表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとつ、風を結いて  作者: ひろくま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/37

12 風結ノ章 十二

「ふははっははっ!!」

信典が突然狂気じみた笑い声をあげる。

「何か、おかしいこと言ったかい?」

嶺巴が眉を顰める。

「当たり前だ!こっちには人質がいるんだぞ!」

「・・・人質?」

ああ、そういえば皆秀が縛られていたっけ。

「これ以上下手な真似をすれば、こいつには死んでもらう!」

信典は刀を抜き、皆秀の首に当てた。

「ぐぅう!むぎゅう!!」

「好きにしろ!行くぞ!!」

「おーっお、おおい!?待て待て待て!!!」

「なんだよ、面倒な奴だな・・・」

白結丸が呆れ顔でいう。

信典はひどい冷や汗をかいている。

「人質を見捨てるやつがあるか!!人でなしめっ!!」

お前が言うかぁ・・・。

「しょうがないねぇ。いいかいあんた、そいつを殺したら遠慮なくあたしたちはあんたを殺す!そいつを殺さないなら安心してあんたを殺す!それだけだ!」

「ぐうっ!」

ぎりぎりと歯を食いしばる音がする。

「ぐぅっ!?ふがふがっ!」

皆秀が抗議をしているようだが・・・何を言っているかわからないので割愛。

「さあ、どうする!?」

嶺巴が信典に切っ先を向ける。

「ふっ、ははははっははははははっは!」

「またあたし、おかしいこと言ったかねぇ?」

「このおれ、佐伯信典が何の備えもなくここへ来ていると思ったか!!」

信典は急に踵を返すと、楼閣の闇の中へ走っていった。

「逃げてっちゃった・・・」

嶺巴は皆秀の猿轡をほどく。

「はあぁ、嶺巴さん、白結丸殿、罠だっ!」


ずぅん・・・ずぅん・・・ずぅん・・・ずぅん・・・。

「御体か!?」

白結丸は楼閣の闇に向かって刀を抜いて構える。

「ひぃっ!!縄をほどいてくださぃぃぃ!!」

「来るぞ、嶺巴!!」

嶺巴も姿勢を低くして抜刀する。

闇の中からその姿を現す。風結や蒼刃よりやや小型だが、人の倍ほどある背丈。

赤く塗られた鉄の鎧は夕焼けにより赤くkが焼いている。

「驚いたか!これぞ紅衛鎧(こうえいがい)二式(にしき)”!御体を用意していたとは思うまい!!」

誇らしげな信典の声が響く。

「・・・たしかに御体があるとは、ちょっと厄介だね」

「・・・ほ、ほどいてぇー!」

信典は朱色に塗られた御体を走らせ、白結丸目掛けて突進させる。

右腕の一振りを白結丸は跳んで躱す。

嶺巴が跳び込んで一閃するが、堅い装甲に弾かれる。

「おおおおおお?」

手にびりびりと痺れが走る。

「ふははっは!どうだ、(いくさ)のために作られた中型御体だ!人の力では倒せまい!!おれは痛くも痒くもないぞ!」

二式ははお構いなしに腕を振りまわす。

壁の上に飛び乗る白結丸を狙って拳を叩きつける。

間一髪で避けた白結丸の足元で、壁が粉砕される。

「どこまで逃げられるか?」

動きの速さは二人が上回るが、御体の装甲は鉄壁で、斬撃は表面を掠るだけで、繰り手の信典にも痛みは通らない。

「なんだよあいつ、堅すぎて傷がつかない!」

「落ち着きな、白結丸!あいつ、動きが鈍い!鉄の重みで早く動けないんだ!」

「わかった、避けながら弱点を探そう!」

二人は二手に分かれて攪乱する。

「くそう、ちょろちょろと跳ねおって!」

二式が拳を振るうたびに、瓦礫が皆秀の頭上に降り注ぐ。

「ひいぃいいい!ひゃああぁあぁ!死ぬぅ!死んじゃうぅ!」

縛られたまま、皆秀が身もだえする。

「皆秀っ!!」

その声の方を見ると、中庭の入り口に立つ、重蔵。

「親方!?」

「何だこりゃ、どうなってる!?」

「親方ぁぁぁぁぁ、助けてぇええええ!でもぉ、こっち来ないでぇぇ!危ないからぁぁぁぁ!!」

泣き叫ぶ皆秀に、重蔵が吼える。

「どうしろってんだよ!?とりあえず、行くから待ってろ!!」

重蔵が皆秀に向けて一気に駆ける。

