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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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32 風結ノ章 三十二

魁怨(かいおん)という御体は朱色地に白い線が走り、丸太のような太い腕と足。

顔に怒りの阿修羅のような面をつけている。


白結丸の中御体は持ち上げられる。

そして思い切り地面に叩きつける。


「ぐはっ!?」

魁怨は倒れた三式の脚を掴むと、何度も地面に叩きつける。

ずん!

ずん!

叩きつけられた衝撃が白結丸の体を打つ。


「白結丸殿!」

宿儀が叫ぶ。



「これでどうだ!もう、動けまい!!」

「絶体絶命・・・」

宿儀が悟ったその時。

外壁が轟音とともに崩れた。

「すまない、待たせたね!!」

土壁を突き破り、蒼刃が躍り出た。

「嶺巴殿!白結丸殿が!満身創痍!」

魁怨は中御体を放り投げる。

またも地面に叩きつけられ、転がる中御体。

「こいつの仲間か!派手に壊してくれたな!!」

魁怨は太刀を抜き、構える。

蒼刃も太刀を抜いて構える。


「なんだかわかんないけどね、主君を傷つけるやつは許さないよ!!」


「でやぁっ!」


二つの御体は一気に間を詰め、刃を合わせる。刃と刃から火花が散る。

ぎりぎりと軋む音。

「力比べでこの魁怨に敵うと思うな!」

蒼刃はじりじりと押される。

踵が沈み、土が(えぐ)られていく。

「力が何だってんだい!」

蒼刃は刃を滑らせて、体を捻って躱す。

すぐさま太刀を走らせ、魁怨の右肩を掠めた。

「まだまだぁ!」

蒼刃は間髪入れず、刃を繰り出す。

魁怨は受け流しながら、次々と傷を増やす。

「盗人風情が!なめるな!!」

蒼刃の刃を力任せに撥ね退け、刃を弾く。

間合いを取って太刀を構え直す。

「一息の暇をあげるほど、あたしは優しくないからね!」

蒼刃は再び解怨に斬りかかっていく。


「白結丸殿!五体満足か!?」

宿儀は中御体の繰り座の扉を開け、中を覗き込む。

頭から血を流している白結丸の姿。

「白結丸殿!」

呼びかけて体をゆするが、反応はない。

「ああ・・・・・」

宿儀は悔しくて御体のへりを握り拳で叩きながら声を漏らした。

「人質を見捨てるようなことをするから・・・自業自得!!」

「何が自業自得だ!」

白結丸が目を覚ました。

「・・・生きていた!吃驚仰天(びっくりぎょうてん)!」

「と、とりあえず引っ張り出してくれ。どこかの骨が折れたらしい・・・」

宿儀は白結丸の体を引っ張り出す。

「痛ててて!」

見ると、蒼刃が敵の御体と戦っている。

「嶺巴、もう少し早く来てくれれば・・・・そうか、あいつ、道に迷ったな」

蒼刃と敵の御体の向こう、蒼刃が壊した土塀の穴から皆秀がこちらを覗き、こっちへ来いと手招きしている。

二人は御体同士の戦いに巻き込まれないように、外壁の内側に沿って皆秀のところまで来た。

白結丸は宿儀の肩を借りて、ぜぇぜぇと息を切らす。

「大丈夫ですか、白結丸さん!全身怪我だらけです!」

「うう、痛い・・・」

「とりあえずここは嶺巴さんに任せて、ミカナさんのところまで下がりましょう」

こうなる事態に備えて、やや離れたところに風結を運んできている。

ミカナがいつでも風結で出られるように待っている。


・・・この前の、あいつ・・・貞基だったっけ?白い御体の奴、あいつと比べたら随分と動きが鈍いね。ほんとに力だけの御体・・・。

「くそう!やられてたまるかっ!」

魁怨は大きく太刀を振りかぶると、力任せに振りかぶる。

「隙だらけ!!」

嶺巴はがら空きの胴めがけて太刀を薙ぐ。

「甘いわ!引っかかったな!」

魁怨は腕をねじって蒼刃の太刀を受け流すと、蒼刃の胴体を蹴り飛ばす。

よろけた蒼刃の腕を片手で掴むと、捩じ上げて地面に押し付ける。

「うあっ!?」

蒼刃は掴まれた腕ごと引っ張られ、地面に倒される。

ずうん!と低い音が響き、砂埃が舞う。

「もらったぞ!!」

再び太刀を振り上げる魁怨。

ずん!!

