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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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3/3

風結ノ章 三

「あーっはっはっ!!天狗と小僧と娘とは!珍妙な組み合わせの旅人だのう!!」

・・・早速捕まった。どこをどう見ても山賊だ。獣の皮をかぶった五人組で、刀と槍、弓で武装している。中でも、ひときわ大男がいて、巨大な木づちを肩に担いでいる。

五人は道いっぱいに並んで立ち、行く手を遮っている。

「・・・・まったく、ついてないな」

「役人でないだけまだましだ」

顔をしかめる白結丸に、天狗が言う。

「どうするの?にげるの?」

「いや、大したことのない奴らだ。御体がなぜいないかわからないが、さっさと片付けて先を急ごう」

天狗がわざと聞こえるように大声で言う。

「何をごちゃごちゃ言ってやがるか!」

天狗と白結丸とお蓮が相談していると、ないがしろにされた山賊が怒りの声を上げる。

「命が惜しくないないなら、身ぐるみはいで置いて行け!!」

「命が惜しかったら身ぐるみ全部おいていけ!の間違いだろ?」

白結丸は怖がりのくせに冷静だ。いつもお蓮はそういうところに感心する。

「・・・そうか。確かに。・・・それはともかく、カシラへの手土産だ!子供は売り物にするから傷つけるな!」

「へい!!」

山賊たちはその声で一斉に飛び掛かって来る。

弓を持った賊が矢を放つ。その狙いは天狗だが、天狗は手に持った錫杖を抜き販つと白銀の刃が現れる。

「仕込み杖か!?」

天狗は飛んでくる矢を切り落とすと、一瞬のうちに刀と槍を持った二人を倒す。そのまま走りこむと弓を持った男の弓を真っ二つに斬り、肘鉄一献、顎に肘打ちを食らわせて倒す。

「一瞬のうちに三人を!?」

山賊の男が驚きの声を上げる。

その間、白結丸は一番大きな男と対峙する。男は巨大な木づちを振り上げて、白結丸目掛けて振り下ろす。

・・・・力があるのはわかるが、遅いな・・・。

天狗以外の相手をするのは初めてだが、大男の動きはあまりに遅くて緩慢に感じた。

ひらりと男の木槌を躱し、ぴょんと跳ね上がると降ろした男の木槌の上にひらりと飛び乗る。

「何だと!?」

大男がその素早さに驚愕する。

「くそう!なめるな!!」

大男が思いっきり木槌を振り上げると、白結丸はひらりと飛びのいた。勢い余った木槌は大男の顔面にぶち当たる。大男は「ぐへっ!?」と情けない声と鼻血を吹き出しながらばったりと倒れた。

「ようやった!さあ、あとはお主だけじゃ」

天狗が切っ先を男に向ける。

「身ぐるみ脱いでおいて行くなら許してやろう!!」

お蓮が前にずいっと出て言い放つ。

「・・・お蓮・・・」

白結丸はあきれ顔でお蓮を見る。

「ふはははは!」

山賊が急に笑い声をあげる。

「お蓮のせいで笑われたぞ」

「わたしのせい!?」

「違う!!俺たちがこれだけの山賊だと思ったら大間違いだ!!うちの頭にかかったら、お前たちなぞひとたまりもないのだからな!」

山賊はそう言って、首にぶら下げた笛を吹いた。

「まずい、御体を呼ばれた!」

天狗が叫ぶ。

「二人とも、逃げる準備を怠るな!」

白結丸とお蓮は天狗に頷く。

・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「なあ、山賊。ほんとに何かあるのか?」

「・・・・うちの頭は方向音痴なんだ。さっきもこっちだっていうのに反対に行っちまって。探しているうちにおれたちより弱そうに見えたお前たちを見かけたもんだから・・・。山賊らしいことしとかなきゃって思い・・・。ついつい、出来心で。でへへ」

