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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
序章 暁 あかつき

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0-13 赤月ノ章 十三

天海はすでに宮中でも名の通る陰陽師として弟子も多い。

だが、ミカナの持つ天賦の才に天海は惚れ込み、どこへ行くときもミカナを連れて行くようになった。ミカナも天海のことをとても敬っていた。


ミカナは天海に拾われたことをとても幸せに思っていた。

いつか、それが失われる日が来ると思っていなかった。


天海はその日、富士江成親(ふじえなりちか)という成り上がりの貴族の屋敷に来ていた。

緋家の恩恵によって下級貴族の仲間入りをしたばかりの男の屋敷だった。

成親の息子、万成(まんせい)が奇妙な病に罹り、医者も匙を投げたという。

天海は奇病ならミカナの力が役に立つのではないかと、その日もミカナを連れてきていた。

万成が床に就いている部屋に入るなり、ミカナは顔を歪ませた。


床に寝かされたままの万成は息も荒く、顔は青ざめて目は開いているが、焦点が定まらず遠くを見ていた。


天海も、何か嫌なものを感じ、すぐに儀式の準備を始めた。まず、水で口をゆすぎ、手を洗い身を清める。人型に切った紙に息を吹きかけ、穢れを祓う。香を焚き、木でできた人形を万成の枕元に置く。さらに部屋の四隅に塩を盛る。本来なら神社などの祭壇に移して行う儀式だが、万成の身を案じて、この部屋の四隅に紙垂しでを飾り、聖域とした。

東西南北の神の使いに印を結び、祝詞を唱える。

「天津神、国津神、八百万の神々よ、今ここに迷ひし禍つ霊を見そなはし給へ!幼き御子へ宿りし穢れ、速やかに祓ひ退け給へ。鏡に映す光のごとく、玉に宿す霊みたまのごとく、我の神剣の鋭き刃をもて、縛り慎め、御代の国へと送り奉らむ。畏み畏み・・・」

万成の枕元の木の人形がカタカタと揺れだす。同じように万成の体も苦しみだす。悪霊たちが万成の体を離れ、身代わりの人形へ吸い込まれる。そして穢れの波が途切れた瞬間、天海は木の人形を松明に投げ入れる。紫色の煙を発し、一瞬で木の人形は燃えてなくなった。


万成は体の震えが止まると、目を閉じて静かに寝息をたて始めた。

天海は全身から汗が噴き出ていた。

ミカナの目からはまだ万成には穢れらしき”風”が漂うのが見えたが、これ以上は万成の体がもたないのもわかっていた。


「どうじゃ?見えるか?」

天海はミカナに尋ねた。

「少し・・・・じゃが、これ以上は・・・・・」

「・・・・そうじゃな。できるのはここまでであろう」

天海はミカナの肩に手を置いた。


そばで見ていた成親が、万成が目を閉じて眠り出したのを見て、聖域の中へ入ってきた。

「治まったのか!?万成は助かったのか!?」


それを見ていたミカナは、どうにも我慢が出来なくて口を開いた。

「おい、貴様、聖域に清めもせずに上がるとは何事じゃ!それに、この子はお主のせいで病に苦しんだ!何をしてきたのか知らぬが、お主に付きまとう怨みや生き霊がその果てぬ恨みを、この子で晴らそうとしているのじゃ!」


「な、何を!?この小娘めが!わしが誰かわかってものを申しておるのかっ!?」

成親は腰の刀の柄に手をかけた。

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