だが、魁怨の太刀は空振りして地面に突き刺さる。

蒼刃は地面を転がって避けると、距離を取って立ち上がる。

「あいつの、この頑丈さは意外と厄介だね。せめて地面に倒せれば、蒼刃の体重ごとあいつに斬りかかれるのに・・・」

「嶺巴殿!!」

下の方で声がする。宿儀だ。

「重たい相手は、脚でなく頭を狙うのです!」

・・・頭?

あの怒り顔の阿修羅面か!

蒼刃は太刀を構えて一気に魁怨へ走る。

魁怨も太刀を低く構え、振り上げる。

「もらった!!」

道明は叫んぶが、魁怨の振り下ろした太刀は空を切る。

「何!?」

蒼刃は間合い手前で止まる

魁怨の太刀はそのまま振り下ろされる

蒼刃はそれと同時に魁怨へ向かって跳ぶ。

「・・・跳んだぁ!?・・ぐへっ!?」

そして魁怨の阿修羅面目掛けて膝蹴りをたたき込む。

鈍い音がして、魁怨はその場に倒れ込む。

「今度こそ、もらったよ!!」

蒼刃の全体重を乗せた上からの太刀が振り下ろされる。

「させるか!!」

道明がそれをよけようと力一杯魁怨を動かそうとした、その時。

ぼきっ!

御霊石が、折れた!?

