・」


「言い方を変えよう。命の尽きない帝じゃ」


「それはもう、人ではない」


「そうじゃ。人ではない。人であるから過ちを犯す。民草のひとりであればだれの目にも止まらぬことも、帝となれば一分の間違いで世が乱れ、たくさんの命が奪われる」


「人でないものが帝になんてなれるわけない!」


「今の世を思うから、叶わぬと思っているだけじゃ。その全てをわれらが滅ぼす」


「結局、やっていることは同じではないですか。命を奪い、すべてを滅ぼし、次の権力を奪う、それの何があなたが滅ぼそうとしている世と違うのですか!?」


「ふん!自身が権力を奪い、この世を思い通りに動かすだけのことがしたいのなら、緋紀基と何も変わらん。だが、わしが思い描く新しい帝は、決して間違えず、決して死なず、決して誰にも屈せない、誰にも殺すことのできない帝を祀り立てること。その帝を作り出した創生主となることじゃ」


「そんなものができるわけがないでしょう!?」


「もう、目の前まで来ておる。後は、器にお主の血を注げばよいだけじゃ」


「わたしを殺して血を搾り取るつもりなのですね?」


「殺しはしない。この先、永久に生きてもらう」


「わたしは人です。血がなくなれば死にます」


「そう、お主は人。いずれ死ぬ。だが、恒久に生き続ける帝に、お主は血を与えな続けなくてはならん」


「そんな、そのために生かされるというの?」


「そうじゃ。死ぬことは許されぬ。だが、安心せい。もうすぐ何も感じなくなる。わしはずっと毒を作っておった。それは生き物を殺す毒ではない。むしろ、生かす毒。自らの精神、感覚、感情。すべてを失わせ、抜け殻にする毒」


「もしかして・・・・遠江湖の蟲毒・・・・!?」


「ふふふ、良くわかっておるじゃないか。長い月日、あそこで蟲毒を作らせておった。そして、その毒がついに出来上がった!思わぬ副産物、命が絡み合った化け物も生み出されたがな」


「あなた・・・・あそこで人が死んだのですよ!その毒のために、子供たちを残して、無念にも蟲毒に食べられた人たちがいたのですよ!」


「ふむ、それで蟲毒はさらに進化した。人も蟲毒の餌になることを証明したではないか。毒を持たぬ生き物でさえ、毒虫たちの進化には餌となることを証明したのだ」


「ふざけないで!人の命をそんな風に!」


「ふざけてなどいない。この世には未だわからぬことが多くある。それを解き明かすために、人は犠牲になる。そして、わしが作った不老不死の帝の前で、この世の誰もがひれ伏す日が来る」


「そんなこと、絶対にさせない!」


「・・・・・ふふふ、できるものか。すでに、体が動かないだろう?毒が効いてきておる」


「くっ、こんなものっ!」


「体を動かそうとすればするほど、毒がまわる。もうすぐ、おまえから自我が消える。そうなれば、血を作るだけの抜け殻が出来上がる」


「たとえわたしが抜け殻になろうと、わたしの仲間たち、天狗殿に蓮華殿、木曽宗影殿たちが、そんなことさせない!」


「木曽宗影・・・・・憎き奴っ!我が目から、光を奪ったぁ!必ず、奴を滅ぼす!」


そこには、黄色の薄汚れた袈裟を着た、あの物乞いの僧侶がいた。

顔に深い傷を負っており、両目が開いていない。

あの上皇の命を奪おうとした宴の夜に、宗影に負わされた傷なのだろう。


「さあ、おしゃべりはお終いだ。お前の人としての最後の話としては、いささか物足りないじゃろうがな」


そう言うと、斎尾はニヤリと嗤った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。