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元義兄、日常に戻る。

「時間停止系のジャンルって男のロマンだとおもうんだよ」


 いつもの日常が戻ってきた。大学には毎日通っているけど、まりあちゃんの騒動が一段落すると、日常の象徴である大学の食堂が落ち着くし安心する。


「ほら。よくあるだろ? ボタン押すと人と時間が止まるって。ジョジョでも使われてる設定だけど、自分だけが動けてる世界ってワクワクするじゃん。透明人間になって好き放題するのと同じ魅力があるわ~。本当になにしてもいいのか!? 大丈夫なのか!? っていう不安がまたいいっていうか」


 カレー上手いな。なんだかんだで安いけど、辛さもコクもあってこれで四百円は安い。 


「時間をとめて女の子の服を脱がせたあとに時間を再始動させて恥ずかしいめに合せるのもいいけど、AVだと地味に女優が動いちゃったり感じちゃってるからどうしてもリアリティーに欠け――」

「やかましいわっっ!!」


 だめだ。スルーできない。


「なんだよ瞬。食事中にツッコむなんてお笑い芸人か?」

「食事中にキワモノのエロ談義を語るお前はなんなの!?」


「というかお前どうしたんだよ・・・・・・・・・オネェになってたのにいつ戻ったんだよ」

「ふん、愚問だな。俺を誰だとおもってやがる? 俺の名を言ってみろ」

「長井健二だろ」

「実はあっちゃん、高校時代の友達が急に来てさぁ」


 あっちゃん。里見の恋人でだった男が話題に出て動揺してスプーンを落としてしまった。


「お、おう悪い。それで?」

「んで妙にAVとか貸してた物とか返してくれて、一緒に酒を飲んだ勢いで遊戯王でバトルしたんだ」


 毎回のことだけど、こいつと敦(仮称)が会うとき妙に中学生じみてない?


「でもデュエルディスクがなかったからお互いのケツにデッキを挟めてドローしてケツが耐えられなくなったほうも負けっていうルールでバトってたんだが」

「お前等の遊戯王の概念おかしくない!?」

「そのとき、奇跡がおこったんだ」


 汚い奇跡だなおい。


「封印されしエクゾディアってありますよね・・・・・・あのカードを場に出したとき・・・・・・あれ・・・・・・なんていうか・・・・・・・・・その・・・下品なんですが・・・フフ・・・・勃起・・・・・・・・・しちゃいましてね」

「ええ・・・・・・・・・(ドン引き)」


 なにこいつ。ええ? なんでそんな特殊なことしてて勃起するわけ?


 頭おかしいだろ。


「きっと肛門括約筋を激しく締めたことと前立腺がカードドローのときに刺激されたことで血管が圧迫されて睾丸と陰茎に力が加わった結果だろう。おもわず泣いちまったよ。封印されしエクゾディアは揃わなかったけど、俺のが解放されしエクゾディアというね」

「やかましいわ! そんなど汚いエクゾディア禁止だわ!」

「大丈夫。怒りの業火 エクゾード・フレイムも撃てますよ?(ニッコリ)」

「上手くねぇんだよ!」


 それとなく睾丸復活手術とか泌尿器科とか調べてた俺の友情を返せ。


「おもえば俺のオネェ化はJK達に激しく攻撃されてたダメージを受け流すための逃避、脳が苦痛を紛らわせるためにしたことなんだろう。人体って不思議だよな」

「不思議なのはお前だ。よくもまぁそんなに論理的に考えられるもんだな」


 なにこいつ妙に説得力のある説明を笑い泣きながらしてんだ。おかしいだろ。


「とまぁそんなわけで! これからは蘇った俺、嫌。新しく蘇った長井健二をよろしくお願いするわ!?」


 ウインクとピースをしながらいつものテンションの健を見ていると、呆れるやら感心するやら・・・・・・・・・。


 というか最後若干戻ってないか?


 なんにしろ、良かったことに変わりはない。


 これでこいつには罪悪感を抱きながら接することはなくなるわけだし。


「その敦(仮称)とはいつもどおりなのか?」

「ん? おうよ。あれ? お前にあっちゃんの名前教えたっけ?」

「!? お、教えた教えた! お前忘れたのか!? 馬鹿だなぁお前は! 金玉潰すぞ! それともまだJK達の非道のダメージが残ってるんじゃねぇか!?」

 

 そうだっけか? と頭を傾げる健に、内心ヒヤヒヤする。もう終わったことだけど、もし敦(仮称)がまりあちゃんとれみちゃんに乱暴を働いたと知ったら。


「そんなことよりも学園祭だ学園祭! もうすぐだろ!?」

「あ~~。せやな」


 大学を挙げてのお祭り。一年に一度の催し物の時期が近づいてきているから話題を転換するのは造作もなかった。


 それぞれの研究室、学科、生徒達が屋台をやるだけじゃなく、どんな研究をしているか来園した人達にアピールする機会とあって、生徒も教授も毎年力を入れている。本格的なお祭りと比べると小さいけど、毎年待ち遠しいイベントには違いがない。


「今年はミスコンやるのかね? 先輩が出てくれたらいいんだけどな~~。水着とか」

「それな。ハイレグとかビキニとか」

「もしくはライダースーツもありじゃね?」

「ああ~~~! 似合いそうだわ~~! スーツだと手軽だけど美人教師ってかんじもできるし!」

「それと眼鏡とガーターベルトもセットな!? それか女医かナース服!」

「いいな! 定番でも! 夢広がるな! なんだったらボディーペイントも――」

「いや、それはないだろ」

「はぁ?」


 くそ。ロマンのわからない奴め。


 ちょっとずつちょっとずつ汗でペイントが無くなってきて恥ずかしさと焦りと周りの怪訝さに悶える先輩見たくないのか?


