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ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


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14 風結ノ章 十四

「見つけたぞ、土竜ども!」

崖の窪地に御体が二体、折り重なるように隠されていた。

一体は青く塗られた試作型。こちらは緋家の御造所から盗まれたという代物に違いないだろう。

もう一体、碧色の鎧姿の御体。これには見覚えがない。・・・・いや、以前に見たような気もする。

何か、胸の奥にじりじりするよな、嫌な感触が走る。

「と、とにかく引きずり出す!」

綾芽が碧色の御体に手をかけようとしたその瞬間――。

がしっ!

碧の御体が突如動き出し、綾芽の腕を掴もうとした。

「何!?」

反射的に綾芽は身を捻り、飛び退く。

「動くだと!?人が乗っているのか!?」

ゆっくりと碧の御体が穴から這い出てくる。泥に塗れて、錆つき、朽ちかけている。

「かなり古い・・・。ほとんど腐っているじゃないか!」

風結の中で、白結丸も異様なほどの重さを感じていた。

「くそっ、前よりも体が重い・・・。動いたのが不思議なくらい、腕も脚も固い!」

綾芽が太刀を抜き、風結に向ける。

「おい、そこのお前!わたしは緋家元頭領・浄基の娘、紅羽!お前は霞の末子、白結丸か!」

風結は立っているのもやっとの状況だ。

・・・ミカナ、起きているか?

何度も呼びかけてみるが、返事はない。

「いかにも!おれは霞四郎、白結丸!今、お前と刃を交える気はない!そこを通してくれ!」

「笑わせるな!わたしはお前を捕らえるためにここにきているのだぞ!」

・・・まあ、そうだよな。

言ってはみたものの、素直に聞いてくれるはずがない。

「その首、わが弟時千代がもらい受ける!」

「はい?」

綾芽が上から斬りかかって来る。

「くそっ!」

倒れそうになる風結を、無理やりひねって躱す。

「重い・・・!相手の動きを読めなきゃすぐに斬られる!」

風結も腰の刀を抜く。

「やる気になったか!行くぞ!」

綾芽が踏み込んで斬撃を繰り出す。

風結は半拍遅れでどうにか受け止めるのがやっとで、切り返すほどの余裕はない。

「どうした、羅刹の腕を斬ったのはお前ではないのか!?」

「こいつ、早い!!」

次々と繰り出される綾芽の太刀。風結は押され、守るだけでも精一杯になってくる。

「こんなのに負けるとは、孝基叔父も大したことないな!!」

ぎいん!

