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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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27 風結ノ章 二十七

「主ら、こんなところで何をしとるんじゃ!」

庭にいる嶺巴と皆秀を見つけたミカナが走り寄って来る。

「ミカナさん!」

「ミカナぁー!!」

ミカナに抱き着いて泣き出す嶺巴。

「・・・こんな嶺巴はもう二度とお目にかかれぬような気がするな。よっぽど怖い目におうたんじゃろう。かわいそうに」

「・・・・・」

「ぐすん、皆秀、お前、嫁をもらうときはよっぽど相手を選ぶんだよ・・・」

「・・・はい」

申し訳なさそうに頭を下げる皆秀。

「って、こんなことをしている場合じゃないぞ。今のうちにここを出ましょう!」

「皆秀、逃げ出すことになるけど良いのか?」

「構いません!もともと、前もこっそり逃げ出したんですから!」




「うーむ、体が楽になったので天女を探しに屋敷を出てみたが・・・」

貞基は寝床を抜け出して歩き回っているうちに、ここがどこだかわからなくなっていた。

いつの間にか入口の門のところに来てしまっている。

「あ、あそこに人がいるな。尋ねてみよう」

貞基は人影に近づく。

「おい、お主、おれの寝床を知らんか?」

「は?」

白結丸は思わぬ問いに、質問を理解するまで時間がかかった。

「お、お主は!・・・・えーっと・・・・見覚えがあるのだが、誰であったか?」

そう言われてみれば・・・・って、この男、さっき屋敷に入って行った緋家の大将じゃないか!

「あ・・・・」

とっさに言葉が出ない白結丸。

「えーっと、どこだったか・・・」

思い出せずに言葉が出ない貞基。

「おう!思い出した!確か、山の頂上で霧の中で見たまぼろしだ!足があるのでわかったぞ!」

・・・いまいち理解ができないが、あの時の三人組か。

「なぜ、こんなところへ!?」

「ああ、天女を探しておったら、迷ってしまっての。寝床を抜け出したのが重国にバレると怒られてしまうのだ。そこで、こっそり寝床へ戻りたいのだが、お主、知らんか?」

そんなこと、知る由もない。そもそも白結丸はまともに屋敷の中へ入れてもらえていないのだから。

その時、貞基が白結丸の後ろにある御体車に目を止める。

「ん?」

まずい。ここで御体を見られたら、言い訳はできない。戦うしかないだろう。

白結丸は刀の柄に手をかける。

「この荷物は・・・・」

「何か?」

「・・・・そうか、旅の商人か。この辺りは妖怪とか霞の末子が出るから気をつけよ」

「・・・はぁ」

妖怪と一緒にするなっ!!と言いたい!

「そうだ、お主、霞の末子を知らないか?

「・・・!?し、知らないが、どんな奴だ?」

「聞いたところによると、そうだな、お主と同じくらいの歳で、同じくらいの背格好、同じくらいの人相で、この荷物と同じくらいの御体を二つ、御体車に乗せているらしい」

「へぇ・・・そりゃ、偶然とはあるもんだなぁ・・・・」

白結丸は少し上を向いて鼻の頭を掻く。

「だが、お主は一人だな。霞の末子は女を二人、仲間で連れているらしいのだ」

「あー、そうかぁ・・・。おれはひとりたびだからなぁー」

棒読みである。

「おーい!白結丸、待たせたぁ!」

嶺巴とミカナ、皆秀が手を振りながら近づいてくる。

「・・・女が二人・・・」

あー。こんな時に・・・。

「お主、まさか!」

白結丸は構えて刀の柄に手をかける。もうこれ以上しらを斬れない!

「天女の仲間だったのか!」

「・・・は?」

この短い間に、こいつに「は?」と思うのは何回目だろう?

「おお、天女!お主のおかげでおれはすっかり元気になったのだ!」

ミカナに向かって力こぶを見せる。

「・・・そうか、よかったな・・・」

と言いながら、白結丸の袖をつまんで、ちょんちょんと引っ張る。

「・・・こいつは何もんじゃ?」

「緋家の軍の大将だ。気づかれる前に逃げよう」

小声でささやき合い、お互いに頷く。

「・・・あんた、いったい誰だい?」

嶺巴が聞く。

「おれは緋四郎貞基!霞の末子の追討軍の大将だ!」

あー、やっぱり。

「えー!?」

嶺巴と皆秀は毛が逆立つほど驚く。

「えーと、ちょい集合」

白結丸は三人を集めてこそこそ会議を始める。

「えっと、こいつ、馬鹿だからまだバレていない。今のうちに逃げよう」

「承知です」

「承知した」

「承知じゃ」

くるっと振り向いて、白結丸は貞基へ向き直る。

「えーっと、貞基殿、我々急ぐので、これで失礼する」

「おお、そうか!せめてなぐらい名乗っておけ!この先もまた会うかもしれん!」

「ええと、は・・・はく・・・」

「衛戸白?」

「あああ、唐から来た白とイイマス。ヨロシクデス!」

「そうか、異人であったとは、失礼した!」

・・・・信じただと!?