山賊は恥ずかしそうに頭を掻く。

「はぐれた時のために笛を用意していたんだが、うちのお頭は笛の音の鳴る方向へ来てくれたことはほとんどない!」

「威張って言うことか。もういいな、我らは先を急ぐ。通してもらうぞ」

「・・・・はい、なんか、すまぬ」

山賊が頭を下げて謝る。

三人が先に進みかけた時だった。

・・・・・ずぅん・・・・・ずぅん・・・・・。

あの地響きが地面から伝わって来る。地面が波打つような重い感覚。しかも、歩みが早い。

「・・・・これは・・・・御体!?」

「・・・・ははは!どうだ!!頭が来てくれたぞ!!お前たちなんかひと捻りだ!!」

山賊は急に強気だ。

・・・・・ずぅん・・・・・・ずぅん・・・・ずぅん・・・ずぅん・・・・。

徐々に近づいてくる。足音の間隔が短くなる。白結丸は隣で、あの天狗が息をのむのを感じた。そんなに恐ろしいものなのか、御体というのは・・・。白結丸の全身に緊張が走る。お蓮も不安げに白結丸の背中にしがみつく。

・・・ずぅん・・・・・ずぅん・・・・・・ずぅん・・・・・・・ずぅん・・・・・・・・・。

徐々に遠ざかっていく。

「あー、また方向間違えたな、お頭ー!!こっちだってーーー!!」

だが、足音はそのまま消えていった。

「・・・もう、いいかな?」

「はい、重ね重ねすまん」

盗賊はもう、おでこを地面に擦り付けて謝っていた。

「では行こう」

三人は先を急ぐことにした。




一行が無首の峰に着いた頃は夕方になっていた。

「なんとか、日のあるうちにたどり着けたな」

「はあ、疲れた・・・」

やはり山歩きはお蓮の足には辛いものがある。足にしっかり肉刺(まめ)ができて、もう立っているのも痛かった。無首の峰の中腹には山村があり、いくつか家も建っていた。三人はそのうちの一件が空き家になっていたので、そこで宿をとることにした。

「天狗様、何でこの辺りは”無首の峰”なんて恐ろしい名前なの?」

お蓮が夕餉の大根の干物を湯で煮ながら聞く。

「うむ・・・・。詳しくは知らぬが、数年前からそう呼ばれておるらしい。首のない鬼が夜な夜なうろうろしておったとか・・・」

「・・・もう、冗談でしょ!」

「いや、おそらく、御体ではないかと思っておるのだが」

「また、御体か・・・」

白結丸がボソッとつぶやく。

「なあ、天狗」

白結丸はまっすぐに天狗を見て目を輝かせた。

「今日、山賊の奴らの動きは話にならんほど遅かった。見ていてもハエが止まるかと思うくらい遅い刀の振りだった。もしかして、おれは強いのか!?」

がんっ!!

天狗が杖で白結丸を殴った音だ。

「いてぇっ!!何する!?」

「あんなしょうもないゴロツキ相手に強いや弱いなどと浮かれるな!これからお主が相手にしていかねばならんのは緋家の精鋭であるぞ!あんな滅茶苦茶に得物を振り回すだけの小物とはわけが違う!」

「・・・ちぇ、ちょっと聞いてみただけだのに・・・」

「ふん!」

天狗は面の間から鼻息を漏らした。

「はぁ・・・明日はいよいよ熊探しでしょ。早く食べて早めに休みましょ」

お蓮はいつも通りの二人に、あきれ顔でため息交じりに言った。




「ふはははは!また会ったな!!」

・・・・はぁ・・・。

白結丸は思わずため息をつく。

昨日の山賊がまた目の前に並んでいる。それぞれに布で昨日の怪我を押さえているが、かなりの痛手を負っているだろうに。木槌の大男なぞは頭を全部ぐるぐる巻きにして目だけを出している。