「嶺巴!重蔵だ!重蔵がいる!ここから御体を引き離す!」

「承知!」

二人は御体の注意を引きつけ、重蔵と皆秀から遠ざける。

瓦礫をよけながら、重蔵は皆秀のところへたどり着く。

「今、ほどいてやる!」

「親方ぁあああああ!うわぁああああぁ!」

「情けねぇ声出すな!力が抜ける!」

だが、堅く縛られた縄は、なかなかほどけない。

「くそっ、堅い!何か斬るもんでもありゃ・・・」

「親方ぁ、もういいですよぉう。危ないから逃げてぇ!」

そうこうしている間にも、瓦礫のつぶてはひっきりなしに飛んでくる。中庭を囲む、高い壁がグラグラとし始める。

「白結丸、壁が倒れそうだよ!気を付けて!」

「このまま御体が暴れたら、羅城門が崩れる!急ぐぞ!」

とはいえ、飛び回る二人にも疲労の色が出る。

「建物の中へ誘導しよう!」

二人は羅城門の楼閣の中へ飛び込む。

「逃がすかぁ!!」

信典の二式も、二人を追って建物の中へ消える。

「あの二人が時間を稼いでくれた!ほどくから待ってろ!」

「うへぇぇぇ・・・親方ぁ、ありがとうございますぅ・・・」

涙と鼻水を垂らす皆秀。

「でかいくせにめそめそすんじゃねえよ!そういうとこを直せってんだ!」



楼閣の中の柱を縫って、白結丸と嶺巴は二式を威嚇しながら走り回る。

「ちきしょう、めんどくさい奴らだ!!」

信典は半狂乱で、あたりかまわず拳を振るう。

柱が砕け、壁に穴をあけ、羅城門が次第にギシギシと悲鳴をあげ始める。

「嶺巴、そろそろ限界だ!」

「何とかこいつを倒す方法・・・!考えろ、あたし!」

御体の振り回す腕の間をすり抜けながら走り回る。

時折刀の一閃を与えるが、御体にはほとんど効いていない。

「くそっ!」

ふと天井を仰ぐ。

羅城門の広間は四隅と中央に太い柱がある。二階より上は吹き抜けになっていて、柱に沿うようにらせん状の階段が作られている。が、そのいくつかは壊れ落ちている。

「壊れ落ちている?」

嶺巴が御体と距離を取り、向き合う。

「嶺巴!?」

「信典!!あんたはさっきから腕ぶん回すしか能がないみたいだけど、動きが鈍すぎてあたしたちを捕まえるにはてんで話にならないね!!」

「何だと!?」

「ここだよ!逃げないから、捕まえてごらんよ!できるもんならね!!」

「ふざけるなあっ!!」

二式は嶺巴目掛けて突進する。

「来た!」

「嶺巴っ!!」

二式が嶺巴を捕まえようと手を伸ばす瞬間、嶺巴は跳んで躱す。

二式はそのまま勢いを殺せず、嶺巴の後ろにあった中央の太い柱に衝突する。

「白結丸!外へ逃げるよ!」

二人はそのまま中庭の方へ走り出す。

「逃げないと言っただろうがぁ!!!」

信典が叫ぶと、二式がぶつかった中央の柱がメリメリと音を立てて倒れ始める。

「はい!?」

折れた柱は二式の上に倒れてくる。

ずぅうううううん!!

轟音を立てて柱が倒れ、羅城門の楼閣が二式の上に崩れ落ちてくる。

「うわぁあぁああああああああ!!!」




「くそう、ほどいてもほどいても結んでありやがる!!」

重蔵はまだ縄と格闘していた。

「・・・なんか、変な音がしますよ・・・」

「そんなこと、言ってる場合か!?」

後ろを見ると、羅城門の楼閣が音を立てて崩れ始めた。

「ひいぃぃっ!?羅城門が、羅城門が崩れるぅ!?」

「ちきしょおおおおおおおめおえいぃぃぃぃぃ!!!」

重蔵は怒声を上げると、皆秀の縛られている杭ごと引っこ抜いた。

「ぐおおおおおおおおおおおっ!!」

「ひぃっ!?親方ぁ!!」

重蔵は丸太ごと皆秀を担ぎ上げると、一目散に走る。

砂塵の中、白結丸と嶺巴が飛び出してくる。

「逃げろ逃げろ逃げろ!!」

嶺巴が叫ぶ。

その時、白結丸のまわりを風が渦を巻きするっと抜けた。その風は誘うように漂い中庭の角の一角に集まっていく。

「こっちだ!!」

白結丸は重蔵と嶺巴を引っ張ると、瓦礫の炭に転がり込むと同時に、ずどおおん!!という轟音の後、強烈な風が瓦礫を巻き上げながら通り過ぎる。視界が消え、細かい礫がバシバシと飛んでくる。