全員が口をあんぐり開けて驚く。言った本人の白結丸でさえ信じられない。

脳裏に稲妻が走るような衝撃が・・・。

「あまり引き留めては商売の邪魔だな。天女様、一言礼が言いたかったのだ!また悪霊に憑かれたときは頼むぞ!」

「ええと・・・ご丁寧にシェイシェイ」

「では、お元気で!」

そう言って白結丸たちは馬に乗り、御体車で門を抜けようと動き出す。

後ろでは貞基がこちらに手を振っている。

「若ー!!若―!!若―!!馬鹿ー!!」

白髪交じりの武士が屋敷から出てきて、貞基のそばへ駆けよる。

「若、床を抜け出して何をされているのですか!」

顔は無表情だが、怒っているらしい。

「いや、すまぬ重国。天女に憑き物を落としてもらい、礼を言えなかったので見送りに来ておったのだ」

貞基の指さす先に、白結丸たち。

重国と呼ばれた白髪交じりの男が近づいてくる。

「若が世話になったようだな。すまぬ」

「あ、ああ、こちらこそ、シェイシェイ」

「だが、我らも人を追うお役目を申しつかっておる。積み荷を検めさせてもらう!」

言うが早いか、御体車のかけてある大きな布を取り払う。

「ああ!」

そこに現れたのは、二丈ほどの背丈の人型御体、風結。

「くそっ!結局バレた!」

白結丸はとっさに刀の柄に手をかける。

「若!こいつらが霞の末子ですぞ!」

言いながら、重国も腰の刀に手をかける。

「何っ!?霞の末子は唐の白シェイシェイだったのか!?」

「何の話か分からんが、とにかく用心しなさい!」

もう逃げるのは難しい。白結丸は馬を降りて重国と対峙する。

「皆秀!門を開けて、いつでも出られるように!」

「承知!」

「逃がすわけがなかろう!」

居合一閃、重国の刀が抜きざまに白結丸の鼻先を目掛けて薙ぐ。白結丸は後ろに跳んで間一髪躱す。

速い!

お互いがそう感じた。

白結丸も刀を抜くと、前に跳んで間合いを詰める。

「天狗流滝登り!」

一気に踏み込んで、刀を下から上に突き上げる。

重国はひらりと躱し、上へ跳ぶ。

「伴藤新陰流釣瓶落とし!」

落ちる速さを利用して上から振り下ろす重国の刀を、白結丸が刀で受ける。

ぎいん!

金属の強く当たる音が響く。

「すごい・・・二人とも技を繰り出している!」

「そんな技、今まで聞いたことないのじゃが・・・」

感心する皆秀と、疑うミカナ。

「おれにも、おれにも戦わせろーーーー!!!!!」

刀を抜いて走って来る貞基。

「待ちな!あんたの相手はあたしがしてあげる!」

嶺巴が立ちはだかる。

「おなごではおれの相手にはならん!そこをどけば怪我させずにおいてやるぞ!」

「それはどうか、試してからだね!」

刀を抜く嶺巴。

嶺巴は一気に間合いを詰め、刀を横に薙ぐ。

その瞬間に視界から貞基が消える。

「何!?下!?」

真下から突き上げるように貞基の刀が嶺巴の鼻先を掠る。

後ろへ飛んで一回転し、地面に降りる。

危ない!もう少し踏み込みが深かったらやられていた。

「逃がさん!」

一気に貞基が間合いを詰めてくる。

ひゅん!

嶺巴の耳元を貞基の一閃が掠める。嶺巴は横へ飛んで躱すと、一気に貞基目掛けて振り下ろす。

「もらった!」

「ふん!」

貞基は身をひねって横へ跳ぶ。

嶺巴の一撃は貞基の袂の先を切り裂いて地面を打つ。

返す刀で貞基が斬りかかる。

嶺巴はその一撃を身を低くして体をひねって避けると、その勢いで貞基目掛けて刀を振るう。

「もらった!」

「甘い!」

貞基は嶺巴の懐へ入り込み、勢いを利用して嶺巴を投げ飛ばす。

「うぉっ!?」

投げられた嶺巴は身を低くして着地、投げた貞基は地面に背中から落ちる。

「ぐっ!?」

斬りかかる嶺巴に、貞基は地面を転がって距離を取る。

ようやく立ち上がった貞基へ、嶺巴が飛び掛かる。

ぎいん!