高い金属音が響く。

風結の太刀が跳ね上げられる。がらん!と大きな音を立てて、太刀が地面に転がる。

「霞の子、その首を、もらう!」

綾芽が太刀を振りかぶる。

その瞬間。

「止まれ!!」

女の怒声が背後から響く。

「女!?」

振り向くと、青の御体が時千代の黒と金の御体・・・金冠を後ろから押さえこみ、時千代が乗る胴体部へ刃を突き立てていた。

「時千代っ!!」

「それ以上動くな!!そっちが何もしなきゃ、こっちも手は出さないよ!」

「紅羽姉様・・・ごめんなさい・・・」

泣き声の時千代。きっと、泣き顔もかわいい。

「そんなこと考えている場合か!!時千代!痛いことされていないか!?」

「大丈夫です!紅羽姉様!この人たちは、たぶん時千代(わたし)を飼ってくれるんだと思います!」

「違うわっ!人質だ!」

嶺巴が素でつっこむ。

「白結丸、こっちへ」

「ありがとう、嶺巴!助かった!」

風結は太刀を拾うと、蒼刃のそばへ下がる。

「いいかい、そこからちょっとでも動いたらこいつを刺す!」

「くそっ!卑怯者めっ!!」

そこへ、森の中から荊火が戻って来る。

「あ、あいつ、無事だったか!いいところに戻ってきた!」

「まてっ!!蜘蛛野郎!!」

荊火を追っていた伊佐の杜若も兵たちを引き連れて戻ってきた。

「時!!姉様!これはっ!?」

伊佐も様子を見て声を上げる。

「動くな、伊佐!時千代が人質に取られている!」

「荊火!しばらくここは頼む!」

風結と蒼刃は、金冠を連れて森の奥へ消えていく。

「時千代ーっ!!!」

紅羽が追おうとするが、小御体が腕の鎖を伸ばし、綾芽と杜若の胴体を縛る。

「通さん!」

「こいつっ!!」

振りほどこうともがくほど、鎖はきつく締め付けられた。





「ここまでくれば大丈夫だろう」

あれから半日ほど歩き続けた。

御体の足跡は残りやすいので、あえて川の中を進んだり、木を倒して跡を消しながら逃げてきた。

「でさ、もう解放したんだから帰っていいってのに」

「でも、・・・森の中ひとりじゃ心細くて」

解放したのにもかかわらずついてくる時千代の黒の御体。

嶺巴は呆れて、ため息をついた。

「はぁ、いいかい、あんたは緋家の跡取りの一人だろ!?あたしたちは敵なんだよ!」

「そうなんですか?でも、お姉さん、いい人そうだし」

「・・・・そりゃ、まぁ・・・・。なんだか調子狂うねぇ」

「まあ、嶺巴、とりあえず連れて行けばいざというときの切り札にはなるだろう?」

「そうですよ。戦いになりそうだったら、さっきみたいに私を盾にすればいいんです。」

「・・・・・」

時千代(わたし)は戦いがきらいだから」

金冠が胸を張って時千代が言う。

「・・・・なんだろう、こう・・・。他人の気がしないというか・・・」

「何だよ、白結丸まで・・・」







その後、すぐに日が落ちた。

森の闇の中、綾芽を縛っていた鎖がほどけると、すぐに小御体の気配はふっと消えた。

「姉様!時を追います!」

「伊佐、この暗闇の森は危険です。敵に闇討ちされかねません。それに、時千代が人質です。むやみに動くべきではありません。夜明けを待ちます」

「しかし・・・・!」

言いたげな伊佐であったが、紅羽に逆らう伊佐ではない。

「承知しました・・・」

伊佐は引き下がる。

・・・とは言ったものの、かわいい時千代が、悪者に連れ去られた・・・。

紅羽の内心は穏やかではない。

心配だ!・・・ああ、心配だ!!

しかも、あの声は女だった!

時千代のかわいさに抗える女がいるだろうか?

この闇の中、あんなことやこんなことをされていないだろうか!?

心配だ!!でも、そんなあられもないことになっている時千代も・・・・・かわいいんだろうなぁ。

ああ、いじめられてる時千代、見たい気もする・・・でも、助けないと・・・・。ああ、困った!?






とっぷりと日が暮れた。

三人は御体を森の中に隠し、焚火をして暖を取った。

「どうして嶺巴さんと白結丸さんは悪人なんですか?」

そんなまっすぐな瞳で問われると、嶺巴も返答に困る。

「ええと、おれたちは悪人じゃないんだ」

「でも、御体を盗んで、山を降りないって約束を破ったんでしょ?」

「・・・・たしかに」

「認めてどうすんだ、白結丸」

枝に刺して焼いた魚を二人に渡しながら嶺巴が言う。

「あたしたちはね、あんたの爺さんにみんながいじめられてるのを助けたいんだ」

「・・・姉上たちにも同じことを言われます。時千代(わたし)が立派な緋家の跡取りとなって、父のように民のための(まつりごと)をせねばならないと。でも、時千代(わたし)は人と争うのが苦手で・・・。跡取りなんて、孝基叔父か貞基(さだもと)叔父やってくれればいいと思うんです」

「・・・やっぱり、あんた、明日姉様たちのところへ帰りなよ。あんたはこういう、血なまぐさいことに向いてないんだ」

嶺巴が呆れるというより、諭すように言った。

「人質の時千代(わたし)を返してしまって良いのですか?」

「殺し合いをしたいんじゃないからね。あんたの姉様たちが見逃してくれりゃそれでいい」

「わかりました。姉様たちを説得してみます」

白結丸には複雑な思いが浮かぶ。

このほとんど歳は変わらないが幼く見える少年が、白結丸の母違いの姉である千子の子ということだ。同じ血を引きながら、霞家と緋家、敵同士であるが、今はこうして同じ火を囲んで話している。不思議な巡り会わせ、と言ってしまえばそれまでだが、何か運命じみたものを感じた。

「ところで白結丸さん、あの御体から出ている緑色の霞みたいなものって、何ですか?」

その言葉に白結丸は一瞬言葉を失う。

「・・・見えるのか?あれが?」

「はい。ずっと見えています」

嶺巴は不思議そうに首をかしげる。

すると時千代は急にビクッとして、白結丸の腕にしがみつく。

「今、誰かの声、しましたよね!?」

「あ、ああ。・・・ミカナが起きたみたいだ」

白結丸は風結に近づいていく。時千代も白結丸の後ろに隠れながら続く。

「え、え、何ですか?鬼?妖怪変化?」

「・・・そう聞かれると、おれもミカナが何なのかわからないが・・・。ミカナ、起きて・・・」

二人が近づくと、風結の顔のあたりから緑色の光が急にあふれ出した。

「おおおっ!?」

「ひっ!?」

「何だい、一体!?」

あたりが光に包まれ、昼よりも明るく照らされる。そのまばゆい光はゆっくりと収束し、ひとつになる。そしてその中から、小さな影がゆっくりと現れた。

その影は朧げで散らばっていた、ゆっくりと一か所に集まって人の形になり、やがて髪の長い少女の姿になった。それと同時に光が消え、風結からゆっくりと少女が空中を降りてくる。