「ひぃいいいいいい!?」

丸太に縛り付けられた、皆秀が暴風に吹き飛ばされる。

「皆秀ーーーーーっ!?」

重蔵が叫び、手を伸ばす。白結丸と嶺巴も手を伸ばすが届かない。

「うわっ!?」

砂塵が三人の視界を奪った。



そして訪れた静寂。

一同が顔を上げると、あたり一面瓦礫の山だった。

脆くなっていた高い壁はすべて崩れ、小高い山となって一面に広がっていた。

羅城門の楼閣はすっかり形を失い、土と木のかけらが高く積もっていた。

「みんな、生きてるかい?」

嶺巴の声がする。

「おれは大丈夫だ」

白結丸が瓦礫の中から立ち上がる。

「皆秀は!?」

重蔵も砂だらけであたりを見渡す。

「・・・・・・・ぉーーーーぃ!」

「・・・皆秀の声だ!」

「お、おい、あそこ!」

瓦礫の上に鎖で巻き付けられた丸太と皆秀、その鎖の先は・・・あの小御体。

「・・・通さん!」

「はぁぁぁぁ・・・・」

全員が安堵のため息を漏らしてその場にへたり込んだ。

「ほどいてぇくださぁぁいぃ!!」




「こいつがおれを助けてくれるなんて・・・」

ようやく解放された皆秀が、小御体を見つめる。

「こいつなりに恩を感じていたのかな?」

白結丸が言うと、小御体は敵意丸出しの顔を向ける。

「な、なんだよ!?」

「通さん!」

「それしか言えないのか?」

「通さん!」

「通らん!!」

ぎぎぎぎ!二人は睨み合う。


「それはそうと、どうしてここに重蔵が?」

「ああ、これだ・・・」

佐伯から届いた石文を見せる。

「ははん、重蔵、破門したくせに、弟子が気になって仕方なかったんだねぇ」

嶺巴がにやにや笑いながら言う。

「そ、そんなことねえ!こいつは御体匠になりてえんだから、木工職人のおれとは道が違うって言ってんだ!」

「・・・親方・・・・」

涙目の皆秀がじっと見上げる。

「お。おい。そんな目で見るんじゃねぇ!やめろ、くっつくな!」

「あらまあ、素直じゃないねぇ。職人ってのは、まったく」




「これだけ騒いじまったから、すぐに緋家の追っ手が来る。あたしたちは一度引き上げるよ。皆秀、あんたはどうする?」

「・・・どうするって?」

皆秀はキョトンと嶺巴を見る。

「せっかく、重蔵が命懸けで助けに来てくれたんだよ。御体匠になるのは、木工を極めてからでも遅くないと思うけどねぇ」

「・・・・・」

「おれたちが必要なのは御体匠だ。職人じゃない。それに、今回みたいにいつ緋家と戦うことになるかわからない。いつでも戦えるような備えが必要なんだ。」

「そうだね。あたしも、できるかどうかわからない職人じゃなくて、御体匠に命を預けたいよ」

「あんたたち・・・・。ありがとう。いつか、立派な御体匠になる!その時、あんたたちの御体を直させてくれ!」

皆秀が袖で涙を拭う。

皆秀は二人に一礼した後、重蔵を追いかけて夜の中に紛れて行った。

「待ってください!!親方!!」

皆秀の声だけが残った。

「さて、白結丸。完全に振出しだね」

「結局、羅城門を壊しただけだったなぁ。疲れた」

「違いないね」

二人は暗くなった夜の街道を歩き出す。

「で・・・・・・・」

嶺巴がちら、と後ろを見る。

「何であの小御体はこっちについてくるんだい?」

「・・・・・・」

二人の後ろにはガシャガシャ歩く四本足がゆっくりついてくる。

「・・・・通さん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