刀がぶつかる音がして、貞基の刀が

地面に落ちる。

「くそっ!」

「勝負あったね!」

嶺巴が貞基へ切っ先を向けたその時、ひゅうと空気を切り裂く音がした。

反射的によけ、貞基と距離を置く嶺巴。

地面に、飛んできた矢が刺さる。

「大丈夫ですか、若!」

緋家の兵たちが集まってきた。

「誰だ、弓を射たのは!余計なことをするな!!」

「しかし・・・」

よく見ると、貞基の手が脇差の小刀を握っている。

・・・危ない、うかつに近寄れば刺されていたのはこちらだった。

嶺巴は、むしろ飛んできた矢に救われたのだ。

「なんとも卑怯な手を使うねぇ!」

「なんとでも言え!戦いは()(りき)の勝負だ!」

貞基は刀を拾い構える。

・・・とはいえ、こうなると多勢に無勢。分が悪いねぇ。


白結丸は苦戦していた。

どれだけ斬りかかってもすべてを受け流される。少しでも気を抜くと恐ろしく速い突きが連続して襲ってくる。動きを止めるとやられる。

・・・この重国と言いう男、相当な手練れだ。一瞬が命取りになる。

攻撃を続けなければ反撃される。だが、長引けば刀を振り続けているこちらが先に疲労が出る。相手は受け流しているだけだから疲労は少ない。

どこかで手を打たなければ勝てない!

この間も白結丸は刀を振り続ける。重国はそれをやすやすと躱し、受け流す。隙を探し、反撃の機会を虎視眈々とうかがっている。

・・・腕が、痺れてきた!

たまらず白結丸は後ろに跳んで間合いを取る。攻撃を続けた疲労で腕が上がらない!

「これを待っていた!」

重国はその瞬間、大きく前へ跳ぶ。鋭い突きの構えで白結丸目掛けて飛んでくる。

だが、目の前の白結丸を捕らえたと思った瞬間、その姿はさらに遠くへ下がっていく。

「なにっ!?」

白結丸は風の力でさらに後ろへ一瞬で飛ぶ。そこで地面に着くと、離れた場所から重国めがけて刀を投げつける。

「ええいっ!」

「なんと!?」

風の力を纏った刀はまっすぐ飛び、かろうじて避けた重国の頬を掠める。重国の頬から血が流れる。

「・・・これは・・・!?」

驚きを隠せない重国。そこに隙が生まれる。

そして白結丸は風を使って前へ跳び、一瞬で重国の懐に入り込むと、勢いそのままで鳩尾に掌底をくらわす。

「これで、どうだっ!?」

「ぐはっ!?」

重国は吹き飛んで地面に背中から落ちる。

「・・・手強かった」

正直言って、風の力がなかったら勝てない相手だった。


嶺巴の方を見ると、緋家の兵たちに囲まれている。

「ミカナ!風結を出す!」

「承知じゃ!」

ミカナは封魂炉へ緋阿kりとともに吸い込まれる。

白結丸は風結へ走り、滑り込む。

「皆秀、御体車をつないで、門を開けて先へ進め!すぐに追いつく!」

「承知!」

皆秀が馬を進めようとした時だった。

「皆保!またいなくなるつもりか!!」

あの声は・・・惟家か!

見ると、そこには赤褐色の御体。首はなく、太い腕と足で、全身を鉄で覆われていて、重そうに足を引きずるように歩いてくる。

「父上!」

皆秀が叫ぶ。

「騒ぎを聞いたので来てみたが、皆保、お前が原因なのか!?お前、いつから緋家の敵になった!?」

惟家の御体がゆっくり、ずんずんとこちらへ来る。

「皆保、いくらお前が我が息子と言えども、緋家の敵になったとあれば朝敵も同じ!そうなれば我が子の過ちはわが手で討たねばならん!その苦しみ、お前にわかるか、皆保!!」

「・・・おれは・・・おれはっ!」

皆秀がこらえていた顔を上げる。

「おれは、都で、緋家の圧政に苦しむ人たちをたくさん見てきた!明日生きる糧を奪われ、泥水を啜り、草を毟って食べて生きている人たちをたくさん見てきたんだ!おれは、御体を作りたい!そして、この世を平安の世にしたい!かつて、霞宗明や、兄弟子・楠慶秀が目指したように!!」

「皆秀・・・」

白結丸は胸を打たれた。

あの、気弱で逃げてばかりいた皆秀が・・・思いを叫んだ!

「なんと!やはり、都になど行かせるべきではなかった!どうしても、お前を成敗せねばならん!」

御体が走って来る。狙いは皆秀だ。

白結丸は風結を立ち上がらせ、惟家の御体を押さえつける。

「ぐっ、すごい力だ!」

『白結丸、力比べは勝てぬ!一度離れて間を置け!』

「うむ!」

風結は惟家の御体を蹴り飛ばす。倒れた惟家の御体はずうん!と音を立ててあおむけに倒れる。

「父上・・・・おれは、親不孝者です!ですが、この世に孝行をします!わかってください!」

「わかるわけなどあるか!行ってしまえ!もうここへ帰ることは許さん!」

倒れたままの惟家は御体の中で泣いているようだった。

「皆秀、行け!今は、それしかない!」

「白結丸さん・・・」

皆秀は馬を蹴る。御体車を引き連れて、皆秀は屋敷から出て行った。

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