「な・・・・なんだ!?」

白結丸は降りてくる少女を抱きとめる。

「うおっ!?」

ゆっくりと浮いていた少女に突如、重さが戻る。なんとか抱き留めた白結丸の腕の中で少女が目を開ける。

「・・・・お主が霞の子・・・白結丸か?」

「その声は・・・ミカナ?」

「いかにも。おれはミカナじゃ。」

夜の闇の中でも艶やかに光る黒髪、幼いが凛とした顔立ちと、通った鼻筋にふっくらとした唇。白結丸は言葉を失い見入ってしまった。

「重くないかの?」

「あ・・・」

ミカナの体をそっと地面に降ろす。

そこでミカナは全裸であることに気づいた。

「うおっ!?」

白結丸は慌てて目をそらし、嶺巴はとっさに時千代の両眼を隠す。

「なんじゃ、武士の子ともあろうものが、女の裸ぐらいで」

「い、いや、その・・・!」

顔を真っ赤にする白結丸。

「やーーーーーっと出られたぁあああああーーーーー!!!」

ミカナは両腕を天に突き出して叫ぶ。

「さすがに十五年あの中は窮屈じゃったぞ!!」





嶺巴はお蓮の着物を脱ぎ、いつもの姿に戻る。

「あー、これこれ!やっぱり窮屈だったよ!あたしはこれが一番だわ!」

そして脱いだ着物をミカナに着せる。

嶺巴にはぴちぴちだったお蓮の着物は、ミカナが着るとぶかぶかだった。

「まあ、裸よりマシじゃろ。何か着ていないと白結丸が目のやり場に困るからの」

どこからどう見ても幼子(おさなご)にしか見えない。

「十五年あの中にいたって、あんたいくつだい?」

「おれはもともといつ生まれたかわからんのでな。でも、お前たちが生まれる前にはこの姿じゃった。お主たちよりずっと年上のお姉さんじゃな」

嶺巴が聞くと、ミカナはそう言って笑った。

どう見ても時千代よりずっと幼く見える。

「なぜかはわからんが、封魂炉にいると体が年を取らんらしいの」

「・・・うらやましい・・・」

嶺巴が小声でつぶやく。

「さてと、いろいろ話したいことがあるんじゃが、その前に・・・」

ミカナは時千代の顔を覗き込む。

「わ、わたし(時千代)ですか?」

「お主も・・・風が見えるのか?」

「風・・・あの緑色の(もや)のようなものでしょうか?ぼんやりと、ですが」

「うむ、白結丸とこの小僧の霊力によって、おれは吐き出されたってとこかの」

「?」

「さて白結丸」

白結丸に向き直る。

「風結を直したい。慶秀を探そう」

「慶秀?」

「ああ、楠慶秀。楠流の後継者じゃ。この御体を作った御体匠じゃ」

「楠流!?」

白結丸と嶺巴は顔を見合わせる。

「おれたちは御体を直すために、楠流の棟梁に会ってきたんだ。だが、御体匠は知らんと言っていた」

「ほう。ならばどこかに身を隠しておる。白結丸、お主の父が紀基の首を狙って乱を起こしたのは知っておるな?」

白結丸は頷く。それは母からも、婆からも、天狗からも幾度となく聞かされている。

だから父の無念を晴らすためにも、緋家を打倒さなくてはならない。

「その時、お主の兄、宗矢がこの風結で戦った」

「兄上が!?」

兄の宗矢は伊豆へ流されて死んだと聞かされていた。

父の乱に御体で参じたということは、伊豆から都へ戻ってきたということではないか。

「宗矢はおれに、おれの父の仇を取ってくれると約束した。だが、果たすことができず、何度も何度もすまないと言っておった。だが、いずれ自分の弟か、子が果たしてくれると」

「では、宗矢兄上は生きておるのか!?」

「それはおれにもわからん。じゃが、希望はある」

宗矢は霞家の御曹司で、白結丸とは腹違いの兄である。白結丸にはもう一人、宗矢と同じように伊豆に島流しになった同腹の兄、宗近がいる。生まれてすぐ蔵馬へ預けられた白結丸は母以外の肉親には会ったことがない。もちろん、会うことなど許されてはいなかったが。

「で、その慶秀ってのをを探す手がかりは?」

「うむ、すまんがわからん」

ミカナは首を横に振る。

「それはそうと、お主らの後ろにいるのは何じゃ?」

全員が後ろを振り向く。

そこには―――青白い顔があった。

「ぎゃあああああああ!?」

三人の叫び声は静かな森にこだました。

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