一度宿儀が外した御霊石が、道明の付け方が甘かったせいで付け根からぽっきり折れてしまったのだ。

「あ・・・・はぁぁぁぁぁぁっ!?」

魁怨は動きを止める。そのまま蒼刃の太刀は魁怨の頭を貫いた。

「あ、あ、なんてことだ!?」

焦った道明は外れた御霊石を何とかつなぎ目に繋げて・・・。

繋げてしまった。

当然、魁怨の頭に貫いた太刀の痛みが道明に伝わる。

「はぐっ!?」

その瞬間、道明は泡を吹いて気を失った。

天晴爛漫(あっぱれらんまん)、すばらしい!」

「・・・意味はわからないが、ありがとう」

宿儀は動かなくなった魁怨の繰り座の扉を開け、中で気を失っている道明の手から御霊石を取り上げる。

「祝願成就!!」

「よし、逃げるよ!!」

ふたりは国府から逃走した。





「ううむ、病気なら魔の気を取り払えば直せるんじゃが・・・怪我となると医者を呼ばぬと難しいな」

白結丸の横腹を触りながらミカナが難しい顔をする。

「大丈夫ですか?白結丸さん?」

皆秀は心底心配そうだ。白結丸に肩を貸し、何とかミカナの待つ御体車までやってきた。

風結を乗せた御体車、馬が二頭繋がれている。白結丸を荷台に横たわらせる。

「うう・・・あんまり大丈夫じゃないかも・・・」

「白結丸がこんな怪我をするとはなぁ」

腹に飽きたのか、ミカナは白結丸のおでこをぺちぺちとたたいている。

そこへ、嶺巴の蒼刃と宿儀が戻って来る。

「大丈夫か?白結丸殿!」

嶺巴が蒼刃から出て声をかける。

「うう・・・かなり大丈夫じゃないかも・・・」

「さっきは”あんまり”じゃったが、”かなり”になったな」

「すまないねぇ・・・国府があんなに広くて複雑だと思わなかったよ・・・」

・・・嶺巴、やっぱり迷子になったんだな・・・。

「・・・御霊石は?」

「御霊石は、この通りだ。首尾上々!」

宿儀は得意気に御霊石を見せる。緑色にぼんやり光る石が、宿儀の右手に握られている。

「・・・・・ほう」

ミカナが感心したように御霊石を覗き込む。

「・・・もしや、宿儀。お主・・・」

「おしゃべりは後だ。とにかく逃げるよ!」

「そうですね、急ぎましょう」

嶺巴の一言に皆秀も同意する。どちらかというと皆秀はあの御体を早く動かしたいようだ。


「待てぇい!!」

不意に後ろから声がする。


「とりあえず白結丸は療養せんといかんのう」

「満身創痍」

「あとであたしが添い寝して看病してやるよ」

「いえ、ですから病気じゃないんです。怪我なんですよ」

「・・・ううぅ、荷車が揺れると痛い・・・・」


「おーい!待てぇい!無視するな!」

またも後ろから・・・。

「・・・あいつ、まだ追ってきたよ。頭に太刀が刺さったのに・・・」

「まあ、御体の傷は繰り手にはつかないですから。でも、相当痛いと思いますけどね」

執拗果断(しつようかだん)・・・」

疑似的とはいえ、頭に刀が刺さった衝撃を受けたのだから、普通はしばらく立ち直れない。

・・・はずだが、道明という男は只者ではないらしい。

「さて、どうするのじゃ?」

「しつこい男は嫌いだねぇ」

一行が振り向くと、刀を杖にしてかろうじて追って来る道明。その後ろから役人たちが十人ほど走って来るのが見える。

「あたしが片づける!白結丸を早く!」

嶺巴が蒼刃に乗り込む。

「先に逃げな!あとで必ず行く!」

「そうですね!行きましょう!」

皆秀が馬で御体車を走らせる。

「・・・嶺巴を一人にしたら・・・・」

白結丸は絞り出すように言ったが、馬の走る蹄の音と、荷車の揺れる音でかき消され誰の耳にも届かなかった。




「やれやれ、白結丸が直るまではしばらく足止めじゃの。どれ、おれが介抱してやろう」

ミカナが白結丸の鼻をつまみながら言う。

白結丸を連れたミカナと皆秀、宿儀の一行が鍛冶師の隠れ里に着くと、あたりは夜が明け始めていた。

「とりあえず、嶺巴さんが戻ってくるまで休んで待ちましょう」

皆秀が言うと、宿儀は御霊石を眺めながら、目を潤ませている。

「これで・・・これで皆の敵討ちが・・・」

「待ってください、宿儀さん。御体が動いたからと言って無敵ではありませんよ。さっきも見たでしょう?敵も御体を使っていますから」

「・・・白結丸、おれに御体の動かし方を教えてくれ。これでも唐の兵法書や戦術書はかなり読んだ。完全無欠とは言わないが、洽覧深識(こうらんしんしき)ではあるつもりだ」

宿儀が白結丸の腕を掴んで懇願する。

「ゆゆゆゆゆ、揺さぶると・・・痛い・・・」

「だが、そうじゃな。御体繰り手がいなければ、御体があっても意味がない。皆秀には霊力を感じないが、宿儀、お主には霊力があるようじゃ」

ミカナが言うと、宿儀が目を輝かせる。

「それは真か!?我ながら喜色満面!」

「お、おれは御体に乗りたいんじゃないですからね。作りたいんです!」

皆秀がちょっと不貞腐れたような顔をする。

「皆秀は戦いには向かんからの。それでよい」

ミカナの物言いはいつもまっすぐ飛んでくる。


「・・・それにしても、嶺巴さん、遅いですね」

皆秀と宿儀は、作りかけの御体の作業を進めていた。

そろそろ昼時になる。太陽が高い。

季節はそろそろ雪が降ってもおかしくないのだが、たたら場の中は炉の熱で暑いくらいだ。

「宿儀さん、御霊石を霊紐に繋いでください。それで骨組みは終わりです」

「承知。迅速に終わらせる」

御霊石と、御体の各関節をつなぐ無数の紐、霊紐をつなげる。これによって御体は繰り手の意思通り動くようになる。

「・・・できた」

「宿儀さん、御霊石を握って、少し指を動かしてみてください」

宿儀が繰り座と呼ばれる、御体の胴の部分にある座椅子に座り、御霊石を握る。

ふっと意識が軽くなり、急に重力が襲ってきたように体が重くなる。

「お、おおおお!?奇想天外!?」

「意識が入りましたね。ゆっくり指を動かしてください」

宿儀が自分の指を動かすようにゆっくりと力を入れる。

作りかけの骨組みむき出しの御体の指がゆっくりと動く。

「おお、成功ですよ!!」

「狂喜乱舞!!」

「あ、まだそれ以上動かないでください!バラバラになっちゃいます!」

「おお、失礼千万」

「ともあれ、この御体は成功です!さすが宿儀さん!」

「恐縮至極・・・」

「名前は決めているんですか?」

「名前?」

「そうです。御体で戦うとき、普通は名乗りをあげますから」

「・・・・考えておく」

「そうですね。いい名を思い・・・」

英醐(えいご)

「はい?」

「英醐と名付ける」

「・・・やはり頭の回転の速い人ですね・・・。どういう意味ですか?」

「・・・わからんが、今浮かんだ」

「なるほど。まあ、いい名ですね。ミカナさん、白結丸さん、この御体は英醐と言う名になりました!」

と皆秀が声をかけると、ミカナが指を口の前で立てて、「しーっ!」と言った。

白結丸が寝ているらしい。






嶺巴は蒼刃で森の中を進んでいた。

残党はあっという間に片付けたものの、帰り道がわからない。

「”隠れ里”とはよく言ったもんだねぇ・・・」

自分で言って、何も面白くないな、と思い直した時だった。

何かが蒼刃の顔の前をよぎる。

「?」

最初は鳥かと思った。

だが、それはゆっくりと地面に降り立ち、木の枝に巻き付けていた鎖をほどいて蒼刃に向き直った。

「・・・荊火?」

嶺巴は思わず声を漏らした。

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