 俺は見たいね。


「第一どうやって先輩にさせるんだよ。現実的に」

「かあああああ! こいつは! そこで現実持ちだす!? じゃあいいよほぼ全裸みたいな服をペイントして時間が経つと溶けたり汗で消えていくっていう服着せればいいじゃない!」

「なに逆ギレしてんだよ。お前頭おかしんじゃね?」


 こいつにだけは言われたくねぇ!


「でも先輩がどんなコスプレするかわからないけど折角だし俺一眼レフ買っちゃおうかな!」

「じゃあ俺ビデオカメラ買うわ!」

「写真よこせよ!?」

「お前こそダビングしてデータよこせよ!?」

「「・・・・・・・・・出てくれないかな~~~・・・・・・・・・」」


 男同士のキャッキャウフフとした下世話な盛り上がりから一転。絶対にありえない妄想を語っていた虚しさが突然襲ってきた。


 わかってる。こんなの全部無理だって。


 例え俺達が土下座をして一生あの人の奴隷になると頼みこんでも出てくれないだろう。


 先輩は毎年何人かにミスコンに出てくれるように頼まれていたけど絶対に断っていた。実行委員会直々に懇願されても袖にされるくらいだ。

 

「先輩と回れたり楽しめればそれでいいかな」

「おいおい。お前は別の子がいるだろ」

「あ? 誰?」

「れみちゃんだよ」


 え、と想像していなかった相手の名前が出て、はたと考えこむ。


「れみか・・・・・・そういえば呼ぶなんて考えてなかったな」

「この最低兄貴め」

「いや。だってなぁ?」


 正直、れみを呼ぶのは気が重い。


「もしかしたられみと一緒にお袋も来るかもしれないし」

「あ~~~~・・・・・・・・・そういうことか」


 お袋にはまだ連絡はできていないが、学園祭は会うのに最適なイベントを見逃すわけがない。お袋との仲を改善したいとはいえ、きっとギクシャクしてしまうだろう。


「でも、想像してみ? れみちゃんと一緒に屋台を巡ったりするだろ? そのときテンション上がって楽しそうにしてるれみちゃんの顔見たくないか?」


 れみと一緒に・・・・・・・・・?


 小さいとき、何度か地元の祭にいったことがあるから自然と想像できた。


 綿飴と焼きとうもろこし、りんご飴。焼きそばお好み焼きを頬張りあいながら大学を巡る妹の笑顔。脳裏に浮かぶ。


 それでれみに学科の出し物や発表を一緒に観て、


『兄さん。待ってください』


 人混みが凄いからはぐれそうになって手を繋ぐ。少し照れたかんじで怒っているようなかんじが、ありえそうだ。


「今年は花火もあがるらしいぜ?」


 花火か。れみは喜ぶだろうか。


『奇麗ですね、兄さん』


「空を彩る色とりどりの花火が咲いて、明るく照らし出す。普段よりも何倍も奇麗なれみちゃんから、お前は目が離せなくなる」


 そう。そして、そのまま二人の顔が近づいていって―――


「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 なにを想像してんだ俺は・・・・・・・・・。


 あっぶねぇ・・・・・・・・・。妄想とはいえ妹にキッスしちゃうとこだったじゃねぇか・・・・・・。


「勃起するだろ?」

「死ね!」


 まるで妹を意識しているみたいで自分が自分で嫌になる。


「というかれみちゃんも一緒にいれば少しは気まずさが紛れるんじゃないか?」

「だからこそだよ・・・・・・・・・これ以上れみに無理させたくない」


 正直、俺とお袋のこと、父親に関係を認めさせるためにあの子には苦労させっぱなしだ。自分の情けなさゆえだけど、そこまで世話をかけるのは申し訳ない。


「そうか。わかった。なら俺も一緒に回るよ。それとまりあちゃんも呼ぶとか。大勢のほうが気が紛れるだろ」

「悪いな・・・・・・・・・」

「いいってことよ。それに小田先輩も一緒ならワンチャン、いやワンナイあるかもしれないし?」

「そっちかよ」

「でも、先輩最近大学来てないらしいんだよなぁ。今日も研究室いないみたいだし」

「まじか。なにかあったのかな」


 正直、まりあちゃんのこととお袋のことでいっぱいいっぱいだったから先輩が大学に来ていないということに気づけなかった。


「でも大丈夫だろ。あれだけ研究と大学が好きな人なんだからそのうち来るって」

「そうかもな」


 けど、連絡くらいはしておこうかな。


 先輩にはお世話になりっぱなしだし、もしなにかあって大学に来れないんだったら力になりたいし。


 なんせ小田和先輩は俺達皆のお姉ちゃんだしな。

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