「お前たちじゃ剣の修行にならん!邪魔するな!」

「黙れ小僧!!今日は昨日のようにはいかんぞ!」

山賊の男が言うと、その他全員がうなづく。

やはり御体を連れてきたのか!?白結丸と天狗は顔を見合わせる。

山賊たち自体は敵ではない。

だが、後ろに御体がいるとなれば話は別だ。生身の人間では敵わないことを天狗はよくわかっている。

「白結丸、御体が出てきたらお蓮を連れて逃げろ」

「天狗はどうするんだ?」

「二手に分かれれば御体はひとつ、追ってこれない。とりあえず分かれて、昨夜の小屋で落ち合うこと」

「承知」

二人が小声で話すと、お蓮が前に出てビシッと山賊たちに指をさす。

「金目の物を置いていくなら許してやろう!!」

「おい。どっちが山賊だ」

ちょっと面食らった山賊たちだが、気を取り直して声を上げる。

「今日はお頭が一緒に来ている!お頭!こいつらです!頼みます!」

・・・・・・。

・・・・・。

・・・。

「・・・・うをーい、またか!?」

「さっきまでそこにいただろう!?何でいなくなっちゃう!?おかしらー、お・か・し・らー!!!」

さすがに山賊も取り乱し始める。

「うるさいなぁ。さっきからここにいるだろう」

不意に上から女の気怠い声がした。

皆が一斉に上を見ると、木の枝に横になって柿を食べている女の姿。長い黒髪を後ろで結び、切れ長の目はねめつけるように見下ろしている。年の頃は白結丸より幾つか上、まだ若く、着物が乱れているのか太ももと豊満な胸元を大きくはだけさせている。

「お、お頭!!」

「・・・お頭って、女?」

すると女はするっと地面に降り立ち、白結丸の方を睨む。

「女が山賊の頭だとおかしいかい?」

そう言いながら白結丸の眼前に胸元を近づける。白結丸の顔が一気に赤くなる。

「ちょっと!!あなた、女のくせに肌を出しすぎでしょ!!」

お蓮が白結丸の前にずいっと出る。

「あら、坊やかと思ったらもう女連れとはねぇ」

「な、な、な、何を!?」

お蓮の顔が一気に真っ赤になる。

「お頭、昨日話した奴等とはこいつらですぜ!腕が立ちます!」

「ほう・・・。昨日はうちの郎党が世話になったみたいだねぇ。いやなに、話を聞いて、お前たちの腕を見てみたくなったんだよ」

そう言って女は腰の太刀をすらりと抜く。

来る!

白結丸は刀の柄に手をかける。・・・天狗は・・・顔がわからないが、女に見とれているようだ。

「こら、天狗様!あんな女に見とれてないでしっかりしなさい!!」

「お、おう!当たり前だ!このおれがあのような、肌の・・・その・・・胸が・・・」

「しっかりしなさーい!!」

お蓮が天狗の足を踏みつける。

「ぐはっ!?」

ようやく天狗も杖をかまえる。

「ようやくやる気になったみたいだね!よし、お前たち、やってしまいな!!」

抜いた刀を収めながら、女が手下たちに言う。

・・・・・・・?

「はい??」

「聞こえなかったのかい?お前たち、やってしまいな!と言ったんだよ」

「いや、昨日、おれたち手も足も出なかったから・・・」

「なんだよ、あたしに戦えってのかい?あんたたち、あたしに命令できるほど偉くなったのかい?ん?」

「あー・・・いや・・・もちろん、おれたちがやりますとも!!」

山賊たちがぼろぼろの姿で得物を構える。

「わーん、こうなりゃ自棄だ!!行くぞ、野郎ども!!」

「・・・・おー・・・・」

明らかに覇気がない。

天狗と白結丸は刃を抜くことなく一瞬で山賊をノシてしまった。

「なかなかやるじゃないか!気に入ったよ!!」

山賊の頭が明らかに嬉しそうな声を上げる。

「あたしの名前は藍羽嶺巴(あいばのれいは)。お前たち、名前は?」

・・・・三人は顔を見合わせる。

「・・・・逃げよう」

天狗はお蓮を抱え、踵を返すと一目散に逃げだした。白結丸もそれに続く。

「あ、あー!!待ちなーーー!!」

一瞬の間の後、後ろの方から嶺巴の声が響いてきた。

「あー、奴らが逃げたのそっちじゃないっす!!目の前にいるのに、なんでそっち行くんですか!?お頭ーーーっ!!」

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